第50回:信用金庫がなぜ脱原発をめざすのか?/城南信用金庫・吉原毅理事長インタビュー(前) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

2013年9月にはじまった「エネ経会議特派員・ノンフィクションライター高橋真樹の全国ご当地エネルギーリポート」は、今回でついに50回目を迎えました!先日出版した『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)も、その成果のひとつと言えるでしょう。これも応援していただいている皆さんのおかげです。ありがとうございます。今回は50回記念として、城南信用金庫の吉原毅理事長へのインタビューを行いました。2回にわたってお届けします。

城南信金は、原発事故の直後から脱原発宣言を行い、エネルギーについてさまざまな情報発信を続けてきました。当時は「信用金庫」と聞いても、地域の小さな金融機関であるという程度の認識しかなかったぼくのような人間にとって、信用金庫が堂々とこれからの社会のあり方を見据えて、エネルギーの取り組みをはじめたことは驚きでした。

今回は、なぜ信用金庫が脱原発宣言を行ったのかという背景と、その宣言の後に具体的にどんなことを実践してきたのかについてお話を伺いました。


シンポジウムで発言する吉原毅理事長

◆困っている人がたくさんいるのに、見て見ぬふりはできない

Q:さまざまなメディアに語っていると思いますが、地域の金融機関である城南信用金庫が3・11のあとに脱原発宣言を出された背景は何でしょうか?

吉原:東日本大震災で起きた原発事故は、それまでの「安全神話」がまったくの虚構であることを明らかにしました。しかしあれだけの汚染と被害を出しておきながら、それまで安全だと言い続けて来た政治家や官僚、電力会社、経団連、マスコミなどは、きちんと反省をしませんでした。それどころか、「この程度のことで、原発政策を止めるわけにはいかない」という意見が支配的になっていたのです。私はこの様子を見てぞっとしました。調べてみると、それらの人たちは原発によってもたらされる利権構造に組み込まれていることがわかりました。原発を維持していたのはこのような構造があり、情報も操作されてきたのです。


城南信用金庫五反田本店の外観

そこで私たちは、どうすれば良いかを考えました。信用金庫は、地域を守り、地域の人たちを幸せにすることを使命とする社会貢献企業です。CSR(企業の社会的責任)の観点から見ても、未曾有の原発事故で困っている人たちがたくさんいるのに、見て見ぬふりは絶対にできません。そこで黙っていたら、私たちも原子力ムラの人たちと同じになってしまいます。そこで原発を止めるために、最大限の努力をしなければならないと思ったのです。そこでまずはじめ、2011年4月1日に城南信金のホームページに「原発に頼らない安心できる社会へ」というメッセージを掲げ、原発を止めるための節電キャンペーンを開始したのです。

◆省エネ、創エネについての金融商品をつくる

Q:脱原発宣言の後、具体的に脱原発やエネルギーに関して何をされてきたかをお聞かせいただけますか?

エネルギーについての具体的な取り組みですが、まず2012年1月1日から、原発に頼らない社会を目指して、東京電力との契約を見直し、新電力(PPS)のエネットから電気を買うことにしました。うちだけが切り替えても世の中は変わらないので、大々的に記者会見を行いました。まず新電力に切り替えたことで、城南信金では、年間約2億円の電気料金を支払っていたのですが、1000万円ほど安くなりました。また、記者会見などでアピールしたことで、他の企業や自治体がそのような方法もあることを知り、その後の新電力への切り替えブームにつながりました。


東京電力からPPSに切り替えることを発表する記者会見

省エネでは、まず不要な電気を消すことを徹底しました。照明はLEDに切り替え、空調も冷房は28度設定にしました。それを徹底することで、電力消費量を3割カットすることができました。3割というのは、原発が最も稼動していた時期に生んでいた電力より少し多い量です。特別なことをしなくても、現時点で水力と火力だけで電気が足りることがわかりました。
 
それらは震災後すぐの取り組みでしたが、さらに古い空調システムを取り替えることで、電気代が3分の1くらいになることがわかりました。初期投資はかかりますが、切り替え時期がきた支店では導入するようにしています。中でも鶴見支店では、電気ではなくガスを使った空調システム(ガスヒートポンプ)に切り替えています。また、新しくできた支店では自然空調システムを導入して、自然の風が吹き抜けるようになっています。これなら電気やガスに頼らなくてすみます。新店舗には、屋根にソーラーパネルも設置しました。まだまだ小さなものですが、5つの本店と支店の屋根に合せて41.7キロワットの設備を設置(※)して、それぞれの本支店の電力の一部をまかなっています。発電設備は今後も増やしていこうと考えてます。 

それから私たちは信用金庫なので、金融商品として企業の節電や自然エネルギー事業の支援をはじめました。法人などを対象とした「エナジーシフト」という商品では、ソーラーパネルや省エネ設備の設置について低利で融資しますというものです。

また、一般の方も参加できる枠組みとして、「節電プレミアムローン」「節電プレミアム預金」という商品も設けました。「節電プレミアムローン」は、エナジーシフト同様に設備投資への融資を、1年目は金利ゼロパーセントで貸付けるというものです。「節電プレミアム預金」は、LED照明や自家発電など、10万円以上の省エネの設備投資を行った方が、通常より高い金利の定期預金に入れるというものです。こういった他ではやっていないような金融商品を通じて、お客様と原発やエネルギーについて話をする機会ができる、ということも大切な普及啓発活動だと考えています。

※2015年1月現在:五反田の本店、世田谷の事務センター、中野支店、溝ノ口支店、鶴見支店の5カ所の屋根で実施

◆「目に見えない経済」を大切にする

Q:原発を再稼動させようと言う人たちの中には、「経済成長のために原発が必要」と考える人もいます。特に経団連などに属している大企業はそういう姿勢の所が多いように思います。

吉原:私たちは、お金の使い方を考え直す必要があるのではないでしょうか?お金を得るためだけにやるビジネスではなく、みんなが幸せになるためのビジネスを展開していくべきです。

私は、着実な経済成長は可能だと考えています。でもその成長率というのは必ずしも数字で計れるものではありません。数字だけなら、武器や原発を売ってもGDPは伸びます。でも、それでは人々は幸せにはなりません。大切なのは経済成長の先に、人々の幸せが増えるということではないでしょうか?


五反田にある本店の屋根に設置したソーラーパネル

それは、目に見えない経済と言ってもいい。目に見える経済と、目に見えない経済の両方を合せたものが、本来の経済です。人々は目に見える方しか気にしていませんが、お金だけあっても人は幸せにはなれません。安心できる環境とかきれいな空気とか、信頼し合えるコミュニティとか、社会正義とか、国際的な信用とか、そういったお金で買えないものも大事な経済なのです。指標では計れないからといって、おろそかにすべきではありません。

目に見えない経済の対極が原発です。私たちが脱原発宣言をしたとき、「金融機関がそういう政治的な発言をすべきではない」と言う人もいました。しかし私たちは、「まっとうな企業というのは、きちんと社会に貢献できる企業だ」という信念を持っています。人々を不幸にする原発をめぐる動きを黙認して、「金融機関は信念など持たずに、お金儲けだけをしていればいい」などと言うのなら、金の亡者になってしまいます。だから私たちは、この問題と向き合うことから逃げたら、「社会を幸せにする」などと言う資格はなくなるという想いで、行動を起こしました。

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