第94回:オドロキの「低燃費住宅」宿泊体験!(夏編)〜高断熱の家は夏あつい? | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

省エネそして快適な住まいの「低燃費住宅」への宿泊体験のリポート、第二弾は夏編です。低燃費住宅の部屋では冬でも暖かかったり、部屋によって温度差がないのでヒートショックなどが起こりにくいことを紹介しました。では、夏の蒸し暑さに対してはどうなのかについて気になるところだと思います。今回は夏にポイントを絞ってお伝えします。

川越モデルハウスの大きな吹き抜けとシーリングファン。家全体で空気がよく循環するようになっている。

 

◆今回のトピックス

・真夏の一軒家を冷やすのに必要なエアコンは?

・窓のある魔法瓶

・湿度はどうなる?

 

◆真夏の一軒家を冷やすのに必要なエアコンは?

 

一般的に、高気密高断熱の家は冬は暖かいけれど、夏は熱くなると考えている人は多いようです。また、ドイツ式の家では日本の夏の蒸し暑さに対応できないのではないかという懸念もあるようです。

 

確かに一般的な日本の家で単に気密性を高め、断熱材をたくさん入れるだけの工事をしてしまえば、うまく湿気を逃がすことができないケースもあると聞きます。 また、夏の日射をさえぎる方法がきちんと考えられていなければ、窓から入ってくる日差しで暖められた室内の空気が外に出ないため、必然的に暑くなってしまいます。施工会社によっては実際にそういう家をつくっているところもあり、それによって「高気密高断熱は夏は暑い」と考える人が増えたという話も聞きます。

川越モデルハウスの壁面の断面図。一番手前の漆喰が、湿度の調節もしてくれる。

 

では低燃費住宅はどうでしょう?今年8月の猛暑日に、低燃費住宅にお邪魔しました。モデルハウスを施工した齋賀設計工務の方に、川越モデルハウスに再度お邪魔したいと伝えると、ちょうど新しい低燃費住宅の家を埼玉県狭山市で建設中なので、そちらを見に来て欲しいと言われました。

 

「完成していない住宅なのに性能がわかるんですか?」と尋ねたところ、「それがわかるのが低燃費住宅です」という自信満々の様子。 夏の暑さ対策に効果があるんだろうか?さらに、建設中なのにそれがわかるのか?という2つの疑問を抱えて訪問しました。

 

狭山市に建設中の低燃費住宅。断熱に関係する外壁や窓は施工済みだった。

 

当日の狭山市は外気温が33度、湿度が75%の猛暑日でした。バス停から建築現場までわずか5分程度の距離を歩いても汗が滴ってきます。 現場では2階建ての一軒家の外壁や内装などをまさに建設中でしたが、家の基礎や天井、断熱材の充填や窓の設置工事は済んでいました。いわば建物としての躯体はできています。

 

蒸し暑い外から玄関を空けて中に入るとひんやり涼しく感じました。室温はだいたい25度程度、湿度も60%以下に保たれています。もちろんガンガンにエアコンをかけているものと思いきや、なんとエアコンは止まっていました。冬に続きまたしても衝撃を受けました。

内部は完全に工事中。

 

工事中にもかかわらず、室温と湿度は快適に保たれていた。

 

さすがに外は33度なので、ずっとエアコンを使っていないわけではありません。エアコンを止めて30分から1時間ほどすると、温度が2度程度、湿度も5〜6%程度上がってきます。そのときは5分ほど稼働します。それでも2階建ての一軒家で使っていたそのエアコンの性能は、なんと4畳用の簡易なエアコン一台のみ。工事中ということもあって仮に置いてあるものですが、これでも家全体を涼しくするのに十分すぎるほどでした。

 

ときたま動かすエアコンは、4畳用の簡易エアコンのみ!

 

このことは、家の気密と断熱がしっかりしていれば、夏を涼しくすごすために高価な機械に頼る必要はない、ということを意味しているようです。通常の家では部屋の数だけエアコンがないと快適にすごせないのですが、家にまつわるぼくのそのような常識は、この住宅の性能の前にまたしても覆されました。もちろん、気密性と断熱性だけでなく、窓の位置や建物の形や庇など、夏の強すぎる日射を防ぐための数々の工夫もされています。それにしても、なぜこのようなことが可能になるのでしょうか?

