ソーラーシェアリングは5年間でどう進化したのか?/千葉エコ・エネルギー(vol.115) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

いま、全国の発電事業者からソーラーシェアリングが熱い注目を浴びています。ソーラーシェアリングとは、農地の上に太陽光発電を設置することで、太陽の光を発電と農業の両方に活用する事業。以前のリポートでは、小田原の取り組みも紹介しています。売電が主な目的ではなく、農業を持続可能にしていくためのツールとして取り組まれています。

 

 

 

 

 

今回は、そんなソーラーシェアリング発祥の地で、現在も全国でダントツの設置数を誇る千葉県を訪問しました。2018年3月に稼働を始めたばかりの設備に案内してくれたのは、「千葉エコ・エネルギー株式会社」代表、馬上丈司さんです。千葉エコ・エネルギーは、ソーラーシェアリング事業に加えて、各地の自然エネルギーの取り組みのコンサルタント事業も手がけてきました。ソーラーシェアリング事業が始まって5年、全国の取り組みをサポートしてきた馬上さんに、ソーラーシェアリングをめぐる環境がどのように変化してきたかについて伺いました。

千葉エコ・エネルギーの馬上丈司さん

 

◆  トピックス

・パネルの下の作物の方がよく育つ?

・よみがえった耕作放棄地

・5年間で乗り越えた課題とは?

・ソーラーシェアリングは次のステージへ

 

◆パネルの下の作物の方がよく育つ?

 

猛暑が続く2018年夏に訪れたのは、千葉エコ・エネルギー株式会社(以下「千葉エコ」)が設置し、2018年3月に稼働を始めた「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」です。発電出力はおよそ777キロワット、およそ2800枚のパネルが農地の上に並びます。農作業はプロの農業者ではなく、馬上さんをはじめとする千葉エコのメンバーが新規就農して手がけています。

 

栽培している作物は、落花生、サトイモ、サツマイモ、ナス、シシトウなどさまざま。たくさんの光を必要としないイモ類や葉物野菜は、ソーラーシェアリングと特に相性が良いとされています。どれもパネルの下で青々と成長していました。特にサトイモは大きな葉っぱを繁らせ、パネルのない所で育てている通常のサトイモよりもずっと発育状態が良好です。特に今年のような猛暑では、暑すぎる直射日光が作物に悪影響を与えるため、ソーラーシェアリングの日陰を作る効果は現れているようです。

 

また、夏でもイチゴを採れるようにと、近隣の農業法人と共同で試験栽培をしています。通常、イチゴは冬にビニルハウスの中で育てられます。夏の太陽の下では熱すぎてダメになってしまうのですが、パネルによって遮光・遮熱される効果により、いまのところ順調に育っていました。

 

 

人の背丈ほどもある植物は、ソルゴーという名のトウモロコシの仲間で、食用ではなく有機肥料として使われます。千葉エコが運営するソーラーシェアリング農場では有機農法を目指しているため、この植物を草刈機で刈って地面にすき込んでいきます。化学肥料を使う農業ではあまりなじみがないのか、周囲の農家からは雑草と間違われることもあるとのこと。刈り取った跡地には、ニンニクを植える予定になっています。

 

馬上丈司さんと、青々と茂ったソルゴー

 

◆  よみがえった耕作放棄地

 

千葉エコが自社で保有するソーラーシェアリングの設備は、上で紹介した「大木戸アグリ・エナジー1号機」(千葉市)の他に千葉県匝瑳市飯塚地区に3ヶ所あり、合計出力は955キロワットになります(2018年8月現在)。その他にも、一部出資している案件がいくつかあります。

 

匝瑳市の3施設では、「スリーリトルバーズ」という若手の農家グループが大豆や麦などを育てています。スリーリトルバーズは、ソーラーシェアリングを広げるために千葉エコや地元農家が出資して、2016年2月に設立した農業法人です。千葉県匝瑳市で有機栽培を手がける農家が中心で、雇用の一部には売電収入も使われています。農地はいずれも耕作放棄地だったところです。

 

「売電収益は順調に入ってきていますが、大変なのは農業です。耕作放棄地だった農地を回復させ、事業として回していくのはひと苦労でした。最初は設備投資もあるので人手とお金がかかります。そこを売電収入でサポートできればいいと思います」(馬上さん)

 

ナスも順調に育っていた

 

飯塚地区の土地は長いあいだ耕作放棄地だったので、土も固くあまり良い畑にならないと言われていました。しかし、2〜3年かけて丁寧に土作りを行ったことで、最近では大豆や麦がきれいに生え揃い、収穫量も安定してきました。麦は、大麦と小麦を栽培し、大麦はビールに、小麦は製粉して国産小麦として出荷していく計画です。

 

「千葉エコも含め、匝瑳市飯塚地区の各地にソーラーシェアリングができたことで、同地区内にある耕作放棄地の半分が解消するめどが立ってきています。この規模は通常の農業政策だったらありえないことです。ソーラーシェアリングが新しい現実をつくっているのです」(馬上さん)

 

千葉エコが出資するプロジェクトでは、2018年8月現在、匝瑳市飯塚地区の耕作放棄地だった20ヘクタールのおよそ半分である10ヘクタールを、ソーラーシェアリングによって回復させました。これは、東京ドーム2個分以上の面積です。

 

ソーラーシェアリングの下のサトイモ。葉っぱが元気に伸びている。

こちらはすぐ近くにある普通の畑のサトイモ。生育状況はパネルの下のほうが良い。

 

◆5年間で乗り越えた課題とは?

