第60回:太陽の光を活用!古くて新しい太陽光照明(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回ご紹介するのは、太陽光を使った画期的な省エネ技術です。電気はいっさい必要ありません。日当りの悪い部屋や企業の大きな倉庫など、昼間でも暗い場所って結構ありますよね。こういうときに照明を付けなくても充分な明るさを得る方法が、「太陽光照明」です。

太陽光を使って暗い所を明るくするという方法は、古代から用いられてきた方法ですが、「実はこんなに進化しているんだよ」という実情は、ほとんど知られていません。そんな古くて新しい自然エネルギー利用法について、20年以上前に日本にこのやり方を紹介した「スカイライトチューブ関東」の社長、牛久光次さんに話を伺ってきました。ぼくが取材した当日はあいにくの曇り空でしたが、それでも室内の太陽光照明は一般的な照明に劣らない充分な明るさがありました。省エネを検討中の企業や、素敵な自然光を取り入れたい一般家庭にもオススメの技術を、対談形式でお伝えします。


暗い部屋が電気を使わず抜群に明るくなる

今回のトピックス
■古くて新しい「太陽光照明」とは?
■工場では大幅な省エネも
■健康と快適性にも注目

◆太陽光照明って何?

◇高橋:ぼくが太陽光照明を初めて知ったときには驚きました。残念ながら日本ではほとんど知られていないのですが、原理はとっても単純なので、これから広まる可能性もあるはずです。まずは概要を教えてください。

◇牛久:太陽の光を利用した「明かり取り」としては、一般的には天窓が知られています。しかし、天窓は太陽の角度によっては暗くなったり、一部だけ明るくなることで逆に周囲が暗く感じるようになります。また欲しいのは「光」だけなのに、「紫外線」や「熱」も一緒に取り込んでしまうので、夏は部屋が熱くなってしまいます。一方、冬は窓から熱が逃げてしまうため寒くなりやすいといった欠点が多いのです。

太陽光照明(商品名:スカイライトチューブ)は、そうした天窓の課題を解消しています。天井に開けた穴からパイプ引き、反射板で拡散された太陽光によって部屋全体を明るくします。屋根に設置する採光部分は太陽の光を上手に反射する仕組みになっているので、太陽が移動したり曇っていても、充分な明るさを保つことができます。そして熱や紫外線を取り込まず、光だけを取り込むため、熱さや寒さに影響することもありません。


牛久光次さんと太陽光照明

天井からパイプを引くので、2階建てや3階建ての家でも1階の暗い部屋を明るく照らすことができます。もちろん夜は暗くなりますが、内部にLEDライトを付ければ通常の照明として使用できます。ただ、夜は真っ暗になるかと言えばそうでもありません。月夜ならばその光も取り入れますし街中の場合は街灯やネオンの光を拾いますから、心地よい明かりを楽しむ事もできます。もちろん、真っ暗にしたい場合はフタをすれば遮る事ができます。

ちなみに、日本では屋根に穴を開けることを心配する人も多いのですが、これまで20年以上やってきて雨漏りした例はほとんどありません。また、もし万が一漏れたとしても通常の雨漏りと違い、チューブに伝わってすぐに発見できるので、大事に至りません。それで心配がいらないのです。


高速道路、沼津サービスエリアのトイレに設置

◆工場では大幅な省エネも

◇高橋:今日は曇っていますが、それとはわからないくらいに室内を明るく照らしていますね。これまでどのようなところに設置されてきたのでしょうか?

◇牛久:いろいろありますが、最初に手がけたのが一般家庭です。注文される方は、晴れている昼間でも部屋が暗く、電気照明をつけなければならないのが嫌だと思われている方が多いですね。もっと自然光を活かしたいということです。私の所で手がけたのは、関東で約350軒(一般家庭)くらいになります。他にも提携している工務店さんが付けたものが 150くらいあるので、合せて 約500軒ほどです。設置した方はそれまでの部屋と明らかに違うので、ものすごく喜んでくれていますよ。

◇高橋:企業からのニーズも増えているとお聞きしました。

◇牛久:はい、2008年あたりからは特に工場の注文が増えてきています。工場や作業所は昼間の稼働率が高いので、太陽光照明の強みが活かせるのです。通常、工場など天井が高い施設は水銀灯が使われていることが多く、通常の蛍光灯よりも電気代がかかっていますから、確実に省エネになります。そして明るさの広がりそのものも、水銀灯とはまったく違うので、作業者の方からは以前より作業がしやすくなったという評判も聞いています。