 

◆窓のある魔法瓶

 

株式会社低燃費住宅の代表を務める早田宏徳さんは、「家を魔法瓶だと考えてください」と説明します。魔法瓶は長い時間、温かいものを温かく、冷たいものを冷たく保ってくれます。低燃費住宅もそのように設計されているので、冬も夏も対応できるということです。

 

住宅は魔法瓶とちがって窓がついています。いくら断熱してもここから熱が逃げていってしまっては効果がないので、窓に力を入れて樹脂製のトリプルサッシを活用しているのです。それによって、温度が変化しにくい環境がつくられています。

大きめの窓もしっかり断熱することにより、中の涼しさを逃さない、外の暑さを入れないということが徹底されている。

 

以前の記事でお伝えした巨大冷凍庫の中に体感ショールームをつくったYKK APの広報部の方も、さすがにトリプルサッシは日本ではまだ一般的ではないけれど、樹脂製のペアガラスの窓を推奨して、いずれ日本の標準になるようにめざしたいと言っていました。光熱費の削減と夏も冬も快適な空間の両立をめざすために優先すべきは、やはり窓のようです。

 

とはいえ、さすがに猛暑日には外気温の影響を受けます。そのために低燃費住宅では、家に1台だけエアコンを設置して、どうしても暑くなったときに少し動かしています。でも数分もすればすぐにまた家全体が涼しくなるので、同じ時間動かしてもエアコンの消費電力が通常の家とでは大きく違ってきます。このように、従来の家とはエアコンを始めとする家電の使い方がまったく変わってくるのです。

 

8月26日の川越の外気温。日中は35度に達した。

 

同じ時間帯の低燃費住宅(川越モデルハウス)の室温。エアコンに頼らなくても外の気温の変化を受けにくく、25度以上になっていない。

◆ 湿度はどうなる!?

 

室温に加えてぼくが夏に気になっていたのは、あのジメジメする湿度についてです。エアコンの効きが良いので、エアコンをいつもかけていればジメジメすることはありませんが、先程伝えたように、この家はエアコンに頼らなくても湿度はあまり上がりません。その理由は、壁の漆喰にありました。壁の内側にびっしり塗られた漆喰が、湿度が多すぎれば吸収して、自然とコントロール(調湿)をしてくれるようです。そのため、夏もエアコンに頼らず快適な湿度を維持しています。

 

2016年9月には、外の湿度85%だった雨の日に、再び川越モデルハウスを訪れましたが、室内の湿度は床から天井まで、2日間に渡って70%を越えることはありませんでした。

 

 

9月22日に再び川越のモデルハウスを訪問。外の湿度は80%以上だが、室温は快適に保たれていた。

 

部屋の湿度は40%から70%程度がちょうど良い値とされています。それより低ければ乾燥してウイルスが繁殖しやすくなり、高いとカビが発生しやすくなります。カビが増えればダニも増えるので、アレルギーも起こりやすくなります。とはいえ、この範囲内で湿度をコントロールするのは、除湿機や加湿器を使ったとしてもなかなか難しいことです。それがこの住宅では実現していました。

 

ぼくはエネルギーを中心に家のことをお伝えしているので、どうしても省エネかどうかだけに注目してしまいがちですが、川越のモデルハウスや建築中の住宅などを何度か訪問する中で、もっと大事なことに気が付きました。このモデルハウスのような家で長い時間を過ごすのか、シックハウスのような所で長い時間を過ごすのかによって、健康状態はだいぶ違ってくるのではないか、ということです。

夏は外から強烈な日差しを取り込まない工夫も必須だ。ブラインドやすだれは、室内側ではなく、外側につけるのがポイント。写真は川越モデルハウスの外付けルーバー(ブラインド)。

 

もちろん、省エネと快適性を両立した住宅の方法論はひとつではありません。低燃費住宅のグループ以外にも、全国にはいろいろな方法で省エネで、快適な健康的な住宅を作っている方たちがいます。ぼくとしては、今後も従来の建物の常識を覆してくれる住宅やオフィスを紹介していきたいと考えています。

 

また新築の戸建の情報ばかり届けても、誰もが新築の住宅を買うわけではありません。そこで中古マンションをリフォームしている現場にも足を運んできました。近いうちにリポートしますので、そちらも楽しみにしていてください!それではまた!

 

◆関連リンク

低燃費住宅宿泊体験の冬編はコチラ

低燃費住宅のWEBサイトはコチラ。見学や宿泊体験も可能。  

低燃費住宅代表・早田宏徳さんインタビュー(前編)  

低燃費住宅代表・早田宏徳さんインタビュー(後編)

 

◆高橋真樹の新刊好評発売中!

『そこが知りたい電力自由化〜自然エネルギーを選べるの?』(大月書店)