第61回:太陽の光を活用!古くて新しい太陽光照明(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

前回に続いて今回も、太陽光照明について紹介します。今ではさまざまな場所で活用されつつある太陽光照明ですが、「知られていない」「設置していても気がつかれない」といった独特の悩みもあります。今回は、そんな課題とともに、牛久さんが太陽光照明をはじめた理由や設置された家主の方の感想などを紹介していきます。


太陽光照明を設置して部屋が明るくなった

今回のトピックス
■課題は知られてないこと
■はじまりはオーストラリア
■近所中に伝えて歩きたい
■太陽光照明を身近に

◆最大の問題は知られてないこと

◇高橋:太陽光照明の価値の高さを伺ってきましたが、それでもまだまだ日本ではほとんど知られていないという実情があります。この点はどうしていきたいとお考えでしょうか?

◇牛久:そうなんですよ(笑)。まず知っていただく機会が少ないので苦労をしています。そのため皆さんが使う公共施設やサービスエリアなどにも設置しているのですが、残念な事にぱっと見では普通の照明と区別がつかないので、それが自然光だと気づいてもらえないのです(笑)。そのわかりにくさをどのように伝えるかが、現在の悩みですね。


一見しただけでは、自然光だとはわかりにくい

あと、公共施設などでは建築家や使用者が太陽光照明の事を理解していないため、十分に活かせていないケースがあります。例えば設備の設計者は、せっかく太陽光照明があっても効果がよくわからないからと、通常と同じだけ電気照明をオーバースペックでつけちゃうということがある。また、コンビニに設置しているケースでもアルバイトの人がその存在を知らないから、電気照明だと思っていて他の照明も合せてぜんぶつけちゃうようなこともあるのです。そういうこともあって、今は自動制御で太陽の光と電気照明が連動するような設備も開発しているところです。

ただ、今年度(2015年度)から小学校の理科の教科書で掲載されたりするなど、徐々にですがその存在が知られてきているのも事実です。一方欧米では日本より知られていて、このような照明が取り入れられる公共の場所などが増えています。アメリカや中国など海外では売上は伸びているので、日本でもこれから注目されていく可能性はあります。

◆はじまりはオーストラリアから

◇高橋:牛久さんが最初に日本に広めたとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

◇牛久:建築の設計施工をやっている私が、この太陽光照明と出会ったのは20年ほど前です。まだ省エネとか「エコ」なんて誰も言っていない時代でしたね。もとはオーストラリアで誕生したものです。向こうは平屋建てで大きい家が多いので、昼間でも太陽の光が入りません。でも、天窓では紫外線も入ってしまうのでそれを何とかしたいということでした。オーストラリアでは、ホームセンターでこういう部材を買ってきて、DIYで自分で設置するのが一般的でした。こういうチューブを通すスタイルだと後付けしやすいので、人気になっていました。たまたまこれを知る機会があった私は、96年に東京ビッグサイトで開催された展示会で試しに出展してみました。それが新聞で紹介されると、「こういうものが欲しかったんだ」という電話が次々とかかってきました。日本でもニーズがあったことがわかり、本格的にやってみる気になったのです。


スカイライトチューブ関東の牛久光次さんと井上由美子さん

もともとのオーストラリアの部材は、DIYで取り付ける用なのでクオリティはいい加減でした。日本ではプロが取り付けて工事するので、完璧につくらないといけない。建築の思想が違うのです。私は根っからの設計屋なのでそこを改良に改良を重ねました。日本には屋根の種類がたくさんあるので、そのどれにも合うようにつくるのはかなり苦労しましたね。それから建設省との話し合いでは、こういうものの前例がないからどういう扱いにするか迷走し、ここでも時間がかかりました。


太陽光照明の上蓋部分。どの角度からの光も内部に反射できるようになっている

そのうち、うちの小さな工務店だけでやっていても限界があるからと滋賀県にある株式会社井之商という会社に本部機能を譲りました。そこから全国の工務店さんにも広がっていき、ひとまず全国で注文を受けられる体制ができてきました。関東地区はうちの工務店が担っています。私としては、今後もどんどん新しいスタイルで開発を続けながら、この照明を広げていきたいと思っています。

