第58回:バイオマスの新しいモデルをめざす/サステナジー株式会社・山口勝洋さん(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

全国ご当地エネルギーリポートです。前回は、岩手県紫波町で進む木質バイオマスの熱利用についてお伝えしました。今回から2回にわたり、その紫波のプロジェクトをはじめ、各地で独自のエネルギー事業を手がけ、地域でお金を回す仕組みをつくっている「サステナジー株式会社」の社長、山口勝洋さんからお話を伺います。

※まだ紫波町の熱事業の記事をご覧でない方は、まずこちらを先にお読みください。
バイオマスなら電気より熱!紫波グリーンエネルギー

サステナジーは東京に本店を置く会社ですが、エネルギー事業の現場は地域であり、社員はほとんど東北に住んでいます。大規模なメガソーラーばかり追い求めるのではなく、地域の人たちと一緒に、省エネや熱の有効利用などに着目した、中小規模のプロジェクトにこだわってきました。特に、岩手県紫波町や宮城県石巻市、気仙沼市、大崎市などでは、地元の企業や金融機関と組んで地域エネルギー会社を立ち上げています。今回はその仕組みづくりや、新しい試みの成果と課題などについて伺っています。


サステナジーの山口勝洋社長

今回のトピックス
・地域の信用金庫が参加すユニークな仕組み
・石巻と気仙沼のプロジェクト
・バイオマスの新しいモデルづくり

◆地域の信用金庫が参加するユニークな仕組み

Q:サステナジー株式会社は、紫波町をはじめ東北各地で他にはない形でエネルギー事業を実現していますよね?そのきっかけは何だったのでしょうか?

山口:私は地域に向き合って自然エネルギーを創り出したり、エネルギー消費を減らすことを事業として広めたいと考えました。エネルギーの仕事を始めたのが2003年からで、サステナジーを設立したのが2009年になります。その後に盛岡の会社から太陽熱温水器の仕入をした経緯で、2010年に盛岡信用金庫の理事長と出会います。理事長とは、「環境」で地域を活性化するようなことを一緒にできないかと意気投合し、岩手県内を対象に環境エネルギー普及株式会社を合弁で設立しました。当時はリーマンショック後で地域経済が疲弊していたため、地域とともに歩む信金としてもこの分野で何とかしたいという危機感が高まっていたのだと思います。

そしてほどなく、循環型の町づくりをめざしていた紫波町の前町長と、前産業部長に引き合わせていただきました。まずは町の温泉施設であるラ・フランス温泉館の省エネと太陽熱と太陽光の導入事業を手がけました。そしてそこで築いた信頼関係をもとに、2012年に地域熱供給事業に入る際、より地元で運用保守をとの願いを受けて、子会社である紫波グリーンエネルギーを設立しました。

Q:前回の記事で紹介したように、紫波グリーンエネルギー設立後は、オガール地区での地域熱供給事業や、市民出資型の太陽光事業を展開しているわけですが、この会社の成り立ちがユニークですね。エネルギーの専門会社であるサステナジーと、地域金融機関の盛岡信用金庫、そして地元企業で太陽熱温水器などを扱うアトム環境工学、不動産鑑定士の4者で出資して設立したとのこと。特に信金がエネルギー会社のメンバーというスタイルは前例がありません。

山口:そうかもしれません。サステナジー設立より前に、私は長野県飯田市での地域エネルギー事業の企画設立や、備前グリーンエネルギーの立ち上げから省エネ事業の作り込みを、市民出資という資金調達方法を用いて実現してきました。その経験上、初期投資がかかる地域エネルギー事業では、やはり金融機関との連携がカギを握ると感じていました。地元の金融機関にとっても、良質な地域エネルギープロジェクトへの融資はメリットがあります。本来、地域金融機関は地域事業に融資したいのですが、実際にはエネルギー事業の専門家がいるわけではないので評価が難しく、国債や大手銀行などにお金が流れていっています。そこでエネルギーの専門家である私たちの会社と組んで信頼できる事業を立ち上げることで、お金を地域で循環させるサイクルを築くことができます。


山口さんも関わった飯田市の太陽光事業でソーラーパネルを設置した保育園

地元の方が参加していることも重要です。地元の方が積極的に関わることで、信用が増し、土地を借りたり、地域の協力が得やすくなります。一方で地元の団体や中小企業にとっては、単独でエネルギー事業を手がけたいと思っても専門スキルがなければ難しいところを、サステナジーと一緒にやれば可能になるということで、ここでも両者にとってメリットになるのです。そのような意味で、3つの違う立場の者が協力して会社を作ることで、これまでの地域エネルギー事業の課題が打開できるのではないかと考えたのです。

