第11回:福島県会津地域・会津電力〜福島と東京の関係を問い直す!(東北・太陽光) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

❒きっかけ – 会津の人々の強い思いが創ったご当地電力

 ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。今回取り上げるのは、2013年に福島県会津地方で設立されたばかりのご当地電力、「会津電力株式会社(AiPOWER)」です。

※会津電力の続報はこちらで取り上げています(2014年12月の最新情報)

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力強い会津電力株式会社(AiPOWER)のロゴマーク

 東日本大震災と、福島第一原発の事故によって深刻な被害を受けた福島県。震災支援や原発問題に向き合ってきた福島の人々が、2011年11月に発足した「ふくしま会議」を中心に、これから福島で何をすべきかについて1年以上にわたって議論を重ねてきました。
 その中から、原発に替わるエネルギーについても関心が高まり、2013年3月に自然エネルギーの積極的な利用を掲げる一般社団法人会津自然エネルギー機構が発足します。

 「原発事故があった福島だからこそ、循環型エネルギーを取り入れていく責任がある」という人々の強い思いが結集した結果でした。福島県は地熱や小水力など、もともと自然エネルギーのポテンシャルは非常に高く、それを活かせば、エネルギー自給も夢ではないとされています。
 会津自然エネルギー機構では、そのポテンシャルデータを基に、自然エネルギーによる発電事業を行う地域の取り組みを支援したり、勉強会を実施するなど、会津地方の人々をつなぐ役割を担うような普及啓発活動に力を入れています。

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2013年7月に開催された会津自然エネルギー機構が主催するイベント「地域の自立と再生可能エネルギー」で語る学習院大学の赤坂憲雄教授(舞台左から二番目)ら。赤坂教授は、会津電力設立のきっかけをつくった一人でもある。

 会津電力株式会社 
は、会津自然エネルギー機構を母体に、地域の発電事業を具体的に実現していく主体として、資本金300万円で2013年8月に発足しました。

 会津電力は、喜多方市の大和川酒造店の当主である佐藤弥右衛門さんが社長となり、「原子力への依存を見直し、10年以内に県内のエネルギーを再生可能なエネルギーで供給する体制をつくる」という目標を掲げて歩みを開始しました。事業内容としては、発電設備の設置だけでなく、調査、研究、省エネのコンサルティングなど、幅広く地域社会を自立型にするための活動をめざし、自治体や地元金融機関とも協力体制をつくる予定にしています。

10月25日に開催された会津電力設立記者会見の様子を、オルタナの記事で紹介させていただきました。コチラも合わせてご覧ください。

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会津電力設立記者会見の様子

❒特徴 – 東京と福島の関係を問い直す動きへ

 2013年11月現在、会津電力は発足したばかりですが、事業化に向けて積極的な歩みを進めています。大きな特徴としては、原発事故で甚大な被害を受けた福島でできた、本格的なご当地電力会社だということです。
 原発事故をきっかけにして始まったご当地電力は全国で多数ありますが、多様な自然エネルギー源を活用してエネルギーを自給し、それを通じて地域の自立を図るという思いは、どの地域よりも強いはずです。

 また、社長である佐藤彌右衛門さんの強いリーダーシップも挙げられます。彌右衛門さんは、寛政2年(1790年)創業の大和川酒造店の9代目当主。同店では、会津で自社の田んぼを耕し、「農」にも挑戦するなど積極的な酒造りを行うとともに、喜多方で町づくりを行ってきた地域の名士としても知られています。その彌右衛門さんの強い思いが、会津電力設立にたどり着くエンジンの役割を果たしました。

 しかし、会津とひとくちに言っても、対象としている地域は広く、地域によって事情が異なります。そのため会津自然エネルギー機構や会津電力には、会津若松、喜多方、奥会津など、それぞれの地域から集まったメンバーが、地域の実情に合わせた決めの細かい取り組みを実現していくための検討を重ねています。