 

農林水産省がソーラーシェアリング事業を認可したのは、およそ5年前の2013年4月です。その後、ソーラーシェアリングをめぐる環境はどのように変化したのでしょうか?ソーラーシェアリングには「自然エネルギーを増やしながら、地域の農業振興に結びつける」という一石二鳥のコンセプトがあります。しかし当初は実践例が少なく、「本当に二兎が追えるのか」という不安の声が外部の企業や金融機関などから出ていました。

 

影の部分も移動するので、さまざまな作物の栽培が可能だ。

 

「疑問視されていたのは事業としての採算性です。すき間を開けた太陽光発電で元が取れるのかということと、ソーラーパネルの下でちゃんと作物が育つのかという2点です。そのため、金融機関からの融資が受けにくい状態が続いていました。また、当初はチャレンジ精神のある個人の農家が、自分の土地でひとつずつ設置するところから始まりましたが、農家はすでに農業機械の購入などで複数のローンを抱えている人が多く、新たな融資が受けにくいという事情もありました」(馬上さん)

 

2014年になると、耕作放棄地の問題を解消したいと考えていた千葉県匝瑳市飯塚地区が、地域ぐるみでソーラーシェアリングに取り組むようになります。また、原発事故の影響を受けて地域の農業の行方に頭を悩ませていた福島県南相馬市でも、「えこえね南相馬」という団体が中心となり、ソーラーシェアリングを実験的に広げていきました。手がける人は少しずつ増えても、事業への信用と資金調達の問題はついて回りました。

 

転機となったのは2016年。匝瑳市で出力1メガワット(=1000キロワット)の大規模施設、「メガソーラーシェアリング」のプロジェクトが動き始めてからです。最終的に城南信用金庫などの金融機関が融資したことで、設備は2017年3月に完成しました。なおこの事業には、千葉エコも出資をしています。かつてない規模の事業に金融機関が融資したことは、大きな実績となりました。

 

メガソーラーシェアリングの稼働式には、小泉元首相(中央右側)らが駆けつけた。左端が馬上さん。

 

また、2013年や14年あたりに始めていたソーラーシェアリング事業で、さまざまな実証データが揃うようになりました。太陽光発電で収益が上がることや、パネルの下で数十種類もの作物が栽培できることが証明されるようになったのです。そのような積み重ねが、企業や金融機関の信用を高め、資金調達ができるようになりました。

 

馬上さんは、この5年間の変化についてこう語りました。「これまでのソーラーシェアリングは、お金持ちか、あるいは良い意味での変わり者しか手を付けられませんでした。でもこれからは、やりたいと思えば誰でもできるステージに入ってきたと思います」。

 

◆ソーラーシェアリングは新しいステージへ

 

試行錯誤を経て、ソーラーシェアリングは新しいステージに入りました。次の課題は、認知度の低さです。発電事業者には知られるようになりましたが、農業者にはまだまだ知られていません。そこで馬上さんは、ソーラーシェアリングを積極的に支援している城南信用金庫の吉原毅顧問とともに、全国をめぐってセミナーやシンポジウムを昨年から開催しています。

大木戸アグリ・ソーラーでは、さまざまな実験も行っている。これはビニルハウスに見立てた倉庫の上に設置できる可動式のソーラー。発電しながら、強すぎる日差しをカットすることもできる。

 

「以前より増えたといっても、ソーラーシェアリングを実施しているのは日本の農地面積450万haの0.01%以下にすぎません。情報も実績も不足しているので、全国で農業に携わっている人たちには、まだまだ知られていない。そこで千葉エコとしては各地で取り組みを紹介し、可能性を感じてくれた農家さんにコンサルという形で協力しています。それも単なるコンサルではなくて、自分たちで発電も農業もやっているプレーヤーとしての実績がありますから、一緒に取り組みを進めていくことができます」(馬上さん)

 

ソーラーシェアリングをめぐる状況は、めまぐるしく変化しています。数多くの発電事業者が参入してきたことで、農業がおまけのような扱いをされている事業も増えてきています。また「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)」の買取価格が下がってきたことで、今後のあり方をどうしていくのかという模索も始まっています。持続可能な農業を実現するために、ソーラーシェアリングで何ができるのか、課題と可能性について、次回も馬上さんに話を伺います。

 

◆お知らせ:映画「おだやかな革命」上映情報!

 

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」が全国で公開中です。(当リポート筆者の高橋真樹は、この映画のアドバイザーとして関わっています)

 

詳しい場所と日程は映画のホームページから上映情報をクリックしてご確認ください。