◆石巻と気仙沼でのエネルギープロジェクト

Q:盛岡信金との取り組みを受けて、石巻や気仙沼でも同様のプロジェクトが始まりました。

山口:紫波町でラ・フランス温泉館の事業を手がけた頃、石巻信用金庫と気仙沼信用金庫が、「うちの地域でも同様の取り組みをしたい」と相談に来てくれました。すぐに意気投合したのですが、3・11の震災が起きてしまって、事業会社設立は予定より遅れてしまいました。

それでも2011年の9月には石巻で「おひさま株式会社」を(※1)、さらに2012年2月に「気仙沼地域エネルギー開発株式会社」(※2)を設立しました。その他に宮城県大崎市の4つの企業と合弁で「おおさき未来エネルギー」という会社を立ち上げ、メガソーラー事業を始めました。その実務をサステナジーが担う形になっています。

※1出資者はサステナジー、石巻信用金庫、地元企業の石巻ガスと齋武商店
※2出資者はサステナジー、気仙沼信用金庫、地元企業の気仙沼商会

Q:地域の状況に応じて、サステナジーはその役割を変えて行くということなのですね。石巻と気仙沼での具体的な事業内容を教えてください。

山口:石巻では、これまで工場などの屋根を借りる太陽光発電事業を中心に進めてきました。2015年5月現在では、4カ所に合計パネル出力約2,700キロワットの設備を設置しています。今後は太陽光だけでなく、バイオマスも手がけたいと思っています。


おひさま株式会社が企業に設置したソーラーパネル(提供:おひさま株式会社)

気仙沼は木質バイオマス事業が中心です。こちらの設備は本格稼動を前に試運転調整を続けていますが、紫波町では実現できなかった熱供給と発電を同時に行うコージェネレーションに挑戦しています。対象は大きめの温泉ホテルが2つで、合わせて年間5000万円規模の重灯油が消費されています。ここに800kWの発電出力を持つドイツ製の木質ガス化・ガスエンジンシステムを導入して、熱と電気を供給します。

気仙沼は漁業の町だったので、それまでは周辺の木材も活用されてこなかったのですが、この規模であれば地域で持続的に供給することが可能です。この事業がうまく回れば、地元の雇用創出につながります。

◆木質バイオマスの新たなモデルをめざす

Q:気仙沼では、コージェネレーションでの日本初の事業化ということになりますが、それだけに困難もあるのではないでしょうか?また、バイオマス事業の場合は木材をどのように供給するかということが課題になってきます。この事業では地域の木材で足りるとのことですが、どのように供給する予定でしょうか?

山口:おっしゃる通り、民間で商業的な熱電併給事業としてはゼロからのスタートになりました。それだけに、実際に試運転しながらいろいろ調整したり、改修するのに時間がかかっていることは確かです。一つ難しかったのは、木質バイオマスのコジェネに対する国の扱いの具体的なところが、初のケースなので明らかでなかったことです。資源エネルギー庁とのやり取りで、ひとつひとつ細かいことを詰め、それを受けて方針転換や設備改修などをしなければならなかったので、とても大変でした。もちろん長期的に考えれば、次につながる話し合いになったはずです。 

必要な木材の供給量は年間8000トンほど(乾燥前)になります。地域で体制をつくってやってきたことで、その分をまかなえるルートはメドが立ちました。リスク分散を考えて、複数の供給元から調達するという仕組みです。まず、このプロジェクトのために山主が自分で間伐を行う自伐林業の奨励を行いました。それを1年間続けたところ、必要量の1割程度出せることがわかっています。あとは地元の森林組合と民間の生産業者などでまかないます。それでももし足りない場合が出てきたときのために、近隣の生産業者にもバックアップを依頼しています。


バイオマスで燃やすための木材を供給する(提供:気仙沼地域エネルギー開発)

Q:紫波町の地域熱供給事業とともに気仙沼の例も、エネルギー事業として野心的な挑戦だと思います。最大の課題は何でしょうか?

山口:欧州でも、かつては大規模な蒸気タービンのバイオマス発電所がつくられたのですが、持続的に木材供給を行う難しさや、チップ価格の上昇、発電効率等の問題で採算が合わなくなっています。そのため、4年ほど前からは中小規模の設備で、発電と熱利用を同時に行うコジェネの取り組みが増えてきました。それによって、リスクも抑えられ、地域レベルでプロジェクトを組みやすくなってきています。

日本でのバイオマス利用は、間伐などの林業の担い手の部分からつくっていかなければならないので、まだまだ容易に手がけられる状況ではありません。熱利用だけだと単純にはビジネスになりにくく、中小規模での熱電併給(コジェネ)をものにしていく必要があります。熱利用については別途、コミュニティが自前で作業する薪ボイラーの活用など、これまでとは異なった経済の回し方も試みたいと思っています。ご存知のように、日本ではまだバイオマス事業の好例がなかなかないので、私たちがそのモデルとなれるように、努力していきたいと思っています。

(後編につづく)

◆関連リンク
・サステナジー株式会社
・紫波グリーンエネルギー株式会社
・おひさま株式会社
・気仙沼地域エネルギー開発株式会社


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