◆設置者のコメント:今では近所中に伝えて歩きたいくらい

※以下、牛久さんの工務店に注文して太陽光照明を設置した世田谷区在住の鈴木達哉さんからコメントをいただきました

◇鈴木:うちは10数年前に家を建てました。建築時は耐震性を重視していて、明かりの事など考えていませんでした。でも暮らしてみると窓が小さくて昼間でも暗い部屋がいくつかできたのです。昼間に照明をたくさん使うのも嫌なので、自然光を取り入れられる天窓を考えました。ところが、明るくしたいのは1階の部屋なのに天窓だと光が届きません。そこで何かないかなと探しまわり、太陽光照明を見つけたというわけです。


設置前は昼でも夜のようだった、鈴木さん宅の一階の部屋

私は現在は退職していますが、それまでは大手デジタル機器メーカーで、工学関係の仕事をしていました。カメラも扱う会社だったので、この太陽光照明で使われている反射技術が確かなものだと判断できました。胃カメラの内視鏡とまったく同じ技術が使われていたのです。これは良い!と判断して、牛久さんの展示場に見に行って、納得して購入する事にしました。
 
牛久さんのところのスカイライトチューブは、電気を使わず光を奥まで届かせるものです。私が調べた所、同じような太陽光を使った照明で、電動で太陽光を追っかけるというシステムの設備もありました。でもこれでは災害や停電になると使えません。牛久さんのところの仕組みはシンプルなので、壊れるところがありません。災害や停電でも安心というのは大きいと思います。


設置後はこんなに明るくなった

コストだけを見れば高くつきましたが、暗い部屋が気になったのでうちでは6本入れました。総額で180万円かかりましたが、結果的にはこれが良かったと思っています。設置工事をしたのは2014年の10月末です。想像以上に明るくなって、とにかくびっくりしました。

もちろん頭では「絶対大丈夫だ」と信じていたのですが、やはり付けてみて初めてその効果を実感しました。価格の上では天窓の方が安く見えるのですが、こっちにして本当に良かった。省エネなのはもちろん、紫外線と赤外線をカットしてるから健康にも良い。チューブの中は空気なので、天窓と違って断熱性も高く保てます。

朝起きたときに部屋が明るくて、それまで鬱々としていた気分がものすごく爽快になりました。うちの家は南側は遮蔽物がないので、日当りが良いのですが、それでも暗い部屋がある。住宅が密集している場所だったらなおさら、これがあったら最高でしょうね。だから町を歩いていても、「この家に設置したらいいだろうな」とか考えてしまうんですよ(笑)。今では皆さんに伝えて歩きたいくらいです。

◆高橋真樹の感想:太陽光照明を身近な存在に

大手メーカーの技術者だった設置経験者の鈴木さんが語るように、この太陽光照明の良さは電気を使わない事、そして複雑ではない事だと思います。電力に頼った機械は、便利そうに見えても停電のときに役に立たなかったり、故障しやすかったりするからです。まだまだ一般の方には価格面で気軽に設置というわけにはいかないかもしれませんが、こういう選択肢もあるのだということを知るのはとても大事だと思います。

一方、企業を経営されている方には、ぜひ活用いただきたいですね。実際に省エネはもちろん、災害対策にもなるということは実証されていますから。災害対策という意味では、公共施設や災害時の避難所となる体育館、市役所、老人ホームなどの照明に採用されていけば、もしものときも役に立つツールになります。このご当地エネルギーリポートではたびたび触れていますが、「エネルギーを電気だけで考えない」というのは非常に重要なポイントになってくるので、この太陽光照明は使い道によってはさまざまな活用の仕方ができるのではないでしょうか?

実はフィリピンやブラジルのスラム街では、もっと簡単な「手作り太陽光照明」も活用されています。住居が密集して家々の明かりは昼でも暗い状態なのに、照明代を払うお金がありません。そこでペットボトルと蛍光剤を使って作った太陽光照明が大人気というわけです。これならとても簡単に作ることができるので、お子さんの夏休みの工作にいかがでしょうか?ぼくが昨年出版した『親子でつくる自然エネルギー工作』の2巻ではそのつくり方も紹介しています。


牛久工務店にある太陽光照明の展示場。さまざまなタイプの照明がある

牛久さんも触れていますが、自然光の良さを実感するには時間がかかります。ぼくも実際にその効果をこの目で見るまではピンと来ませんでした。そこで設置するしないに関わらず、少しでも気になった方は、ホームページはもちろん、実際に展示場を一度訪れてみてはいかがでしょうか?太陽光照明の存在を、もっと一人ひとりが身近に感じられるようになれば、省エネ社会もぐっと近づいて来るように思います。
前編はこちら

◆関連リンク
 スカイライトチューブ 
 牛久工務店

『親子でつくる自然エネルギー工作2 太陽光発電』(大月書店)