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大和川酒造の蔵のひとつ「北方風土館」。ここでも頻繁にエネルギーに関するイベントが開催された。

❒設備は太陽光から。将来は小水力やバイオマスも

 2013年10月現在、まず第一期のプロジェクトとして準備しているのが、いずれも太陽光発電事業です。2015年の秋までに、合計11カ所に設備を設置して、東北電力に売電します。合計出力は約2メガワット(2000キロワット)で、約600世帯分の電力にあたります。 
 11ヶ所の中ではじめに手がけるのが、最大出力(1メガワット)となる雄国地域(喜多方市)の太陽光発電設備で、2014年9月に稼働する予定で準備を進めています。

 第一期の太陽光発電事業を通して企業体力と信頼関係を培い、第二期以降では地域の川や森を活かした小水力発電や、木質バイオマスなども手がけようと検討中です。また、設備の周辺に子どもたちの教育施設もつくり、自然エネルギーについて学べる「ソーラーパーク」もつくりたいという構想もあります。

 設備は段階的に規模を拡大する予定ですが、会津電力が重視しているのは単に発電することではなく、地域の自立をどのように実現するかという点にあります。資金面では、地元金融機関からの融資や一部補助金の利用に加えて、市民出資などを通じて全国の市民が参加する仕組みも検討中しています。事業はパネル以外は地元企業に発注することになります。
 
❒キーパーソンからのメッセージ

会津電力株式会社社長の佐藤弥右衛門さんからは、このようなメッセ—ジをいただきました。

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会津電力社長の佐藤彌右衛門さん

 震災前までの福島県は、食料自給率がカロリーベースで1000%。そしてエネルギーは原発を除いても数百万キロワットありました。自然エネルギーのポテンシャルは非常に高い地域です。でも、地元でつくった電気は都会に持って行かれ、都会から買ってきていました。福島は、都会の植民地のような状態だったのです。原発事故を受けて、そんな状態から自立していかなくてはいけないと強く思いました。
 
 私は、飯舘村のお米を使って30年以上お酒を作ってきましたが、放射能によってそれができなくなりました。放射能の影響は何万年も続きます。それは人間がコントロールできないものです。一方、自然エネルギーは福島にたくさんあって、循環するエネルギー源です。私はそのエネルギーを使って、地域の力を強くするべきだと考えました。千里の道もまずは一歩から。私の子や孫たちにとって良い選択をするために、今から種を植えるべきだと思っています。

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大和川ファームの稲。会津のお米を使った地域のお酒造りを進めている。

❒真樹の感想として

 原発事故によって、現在もさまざまな被害を受け続けている福島県。その地から、地域のエネルギーを担おうする活動には、他の地域のご当地電力の動きとは違った意義があるように思います。しかも、中心メンバーは3・11まではエネルギー事業とは無縁だった一般市民ばかりです。その人たちが思い切って電力会社をつくろうと行動に移した覚悟には、相当なものがあるでしょう。会津電力の活動を通して、東京と福島の植民地のような関係を変えて、地域に力を取り戻していくというコンセプトは、電力の問題を越えて、全国の都会と地方とのいびつな関係を見直すことにつながるかもしれません。
 
 「一般市民」とはいえ、中心メンバーには震災後から太陽光パネルを扱う業者として活動していた方や、事業を長く経験されてきた方も多く、経営の術には長けています。ぼくからすると、熱い思いに加え、生き残っていけるビジネスセンスを兼ね備えたチームが結成されたという印象です。もちろんこれからさまざまな課題も乗り越えていく必要があるので、「地域のエネルギーや力を取り戻す」という壮大な計画の実現には時間がかかると思いますが、地方から新しい運動が生まれたという意味で、大きな一歩を踏みしめたと言っていいのではないでしょうか。

会津電力の活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の情報などはこちらのリンクからどうぞ。

会津電力株式会社
一般社団法人会津自然エネルギー機構
NPO法人会津みしま自然エネルギー研究会
ふくしま再生可能エネルギー事業ネット
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