第51回:信用金庫がなぜ脱原発をめざすのか?/城南信用金庫・吉原毅理事長インタビュー(後) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

まずはお知らせです。拙著『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)が、2月15日(日)の朝日新聞書評欄で紹介されました!こうして各地でがんばっているご当地電力が注目される機会が増えていくのは嬉しいことですね。

さて今回のレポートは、前回に続き、城南信金の吉原理事長へのインタビューをお届けします。前回は、脱原発宣言に至った背景とその後の行動について語っていただきました。今回は、全国の信用金庫と共同して行った地域エネルギーをテーマにしたシンポジウムの様子や、そもそも信用金庫が地域で果たす役割とは何かについて熱く語っていただきました。


シンポジウムのパネルディスカッションの様子。エネ経会議の鈴木悌介代表も参加

◆信用金庫と地域エネルギーの関わり方  

Q:城南信用金庫は、城南総合研究所を設立してシンポジウムなどを実施しています。2014年10月の『地域再生エネルギーシンポジウム』は、ぼくも取材させていただきました。エネルギー事業者が集まるシンポジウムは多いのですが、あのイベントのように地域の金融機関が主役になり、それぞれのエネルギーへの取り組みについて語る機会というのは他にはないユニークな試みだったと思います。エネルギーを考える際、地域の信用金庫にはどのような役割があるとお考えでしょうか?

吉原:城南総合研究所は、私の恩師であり、歴代政権のブレーンとして活躍された加藤寛先生(慶応義塾大学名誉教授)の「即時原発ゼロを実現できなければ、死んでも死にきれない」という強い思いを受けて、2012年11月に設立しました。研究所ではエネルギー政策について分析、調査、提言などを行うことをめざしています。加藤先生には、初代名誉所長となっていただきましたが、翌年1月に残念ながら逝去されてしまったため、現在は先生とも親交があり、「原発ゼロ」を掲げている小泉純一郎元首相に二代目に就任していただいています。

その研究所が主催で10月22日にシンポジウムを実施しました。全国の地域金融機関でも、エネルギー事業への取り組みが増えてきています。今回はそれを他の金融機関に共有したいという意図がありました。シンポジウム当日は、飯田信金(長野)、石巻信金(宮城)、盛岡信金(岩手)、新庄信金(山形)などに発表していただきました。また、鹿児島信金と協力して太陽光の事業をすすめている「さつま自然エネルギー」にもお話いただいています(※)。


石巻信用金庫の川井隆弘さん

信金のみなさんのお話を伺って最も感銘を受けたのは、その地域への愛着や地域への熱い想いでした。信金がエネルギー事業に関わる背景には、なんとしても地域経済の衰退を防いで活性化させたいという思いがあります。地方の信用金庫の発展は、地域が活性化することなしにはありえませんから、それも当然です。

もちろん、お客様から預かっているお金を融資するわけですから、自然エネルギーのように前例がないプロジェクトに対して慎重にならざるをえない部分もあるのはわかります。信金の内部にエネルギーの専門家がいるわけでもありません。だからこそこのシンポジウムのように、全国で起きている先進事例を共有して、他の信用金庫や地方銀行などの金融機関にフィードバックしていこうと考えています。城南総合研究所が情報を整理して提供することで、金融面からから地域の自然エネルギー事業をバックアップできる体制がつくれるのではないでしょうか。

※シンポジウムで登壇した金融機関は、単に地域のエネルギー事業に融資しているだけではなく、それぞれ当事者になって事業をすすめている。長野県飯田市の飯田信用金庫では、10年以上前から積極的におひさま進歩エネルギーなどが主体となったエネルギー事業への支援を続けている。石巻信用金庫と盛岡信用金庫は、それぞれサステナジー株式会社などと共同で地域にエネルギー事業会社を設立。宮城県石巻市と岩手県紫波町を中心にそれぞれ自然エネルギーを広めている。新庄信用金庫は、自らが中心となって新庄・最上地域でのバイオマスエネルギー利用をすすめている。さつま自然エネルギーについては、以前のリポートで掲載している。

◆信用金庫に託された使命とは?

Q:吉原さんは、「信用金庫は銀行とは違う」とよくおっしゃっています。そもそも、信用金庫の役割とは何でしょうか?

