第89回:窓でこんなに変わる?親子でつくろう理想のエコハウス! | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回は、夏休みに実施された親子工作教室「窓から考えるエコハウスづくり」のレポートです。といっても、単なる子ども向けの工作ではありません。快適な住まいをつくるために、いかに窓の断熱が大切かについて親子で学ぶのですが、子どもにわかりやすいというだけでなく、大人もビックリするような発見がたくさんある場になりました。



主催しているのは窓やドアなどの住宅建材を扱う企業、YKK AP です。この会社は、窓の断熱性向上をめざして日本で先駆けて実践してきた会社のひとつです。そのことを幅広い年代に考えてもらう機会として、一部のショールームなどで5年前から実施しているのがこのワークショプになります。

ぼくが取材したのは、8月20日に横浜ランドマークタワーのショールームで実施された回。ここでは翌日も実施され、2日間で46名19組の親子が参加しました。夏休みの自由研究として参加した子どもたちの中心は、小学校3、4年生です。

ワークショップでは、前半に暑さ寒さをしのぐ家づくりのための窓の断熱の話しを中心としたレクチャーを行い、後半にエコハウスづくりを楽しみます。エコハウスづくりは、100円ショップなど身近に手に入れられる材料だけで結構本格的な模型がつくれるユニークなものです。ぼくは、工夫をこらしたレクチャーの部分に特に感心しました。

◆本日のトピックス
・理想の窓枠の素材は?
・1枚と2枚でこんなに違う?
・窓の性能で快適性はとても変わる

◆理想の窓枠の素材は?

レクチャーでは、まず住まいの快適性と窓との関係について説明されます。室内の暑さや寒さの原因となる、熱は 窓から出入りします。標準的な日本の家では、夏は74%の熱が窓から入り、冬も52%の熱が窓から流出します。また、部屋にエアコンをかけても、せっかくつくった涼しい空気(夏)や温かい空気(冬)が、窓から逃げていってしまいます。理想的な快適な住まいをつくるには、まずは窓を改良して「スーパー窓」をつくろうという話になりました。

窓は、サッシ(枠)とガラスが組み合わさってできています。そこで、サッシの素材を何にすればよいか考えました。参考のための実験では、実際の住宅にも使われている素材である木、樹脂(プラスチック)、金属(鉄、銅、アルミ)などを並べて、暑さや寒さでどんな影響を受けるのか、子どもたちに予想を立ててもらいました。


お湯を入れ、素材ごとの熱の伝わり方を実感する

夏の暑さの影響を考えるため、60度のお湯を張った器に各素材の棒をつけておきます。しばらくすると、金属が熱くなりました。次に冬の寒さの影響を考えるため、それぞれの板に氷を置き、どの素材で氷が溶けやすいか調べました。ここでも、金属の上の氷がいち早く溶けて、板は冷たくなりました。木や樹脂はお湯や氷の影響をほとんど受けません。熱さも冷たさも、金属はすぐに伝えるという結果になりました。

子どもたちは板を触わりながら、「あっ熱い!こっちはぜんぜん熱くない!」とか「こんなにちがうんだ!」と実感します。もちろん大人なら、金属の熱伝導率が高いことはわかるのですが、身近な窓のサッシがアルミであることに疑問を持ったことのある人は少ないと思います。でもこうやって視覚化することで、窓のサッシが夏の暑さや冬の寒さにどれほど影響を与えているか実感が持てるようになるはずです。

実際のデータでも、樹脂や木に比べて、熱を伝えやすいアルミの熱伝導率は、1000倍以上になります。つまり、外の気温の影響を受けにくい樹脂や木のサッシにすれば、夏は涼しく、冬は暖かい家に一歩近づくことになるのです。今回の工作では、樹脂製のサッシを使用することになりました。

width=
手前の金属はすぐに氷が溶けて板が冷たくなるが、奥の樹脂や木は氷がなかなか溶けずに温度も変わらない。

◆1枚と2枚でこんなに違う?

