第45回:ご当地電力が本音をぶつけあう!〜首都圏市民電力の集い〜 | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆都市部のご当地電力が集合!
 
 まずは記事掲載のお知らせです。自然エネルギーで地域のエネルギーの100%以上を生み出している自治体は、全国でどれくらいあるかご存知でしょうか?実はすでに57もあるんです!それを調査する「永続地帯」という取り組みを取材し、それをこれからさらに増やすために何が必要かについてWEBメディアのオルタナに掲載しました。

ニュースはこちらからご覧ください。

 今回のご当地エネルギーリポートは、11月9日に東京都調布市で開催された円卓会議「首都圏市民電力の集い」の報告です。これまで比較的個別に動いていた地域のエネルギー事業が、今年に入ってネットワーク組織をつくり、連携してきた状況は、全国ご当地エネルギー協会や、市民電力連絡会の話でも紹介しています。今回のイベントは、その両者に加えて長い間、太陽光発電を広めるためのコンサルタント的な役割を担って来たPV-ネット(太陽光発電ネットワーク)の3者が共催して行われました。そのためこの日は、主に都市部で活躍するご当地電力が集結することになりました。

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会議は円卓スタイルで行われた。

 都市部では、2012年に政府がFIT(固定価格買取制度)が導入されてから新たに事業を始めたという人がたくさんいます。しかし、都市部の市民が始めた取り組みなので、知識や経験だけでなく人材や資金が不足、さらに土地が足りないというような多くの課題に直面しています。今回の会議は、そのようなそれぞれの課題を共有した上で、どのように協力していくのがベストかについて知恵を絞る場として設けられました。

 市民電力連絡会代表の竹村英明さんは、「今の段階でも、市民主体の小さな事業では採算がぎりぎりですが、政府や電力会社側は『FITの価格が高い』『自然エネルギーは高い』という雰囲気づくりを進めているように見えます。そういう声に抵抗していくためにも、このような場を通じて、新しい事業の形を模索していけたら良いと思っています」と語ります。

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大磯エネシフトの岡部さん。売電収入の中から、福島の子どもたちたちへの支援を出そうという仕組みをつくっている。

◆社会性と事業性のバランスをどうとるか

 会議では個性豊かな6つのご当地電力から、活動内容と課題の報告がありました。その一つが、練馬区で10年にわたって独自の活動を続けてきたNPO法人元気力発電所です。

 元気力発電所は、代表の新藤絹代さんら生活クラブの組合員を中心に運営してきたグループです。主に運営するリサイクルショップの売上と寄付金を合せて、練馬区内の施設に太陽光発電設備を設置してきました。これまで設置したのは5機で、いずれも出力は一般家庭規模の3キロワット程度です。規模が小さいため、売電は行わず、電気は自家消費しています。設備は寄贈しますが、設置場所には元気力発電所の賛助会員になってもらい、会費をいただいています。

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元気力発電所の江原文子さん。

 当日報告した元気力発電所の江原文子さんによると、10年間でやっと5機設置したものの、リサイクルショップの運営も大変で、マンパワーが質量ともに不足していることが悩みになっていました。メンバーの中心は主婦層で、脱原発と自然エネルギーを増やそうという思いは強いものの、知識や技術が追いついてきません。

 しかし、市民電力連絡会などのつながりができた最近になって、他のご当地電力に参加する多様なメンバーや、電気や建築の専門家が協力してくれることも増えたと言います。さまざまな活動とネットワーキングをすることで、幅が広がってきたと言えるかもしれません。

 もう一つは、このご当地エネルギーリポートでも紹介した調布未来(あす)のエネルギー協議会です。協議会は調布市の公募を受けて、公共施設の屋根を貸りて太陽光発電を行う事業を入札しました。合計で1メガワット(1000キロワット)弱の設備の設置を、2014年の4月までに終わらせ、すでに売電を開始しています。また、現在は民間施設の屋根借り事業や、戸建て住宅の屋根も使えないかと検討を行っています。

 代表理事の小峯充史さんをはじめ、ビジネスマンが集まって運営している調布の取り組みは、事業面では大きな成果を出しているように見えます。しかし当日報告した阿部正幸さんは、これまでは事業中心でやってきたものの、情報を市民に発信する力が弱いと感じていました。また、中心になっているメンバーはもともと知り合いだった人が多いため、参加メンバーの輪が広がらず、新たな意見が出にくいという課題もありました。

