第88回:室内で急増する熱中症!効果的な対策は? | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

猛暑が続きますね!いろいろなところで注意喚起がされていますが、くれぐれも熱中症には気をつけてください。今回のご当地エネルギーリポートでは、エネルギーと健康に焦点を当てていきます。

驚くことに、熱中症になって倒れる人の割合は、屋外と屋内が同じくらいになっています。さらに東京23区でこの5年間に熱中症で死亡した人のうち、なんと9割が、屋内で発見されていたことが判明しました(東京都監察医務院の調べ)。



外ではなく、屋内で熱中症にかかる人が多い背景には、ご当地エネルギーリポートでも紹介してきた日本の家屋そのものの致命的な欠陥がありました。これまでは、冬の寒さについての話題が多かったのですが夏の暑さについて考えてきましょう。また今すぐできる熱中症対策も合わせて紹介します。

◆今回のトピックス
・本当に昔と比べて夏は暑くなっているのか?
・熱中症対策の最大のポイントはココ!
・家のエネルギー効率を上げて健康に暮らす

◆本当に昔と比べて夏は暑くなっているのか?

室内の熱中症対策といえば、誰もが思い浮かぶのがエアコンの使用です。しかし「昔はエアコンなんて無かった」と我慢する人も結構いるようです。他にも「電気代がきになる」とか「エアコンの風が苦手」なので使用を控えるという方もいるでしょう。とはいえ、数十年前と比べて気温は確実に上昇しています。
 一方で、ブログやサイトによっては「実は50年前から平均気温はほとんど変化していない」という情報を流している方もいます。例えばこういうものですね。

「50年前の気温を調べたところまさかの結果が・・・」

これを見ると、「なんだ、メディアが騒いでいるけど、実は変わっていないのか?」と思ってしまう方もいるでしょう。でも本当なんでしょうか?データの見せ方が雑で、誤解を招いてしまうものです。この大雑把な数値にしたグラフで明らかに変化があるほど大幅に上昇しているとなると、日本は今よりはるかに大変な状況を迎えていることでしょう。

もっと細かく調査されたこちらの気象庁のデータだと、50年間で0.7度程度の上昇が見られています。その前の50年でもやはり0.6度程度上がっています。100年間で平均気温が1.3度というのは、地球規模で見ると大変な環境の変化になります。


    1890年から2010年までの平均気温の変化(気象庁)

さらに、平均気温というのは寒い日も一緒になってならされてしまうので、極端に気温が低い日があると混ざってしまうのです。それよりも、1日の最高気温が35度を越す「猛暑日」や、1日の最低気温が25度を下回らない「熱帯夜」が増加していることに注目してください。


    最高気温35度を越す猛暑日の数(気象庁)


    最低気温が25度以上となる熱帯夜の数(気象庁)

データを見る限り、夏場の暑さによる健康へのダメージリスクは、50年前と比べて確実に高まっています。くれぐれも「実はそんなに変わっていないのだから、人間が弱くなっただけ」「エアコンなんていらない」と考えずに、適切な冷房を使ってください。

◆室内の熱中症対策の一番のポイントはココ!

では次に、お金をかけない熱中症対策を考えます。アドバイスいただいたのは、以前のリポートにも登場した省エネのエキスパートである野池政宏さんです。

野池さんがもっとも重視するのは、強い日差しが入る窓まわりの対策。「よしず」や「すだれ」、「ブラインド」などを活用するのですが、注意したいのは、室内側ではなく必ず窓の外側につけることです。内側につけると、部屋に入ってくる熱自体はカットできません。外側につければ日除け効果は2−3倍になるのでオススメです。


すだれは必ず窓の外に

また、外出する際や使っていない部屋があれば雨戸やシャッターを閉めておきましょう。日差しをシャットアウトすることで、部屋の温度が上がりにくくなり、夜に帰宅した際に涼しく過ごすことができます。生活に支障がない程度に暗い部屋を作るというのがポイントとなります。とにかく「日除けは窓の外側で」を徹底したいところです。

その上で、窓の内側には「厚手のカーテン」や「遮熱効果のあるカーテン」などで2重に対策をすると効果が上がります。こうしたカーテンは冬の断熱性を高めることにもつながるので、一石二鳥です。

