第80回:野菜とは違う「電気という商品」をどう扱うか?/高橋洋さんに聞く(1) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

いよいよ4月1日から電力自由化が始まります。そこで今回から4回にわたり、電力自由化の専門家である高橋洋さん(都留文科大学教授/自然エネルギー財団特任研究員)のお話を紹介します。

何度か記事をアップした「ゼロからの電力自由化」でも取り上げてきたように、電力自由化というのは4月から一気に何かが変わるというよりも、長い時間をかけてエネルギーシステムをより良いものにしていく時代が始まるのだと認識するのが良いのではないかと思います。

実は制度的な課題はたくさんあるのですが、目先の価格競争などには惑わされず、長期的な視点で関心を持っていただけたら幸いです。

さて、これまでは一般の消費者にとって電力自由化をどうとらえるのか、というテーマで進めてきましたが、高橋洋さんにはもう少し大きなテーマというか、小売自由化の先にある発送電分離をどう考えるのかという話や、地域や再エネにこだわって立ち上がった新電力会社が生き残る方法のヒントなどをお聞きしています。


高橋洋さん(自然エネルギー財団のオフィスにて)

今回はまず「電力自由化と地域」をテーマに語っていただきました。

※ちなみに聞き手も高橋なのでややこしいため、私の方は下の名前(真樹)だけを使用しています。

◆今回のトピックス
・自由化によって電力会社は変わる?
・注目は地域の電力会社
・野菜と電気とは違う

◆ 自由化によって電力会社は変わる?

真樹:4月から電力自由化が始まります。「価格が安くなるか」という点にスポットがあたりがちですが、自由化することで従来の電力会社のあり方が見直される契機になるかもしれません。その辺りをどうお考えでしょうか?

高橋洋:確かにこれまでの電力会社の姿勢は、消費者の方ではなく監督官庁である経産省の方を向いていた部分がありました。法定独占の下では、政策の動向がビジネスに直結するからです。でも、これからは消費者と市場に向き合わなければ生き残ることができません。

消費者にとっても、市場を通して意見表明をする機会ができるようになります。そのような市場の圧力によって電力会社が変わったり、政策が変わるという可能性は大いにあるでしょう。そのような意味で自由化は大きな変化です。

でも公正な競争環境をつくれるのかという点では、まだ不透明です。一般の消費者の方は、4月になったからといってあわてて契約を切り替える必要はないでしょう。

◆注目は地域の電力会社

真樹:ドイツなどでは、ネットからスムーズに契約を切り替えられるようになっています。日本でもそのようになっていくのでしょうか?

高橋洋:手続き上はそうなっていくはずです。ただ、電力小売自由化がされて10年以上がたつドイツでも、意外と切り替えていない人も多いようです。お年寄りは方法やメリットがよくわからないから、このままでいいと思う人も多い。


群馬県中之条町の沢渡温泉第一太陽光発電所。中之条町は日本の自治体として初めて新電力を立ち上げた。日本でもこれからは自治体がエネルギーを担うプロジェクトが増えていくかもしれない。

そしてもうひとつ、ドイツではもともと自治体などが地域の電力会社を運営してきたという伝統があります。それは「シュタットベルケ」と呼ばれているのですが、そこに愛着があるから変えないという人もいます。

現在のドイツでは大手電力会社は4社ですが、自由化の前から数百もの事業者がおり、大手以外の会社が独占していたエリアも結構あったのです。その名残で、例えばミュンヘン市では、8割の住民が地元のシュタットベルケと契約しています。

真樹:そのような意味では、日本とは事情が異なりますね。契約先を変えない人の中にも、手続きが面倒だから変えないという人もいるし、地域を支えたいから変えないという、しっかりと選択している人もいるということなんですね。

高橋洋:日本ではそうした自治体が主体になった小売り会社はこれまでありませんでしたが、小売自由化を前に、山形県や群馬県中之条町、福岡県みやま市など参入を決めるところも増えてきています。そのような地域の人がどういった選択をするかについては私も注目しています。

◆野菜と電気とは違う

真樹:そのような地域が主体になった会社や、地域と一緒にやろうとしている小売り会社が、既存の電力会社や大手と渡り合うためにはどのようにすれば良いのでしょうか?



高橋洋:そもそも、電気という材(商品)は差別化が難しいものです。例えば無農薬の野菜であれば本当にそのものが配達されるので、地域と紐付けて特色を出すことができます。しかし、電気はその地域で発電したものであっても送電網の中に一度入ってしまうと、他の電気と混ざってしまいます。

確かにその地域の電気を調達しているのですが、現実にはその電力量と同じ分だけを送電網から取り出して消費者に販売するという擬似的なやり方しかありません。新鮮な野菜と同じように「産直」とか「地産地消」というのは、電気では厳密には当てはまらないということになります。

だとすれば、電気の流れそのものがどこに行くか、ということにあまりこだわる必要はないのかもしれません。それよりも私は、個別の付加価値をわかってもらったほうが差別化できるのではないかと考えています。

うちの電力事業は、単に会社が儲かるためにやっているのではなく、地域の再エネを開拓したり、地域に貢献してお金を落としたり、地域の信金とうまくやっているといったことをPRできれば支持してくれる人たちは必ずいます。

真樹:「消費者」とか「顧客」というより「ファン」や「サポーター」になってもらうということですね。それでも、大手ほど資金がない会社にとって競争を生き残るのは大変です。

高橋洋:小売り事業だけで利益を生み出すというのは、簡単ではありません。先程言ったように電気だと「地域エネルギー100%」とか「再エネ100%」というのは混ざってしまうから厳密には言えないし、差をつけにくいから大手と競争するのが厳しくなってしまいます。

だから電気だけにこだわらず、地域と一緒になって「熱電併給」(コージェネレーション)を開拓するという方法もあります。熱エネルギーは遠くに運ぶ事ができないから地域性が高くなります。供給インフラも関係するので簡単ではありませんが、地域主体の強みが活かせる分野ではないでしょうか。

電気や熱の供給に加えて、省エネも含めてエネルギービジネスをトータルで考えて利益が出るようにすれば、持続可能性が高まっていくでしょう。


岩手県紫波町との共同事業として、バイオマスによる熱供給を手がける紫波グリーンエネルギー

※次回は、政府の掲げる自然エネルギーの導入目標についてや、地域や再エネにこだわる新電力会社がどのようにサバイバルしていけば良いのかについて伺っています。

◆関連リンク
高橋洋さんが特任研究員を務める自然エネルギー財団のサイト





電力自由化は地域から始まる

高橋真樹著『ご当地電力はじめました!』
(岩波ジュニア新書)