 特に、メンバーが男性ばかりなので、女性や生活者という視点が欠けてしまうといった面もあります。協議会はその対応の一つとして、女性のライターさんに定期的に調布の活動をリポートしてもらう活動を始めたところです。

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練馬グリーンエネルギーの原尚美さん(右)と、調布未来のエネルギー協議会の阿部正幸さん(左)。

 この2者の報告を受けて、しずおか未来エネルギーの服部乃利子さんは、自分たちも社会性と事業性のバランスをどうとるか、という部分でいつも悩んでいるとコメントしました。

「私もかつて消費者団体にいたので、練馬の活動の大変さはすごくよくわかります。大事なのは、この活動を通じて最終的にどのような姿をめざすのか、ということをはっきりさせるということでしょうか。そのような意味で、調布のようにまず事業を確率させてから社会性を考える、というスタンスは面白いアプローチだと思います」。

◆都市部の自然エネルギー事業は限界か?

 会議ではこの他、行政との関係づくりをどう進めるか、資金調達をどのように円滑に行うかといった議題があがりました。そして、ISEP(環境エネルギー政策研究所)の飯田哲也所長や、PV-ネットの高柳明音さん、千葉商科大学で金融が専門の伊藤宏一教授ら、それぞれの道の専門家がコメントを行いました。


コメントをするPV-ネットの高柳さん。

 特に大きな議論となったのは、事業の形態をめぐる話です。FIT制度を活かして屋根に太陽光設備を載せる事業を進めて来たが、価格は毎年が下がるし、土地探しも苦労するので、都市部でやるビジネスとしては限界なのではないかという意見も出ました。

 これについてISEP研究員の古屋将太さんは、こう言いました。「ビジネスとしてそれなりの規模でやるには太陽光を設置する規模をかなり増やさないといけないので、市民の集まりだけで進めていくのは確かに大変です。でも、こうした活動をなぜやるかという目的は、太陽光発電を増やす事ではありません。都会には屋根以外にもいろいろなポテンシャルがあります。例えば調布の協議会では太陽光発電で得た収入を省エネにつなげようとしています。そのようにさまざまなアイデアを工夫すれば、まだまだ道は開けるのではないかと考えています」。

 PVネットの田中稔さんも言います。「東京の電力を東京だけでまかなえるわけではありません。必ずしも地産地消にこだわらず、静岡とか神奈川とか発電量のポテンシャルが高い地域と協力して作るという方法もあるはずです。近いうちに、東京ではコストがかかりすぎて再生可能エネルギーの採算が合わなくなるかもしれません。でも場所は違っても東京の市民がお金を出して実施するプロジェクトが増えれば、それで良いのではないでしょうか」。

 この話の関連では、生活クラブの関東の4生協が出資して、秋田に風車をつくった例をリポートで紹介しています。確かに、そのように考えれば「都市部だけで何とかしなければ」という呪縛から離れて考えられるかもしれません。


今年の3月に団体を設立した八王子協同エネルギーの田中拓哉さん。設備の1号機は、牧場の屋根を活用している。

◆ハードルを乗り越えるために何ができるか

 今回の会議には、80人ちょっとの人が参加しました。市民電力連絡会で事務局長をつとめる山本精一さんは、数々のハードルを乗り越えるために、連携する必要があると語りました。

「これまでは、都市部で同じような悩みを抱えている複数の団体が、本音で語り合う場があまりありませんでした。そこに意義があるし、それぞれの活動からお互い刺激を受けることもあったのではないかと思います。例えば多摩とか調布の活動は、成功事例として語られることが多いのですが、そこでもたくさんの課題を抱えているんだと今回お話ししていただきました。でもダメだからあきらめるのではなく、さまざまなトライをしています。例えばこうした市民電力が連携してひとつの風車を建てるような動きにしていっても面白いと思います。そうした知恵を出し合って、何とか生き残れる方向につなげていきたいと思っています」。

 市民電力連絡会は、今後も全国ご当地エネルギー協会PV-ネットと協力しながら、このような会を定期的に開いていきたいとしています。

◆関連リンクはこちら

全国ご当地エネルギー協会
市民電力連絡会
PV-ネット(太陽光発電ネットワーク)