第46回:会津電力(2)− 雪国でもできる太陽光発電! | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆会津電力の第一弾設備が完成

 ちょうど1年ほど前にご当地エネルギーリポートで紹介した会津電力。当時はまだ会社が設立されたばかりでしたが、そのとき計画していた設備の第一弾が完成した今回、続報をお伝えします。なにしろ全国各地で展開が早いので、追いかける方も大変です(笑)!でも今回もとても貴重なお話が聞けました。

 取材したのは12月6日に開催された会津電力に出資した人たちが、自分たちの出資した設備を見学するツアーです。そこで、今年の10月末に稼動したばかりの太陽光発電設備などを訪問しつつ、出資者の方の声を聞いてきました。


会津電力の雄国発電所(出力1メガワット)と会津電力社長の佐藤彌右衛門さん

◆苦労して課題をクリアした雪国の発電所

 当日は、合間合間に雪が降る中での視察となりました。これまで、雪深い地域での太陽光発電は、ソーラーパネルに雪が積もり発電ができないため、他の地域と比べてかなり不利になるとされてきました。実際ぼくが視察した別の東北の発電施設では、1月と2月はほとんど発電しないというところもありました。

 そこで、会津電力では入念に雪対策を行いました。屋根の上ではなく産業用に地面に置くタイプのパネルは、あまり角度を付けると影になるスペースが出てしまうので、通常は太陽に向けて10度程度で設置されています。そこを会津では30度の急傾斜にしました。表面の加工も工夫し、雪が滑り落ちやすくしています。また、積雪や雑草の対策のため、単管パイプを地面から2.5メートルの高さにくみ上げ、さらに強風で倒れないようにと、パイプとパイプの間には風が抜けるよう工夫されています。


長井山田発電所で、会津電力のスタッフから説明を受ける見学ツアー参加者

 こうした新しい雪国独自の工夫を凝らして1年間テストを続け、やっと実現したのが今回の設備というわけです。実験段階では、工夫をすれば全国平均より会津の方がより多くの発電をできることがわかりました。この工夫を編み出したのは会津電力常務の折笠哲也さんです。折笠さんは言います。「大変だったのは、雪に対するデータがほとんどなかったことです。北海道電力が実験的にやっていたことを除けば、メーカーもほとんど経験していないという状態でした。そのため、当初は雪国でも本当に大丈夫なのかという不安を払拭するのが大変でしたが、今のところ、雪の日も順調に発電してくれています」

 現在設置されている会津電力の設備は、子会社のアイパワーアセットのものと合せて、合計で22カ所。総出力は2540キロワットで、一般家庭約750軒分の電力を生み出しています。これらの設備にかかったお金は、自己資金と金融機関からの融資、そして市民出資に福島向けの補助金も入っています。市民出資は2014年3月から募集を開始して、およそ1億円を集めることができました。

 まず訪れたのは、会津若松市の中心から車で40分程度のところにある長井山田発電所(出力50キロワット)です。訪れてみると、前日からの降雪によってずっしりと積もった雪の中で、パネルが壁のようにそそり立っていました。そして、事前の説明通り、パネルに積もった雪は滑り落ち、ほとんど雪が積もっておらず、雪の中でもちゃんと発電していました。


パネルに傾斜を付け、雪が滑り落ちる独特の構造になっている(長井山田発電所)

 ぼくも全国で太陽光発電の設備を見てきましたが、こういう景色は今まで見たことがありません。実証実験などはのぞいて、実際に事業化されている例としては全国でも初めての挑戦です。そして会津電力では、他の地域の参考にしてもらうため、設備の発電量などのデータを年明けには公開する方針で準備をしています。地域事業だからこそ、新しい道を切り開いた人たちが、そのノウハウを独占するのではなく、公開してみんなの利益にしていくことができるのです。この取り組みが雪国に広まれば、今まで冬場は発電できないとされて来た太陽光が活用できることになります。自然エネルギーにとって非常に大きな一歩ではないでしょうか。

◆環境教育も兼ねた雄国のメガソーラー


山の稜線に沿って設置された雄国発電所

 次に訪れたのは、より規模の大きな雄国ソーラーパークです。喜多方市に近いこの場所は、会津電力の社長である佐藤彌右衛門さんが関わる関連会社、大和川ファームのソバ畑に隣接した場所に設置された出力1000キロワットのメガソーラーです。こちらも、パネルの角度は30度になっています。雪の中にパネルが並ぶ不思議な光景は壮観でした。景観に配慮して、地面の傾斜に合せて設置されているので、パネルが生き物のようにうねっているようにも見えます。実際、このように配置するための建設工事は大変だったようです。


雄国大学での意見交換

 雄国発電所には、「雄国大学」と名付けられた木造の体験学習施設が併設されています。この建物の中からも、会津の山々に囲まれた雄大な発電所を眺めることができるようになっています。この建物は、子どもたちに環境教育をできるようにとつくられたもので、今後さまざまな研修やイベントを企画していくとのこと。また、隣接する農地と連携して6次産業化を計っていこうという計画もあります。

 この日は、発電所に出資した人が集まったということで、出資者の名前が掘られた木でできた葉っぱを、木のイラストに貼り付けるセレモニーが行われました。温もりのある木のイラストを書いたのは、会津若松市の彫刻家である若杉儀子さんです。


木のイラストに葉っぱのネームプレートを貼り付ける

◆さまざまな思いで出資をした人々

 会津電力に市民出資をした人は、157人で、そのうちこの集いに参加した出資者は16人でした。地元福島はもちろん、近県の宮城、東京などの関東地方から参加した人もいました。出資をした理由もさまざまです。東京から参加した男性は、会津に縁はなかったのですが、以前に青森の風車事業などにも出資した経験があったといいます。「太陽光に出資したのは初めてですが、実際に雪の中で稼動している姿を見ると実感がわきますね」と語ります。このように出資を通じて、縁のなかった地域に関心を持つようになった方もいるのです。

 一方で仙台から来たご夫婦は、原発事故をきっかけに自然エネルギーを増やすことに貢献したいと考えてきました。「でも、今までは北海道とか神奈川などの募集が多くて、地元のプロジェクトがなかったのです。お金を出すなら東北でと考えていたので、会津電力の市民出資が募集されてすぐに決断しました」とのこと。こちらは、単に自然エネルギーを増やすだけでなく、自分の住んでいる地域の事業を応援したいという気持ちが大きいようです。全国各地でこのような事業が広がることで、「私も自分の地域を応援したい」と考える人が増えていることは確かです。


市民出資をした人たちと会津電力のスタッフ(夜の懇親会にて)

 会津電力社長の佐藤彌右衛門さんは、出資者の方の思いを直接聞けて良かったと言います。「皆さんそれぞれに会津とか福島を応援したいとか、あるいは原発事故に対してどうにかしたいといった思いを抱えておられました。市民ファンドをやってみて、単にお金を集めているわけではないんだということを実感しました。そこが大事な所だと思います」
 
 会津電力を設立して1年ちょっとで、当初の計画に近い形で実績を積み重ねてきました。さらにその歩みを止めることなく、地域のバイオマスや水力をどのように活用できるかという調査もすすめています。全国ご当地エネルギーリポートでは、会津地域のエネルギー自立に向けての動きを、来年以降も注目していきます。

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