吉原:信用金庫というのは、一般的には小さな地方銀行のように考えられていますが、そうではありません。城南信用金庫の第三代理事長である小原鐵五郎は、「信金は利益を目的とするな、銀行に成り下がるな。信用金庫は世のため人のために尽くす社会貢献企業だ」と繰り返し言っていました。


城南信用金庫の吉原毅理事長

信用金庫のルーツは、19世紀のイギリスで生まれた協同組合運動です。当時の株式会社では目先の利益ばかりを追求して、良識のある経営が行われなくなっていました。そして極端な自由主義経済にともなって貧富の格差拡大や地域社会の停滞が生まれていました。その光景を見て、「このままでは資本主義が人間を不幸にしてしまう」と考えた人たちが、それを是正するために株式会社とは異なる組織である協同組合をつくって、コミュニティを再生させようとしたのです。現在、その当時と同じように極端な市場経済が進み、誰もが金儲けしか考えなくなったことで、世界全体がアンバランスになっています。

信用金庫は、その協同組合運動の中から地域のために働く金融機関として生まれてきました。そのため本来は地方自治の重要な役割を担っているのですが、そのような理想は当の信金業界でも知らない人が増えてきています。私は、それではいけないと思うのです。

信用金庫だけでなく、農協や生協も信金と同じように、地域を成り立たせるという理念からできた協同組合です。このところは、生協もスーパーに対抗するひとつの組織と見られるようになっていた面もあります。しかし信金からも生協からも、地域の幸せを実現するためにもう一度理念を見直そうという動きが出てきているのも確かです。地域のエネルギーに取り組む信金や生協が出てきたというのはその表れでしょう。

新規に地域エネルギーに取り組みはじめた事業者の方は、事業性に困難を抱えている方も多くいます。地域の信用金庫はその事業を支えていく存在になれるはずです。夢や理想をもって地域のためになる事業を実現しようという人たちを、どんなことがあってもやりきるんだという使命感を持って支えていくことが必要です。それが信用金庫に託された使命なのです。


シンポジウムで基調講演を行ったエイモリー・ロビンス博士。「日本は古いエネルギーシステムから早急に転換をしなければならない」と説く


◆公益、国益とは、地域の暮らしを守ること

Q:吉原さんは、「電力を考えることは、公益を考えること」とおっしゃっていますが、一般の人はまだ電力は電力会社が考えることだと思われています。「エネルギーと公益」というものをどのように考えたら良いでしょうか?

吉原:日本のエネルギー政策の歴史をふり返ると、公益性をなくして、営利事業にしてしまったことが、失敗の原因になったと私は考えています。電力会社は民営化したのに、地域独占が許されている。そのため、民間企業のはずなのに、利用者の言う事に聞く耳を持ちません。現在の大手電力会社は、損をしたら税金や電気料金で支払い、儲けたら自分の懐に入れるという、民間と行政の2つの機関の悪い所を合せたような性格を持つようになってしまっています。そのような意味からも、これまでのエネルギーシステムのあり方でよかったのかという検証をする必要があるでしょう。

現在、電力会社が自然エネルギーの受け入れを保留しようという動きがありますが、おかしな話です。このような政府や電力会社の動きからは、公益とか国益、もっと言えば愛国、ということがどこにあるのだろう?と疑問に感じます。現政権は、「日本を取り戻す」と言いながら原発推進を謳っていますが、それでいったい何を取り戻そうと言うのでしょうか?

原発のせいで国土をこれだけ汚染し、広大な地域を消失させました。その原発に、まだこの国をゆだねるつもりなのでしょうか?本当の愛国というのは、郷土や子孫の将来をきちんと考えることだと思います。先行きに巨額のツケを残すような原発を稼動させるどこが愛国なのか、どこが保守なのかと思います。

本当の国益、愛国というのは、地方の暮らしと仕事を守ることです。そこに寄り添えば寄り添うほど、原発ではなく地域の自然エネルギーをすすめていくことが大事だということが見えてくるはずです。いま、ご当地電力、ご当地エネルギーという形で、地域コミュニティでエネルギーに取り組む人たちが増えて来たことはその証明です。私たち地域の金融機関も、連携をしていきたいと考えています。
城南信用金庫のサイトはこちら

インタビュー前編はこちら


2015年最新刊。エネルギーをみんなの手に!
『ご当地電力はじめました』
(岩波ジュニア新書)