もうひとつ、窓をつくっている要素にガラスがあります。このガラスの枚数によっても温度が変わる実験も行われました。工作で使うのは本物ガラスではなくアクリル板(プラスチック製)ですが、そこにドライヤーで熱をふきかけ、サーモグラフィで温度変化を調べます。アクリル板が1枚の時は、サーモグラフィの映像は高温であることを示す赤色になりました。夏の住宅の窓のように、すごく暑くなっていることがわかります。


この距離からドライヤーをあてると、サーモグラフィでは真っ赤に

次に、樹脂サッシを挟んでアクリル板を2枚にしました。すると、熱を受けている側の1枚は同じように赤く変化しますが、反対側(家の中側)のもう1枚はほとんど変化しません。これには大人もビックリ!2枚のアクリル板の間にある空気層が、バリヤの役割を果たして熱い空気を防いでくれたのです。実験の結果を受けて、工作では樹脂サッシと2枚のガラス(ペアガラス)からなるスーパー窓で家づくりを進めることになりました。


アクリル板を二重に


ドライヤーの熱をあてても、反対側の窓は熱くならない!

他にも、強い日差しを窓に当てないようにするシェードやすだれなどの重要性を学び、工作に活かします。家の壁や屋根はスチロールで組み立て、気に入った材料でデコレーションします。さらに家の周りの庭造りにも挑戦。そのあたりになると、子ども以上にお母さんたちが理想の家をめざして熱中していました。1時間程度で、それぞれ個性的な家が完成、子どもたちはみんなに自慢のポイントをお披露目しました。

◆窓の性能で快適性はとても変わる

ワークショップの感想では、「小学校でエコについての勉強をしているのでとても参考になりました」(子ども)というものや「家づくりに大切なことを知ることができました。窓は本当に大切です!」(親)というものなど、親子ともにわかりやすくて勉強になったと好評でした。「窓の断熱」という一見すると地味なテーマですが、このような親子工作教室にすることで楽しみながら学べる場になっているのです。


さまざまな材料から選ぶ


窓の外には日よけのシェードを設置!

ワークショップで「窓博士」として進行役を務めた山﨑亜矢子さん(YKK APショールーム横浜館長)は、自分たち自身も、ワークショップの準備する過程で、初めて実感することが多かったと言います。「例えば、それぞれの素材の重さや、熱の伝わり方の違いは、数値上は知っていても実際に試すことはあまりありません。ドライヤーをあてるサーモグラフィにしても、あんな小さなアクリル板であそこまではっきり違いが出るというのは驚きました。だから私たち自身の勉強にもすごくなっているんです。皆さんには、新築やリフォームを検討される際に、より性能の高い窓を選ぶきっかけになってくれればいいですね」。

窓の見直しは、新しく窓を替えるばかりではありません。リフォームで樹脂製の内窓を付ける、という選択肢も増えているようです。そうした対策一つで、部屋の温度や快適性はものすごく変ってくるのです。

それでも、一般の人は窓による断熱の違いなんて考えたことがない人がほとんどでしょう。ぼく自身も、エネルギーの取材を始める以前はそうでした。樹脂サッシの窓 はここ数年でやっと日本でも知られつつあるというレベルですが、アルミサッシの窓と比べるとコストがおよそ1.4倍程度高くなるので(※)、その価格にみあった価値を感じられるかどうかが大切になってきます。体感しないと価値がわからないというのが実態だと思います。

そこでYKK APは今年の6月、その窓の性能による快適性の違いを「これでもか!」とばかりに実感できる「体感ショールーム」をオープンさせています。こちらのショールームの見学は、工務店の方など建築のプロを対象にしていて、数ヶ月先まで予約がいっぱいになるほど大人気になっています。でもぼくはラッキーな事に、先日こちらも取材することができました。近いうちにその様子もお届けする予定です。お楽しみに!


庭造りには親子で夢中に

※窓の価格は、素材だけでなくサイズや仕様によっても変わってくるのであくまで参考として。

◆関連リンク
YKK APホームページ 
YKK AP親子ワークショップのページ(ページの最後には、自宅でもできるエコハウスのつくり方へのリンクも載っています)

◆好評発売中!

『そこが知りたい電力自由化–自然エネルギーは選べるの?』
(著:高橋真樹/大月書店)




 ついに始まった電力自由化。
 私たちの暮らしはどう変わるのか?
 原発や 自然エネルギーはどうなるのか?
 「どこが安いか」の情報の中で抜け落ちる
 価格より大切なこととは?
 電力自由化とこれからの暮らしについて
 わかりやすく伝える入門書