窓については開閉も大切です。暑いと窓を開けて風を通した方が良いと思いがちですが、多くのケースでは逆効果になっています。むしろ外の暑い空気を室内にため込み、夕方以降も室内の温度が下がらない原因を作ってしまうからです。窓は外の方が暑い時には開けず、夕方に気温が下がってから開けるようにしましょう。窓を開けて風を通した方が良いのは、家の中より外の方が涼しい場合のみになります。

窓を閉めたらエアコンの出番になります。エアコンは電気代がきになるところですが、電力消費量が多いのは起動する最初だけで、運転が安定すれば扇風機とそれほど変わらなくなります。大きな特徴として、室温だけでなく湿度を下げる効果もあるので、28度など高めの設定にしても十分に涼しくなります。

ちなみにエアコンについてはこまめに付けたり消したりすると、かえって電力消費量がかかることは知っておきましょう。よく知られているように、扇風機やサーキュレーターを併用すると冷たい空気が循環するので、より効果的です。

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15年以上前のエアコンを使っているなら思い切って買い替えよう。効率が飛躍的にアップする

いずれにせよ、わずかな電気代を我慢して、体調を崩して医者にかかるようでは本末転倒です。エアコンの風が苦手という方は、最近は風が直接当たらないようにする機器なども販売されているので、活用してみましょう。

◆家のエネルギー効率を上げて健康に暮らす

ここまでは、現状でそれほどお金をかけずにできる対策でしたが、ご当地エネルギーリポートでは、あえて大胆にお金をかけて、一歩上の快適性をめざす方法をオススメしています。それが、家のエネルギー性能の見直しです。

この方法は初期投資はかかるのですが、長い目で見れば光熱費が下がり、そして何より快適性が向上して、健康につながります。長期的に見れば投資した費用の元を取ることは十分に可能です。
 
もっとも力を入れたいのは、やはり熱の出入り口である窓まわりです。特に内窓をつけることで、窓から入る熱や冷気が大幅に遮られ、夏も冬も快適に過ごすことができるようになります。この内窓は、賃貸住宅でも設置することは可能です。最近では、ホームセンターやインターネットなどで簡易版の内窓を作れるキットが販売されているので、手作りすれば費用を大幅に削減できます。


内窓にはいろいろなタイプがある。最近では数千円台でDIYできるものも

もっと大掛かりなリフォームでは、断熱性を上げる工夫をしてみましょう。日本では、「断熱を厚くすれば冬は暖かくても夏はかえって暑くなる」と思われる方も多いようです。しかしドイツの家づくりに学んで、レベルの高い高断熱を提供している低燃費住宅代表の早田宏徳さんはこのように言います。

「しっかりと機密、断熱を高めることは、魔法瓶のような環境を作るようなものです。魔法瓶は温かさも維持するし、冷たさも維持しますよね?それと同じことだと考えてください。家全体でやる方法もあるし、一番時間を過ごす部屋だけ部分的に工事する方法もあります。ある程度費用はかかるのですが、それでも建て替えるよりは大幅に安いし、何より快適に過ごせるようになります」。
(※)


「低燃費住宅」の窓はしっかりと断熱してくれる樹脂製トリプルサッシの窓

早田さんは、ドイツの家づくりの研究を通して、日頃から日本の住宅のレベルが世界の先進国に比べて大きく劣っていると感じています。早田さんの広める「低燃費住宅」は、湿度を調節する断熱材や壁材を使っているので、驚くことに、冬だけでなく夏も温度と湿度が一定に保たれています。

あのジメジメした暑さに苦しむことがないというだけでも、単なる省エネの話を越えた魅力がありませんか?近いうちに低燃費住宅の宿泊体験のリポートも紹介したいと思います。

熱中症対策として、ひとまずはお金のかからない対策をしつつ、長期的に家そのものの性能を見直してみるのがいいかもしれませんね。

※魔法瓶の例はドイツ並みの住宅の高いレベルの断熱性を前提に語られているものです。断熱性にもさまざまなレベルがあるので、単に断熱性をあげるだけで夏を快適にすごせるようになるというわけではありません。

◆関連リンク
・1985年レベルの省エネを(野池政宏さん)
・ドイツに学ぶ循環型の街づくり(早田宏徳さん前編)
・日本は世界一という幻想を捨てよう(早田宏徳さん後編)


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