資生堂久喜工場の設置前の様子

具体例をひとつ挙げると、資生堂の久喜工場(埼玉県)という物流倉庫に設置したケースです。まず2009年に33台を設置し、評判が良かったので、翌年さらに49台設置しました。工事は建家が建っていても後付けでできるので、いつでも追加できるという強みがあります。省エネ効果ですが、物流倉庫だけで年間100万円ちょっとのコスト削減ができました。もちろん企業のCO2削減計画への貢献にもつながっています。


資生堂久喜工場で太陽光照明を設置後の様子

それから、これは私たちも想定していなかったことですが、東日本大震災の際、計画停電が長期にわたって実施されました。でもこの工場の明かりは電気がいらないので、日没まで全く問題なく使用できました。そのような停電や災害時にも役に立つということで、この工場ではその後、自家発電用の建物にも増設いただいています。この災害対策(※BCP対策)を重視して、デパートなどの商業施設からも声をかけていただく機会が増えてきました。他にも、高速道路のサービスエリアやコンビニエンスストア、図書館など、活躍の場所は徐々に広がってきています。

※BCP(事業継続計画) 
災害などの緊急事態が発生したときに、重要な業務を中断しないこと。また、中断するような場合も早期に再開させ、リスクを最小限にするために準備しておく計画のこと。


◆健康と快適性にも注目

◇高橋:1台取り付けると、費用はどれくらいになるのでしょう?

◇牛久:価格は、サイズやどこに付けるかによって変わってきますが、システム1台辺り工事費込みで20万円から50万円ほどです。例えば一般家庭で2階建ての屋根から1階に光を通す場合は、約30万円代くらいになります。大量に導入して高い省エネ効果が期待できる企業とは違って、一般家庭で単に電気代を減らすことを目的にするなら、採算をとるのは難しいでしょう。むしろ健康には太陽の自然光がいいんだという価値感を大切にするかどうかというのがポイントになってきます。

◇高橋:確かに費用だけ聞くと、一般人としては「高いな」と思ってしまうのですが、購入されている方は数字現れない価値を感じているということなのでしょうか?

◇牛久:ご家庭に設置された方の感想としては、新築よりも、今まで住んでいた家に後付けで設置した方の方が圧倒的に反応が良いですね。「明るさ」だけでなく、自然光の良さを今までと比較して体感できるからだと思います。みなさん、今までより気持ちいいよと言ってくれます。ですから、自然光ならではの利点をどう考えるかという事になるのだと思います。

まず「明視性」というのですが、つまり物の見え易さという意味では、電気照明より自然光の方が目に優しいと言われています。また、自然光は体内リズムを整える効果があります。体内時計のリズムは、一日中明るかったり、必要とする太陽の光を浴びなかったりするとバランスがおかしくなると言われています。朝日も浴びず、家で一日中インターネットやゲームをやっているとリズムが崩れやすいのですが、そのような健康面でも自然光が注目されているのです。そのため医療施設とか、外に出て日光を浴びる機会の少ない福祉施設などといった場所で、活躍が期待されているのです。


老人福祉施設のエレベーター前に、横長の照明を設置した

うちでは東松山市にある老人福祉施設の照明を手がけました。ここは4階建てなので、電気照明を付けなければ昼間でも暗い所がどうしてもできてきます。そこで、今までは不可能とされていた新たな方式を考案し、太陽光照明を設置しましたら思いのほか評価を受けました(2014年の省エネ照明デザインアワード優秀賞を受賞)。


福祉施設に設置された配管の断面図(イメージ)

もちろん天窓ではこのようなことはできません。照明を考えるということは、省エネという観点はもちろん必要ですが、このような快適性や健康などを含めたトータルな視点から選んで行く必要があるのではないでしょうか?今ではLEDへの交換がだいぶ進んできましたが、なんでもLED化すれば良いというわけではありません。自然光を入れられる場合は極力そちらも使って行くという合わせ技が、省エネ社会をつくっていくのではないかと思っています。

※次回の後編では、太陽光照明の課題や実際に設置された方のコメントを紹介していきます。
後編はこちら

◆関連リンク
 スカイライトチューブ 
 牛久工務店 


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