第40回:日本初の市民出資による小水力発電所づくり!アルプス発電 | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

 全国ご当地電力リポート、40回目です。今回は内容にいく前に、ひとつ嬉しいお知らせです。以前ご当地電力リポートで取り上げた自然エネルギー事業をやっている企業に、リポートを読んだ若者から御社で働きたいと問い合わせが来たそうです。そして、面接を経て採用となったとのことでした。ご当地電力リポートを続けていく事で、いろいろな新たな出会いが生まれるんだなと実感しましたね。新人さんには、大変な事もあると思いますが、ぜひこの業界で頑張っていって欲しいと思います。

さて、今回紹介する富山県の小早月発電所は、全国で初めて市民出資により建設された小水力発電所です。水の豊かな日本では、かつて各地で地域が主導して積極的に小水力発電を設置していた時代がありました。海外からの輸入エネルギーと、大規模集中型のシステムに頼り切った現在のエネルギー供給の課題を感じ、再びそこに目を向ける人たちが増えています。

 小水力発電所とは、一般に出力1万キロワット以下の発電所を指します。ダムのように川を堰き止める貯水式の発電所ではなく、川の流れを止めずに水車を回す流れ込み式なので、環境負荷が低いのが特徴です。水力発電は一般的に昼も夜も、年間を通して安定して発電ができる効率の良い発電所です。もちろん増水や渇水により流量が変化することはありますが、しっかりとした調査をすることで予測し、対応することができるようになっています。その小水力発電所を地域の民間企業主導で設置したのが、小早月発電所になります。

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清流の小早月川

◆地域の水を地域に活かしたいという社長の思いを受け継ぐ

 「小早月発電所」は、立山連峰から流れる豊富な水を活かす小水力発電所で、2012年4月から稼働をはじめました。この発電所は、最大出力990キロワットで、年間で約5,464メガワット時(一般家庭約1500軒分の電力)を発電しています。
 発電所を建設した小早月川(こはやつきがわ)は、立山アルプスの名峰、剱岳を水源とする二級河川早月川の支流です。早月川とその支流は水量が豊富なうえに急勾配で、小水力発電には向いている地域といえます。そのため、付近には北陸電力が建設した水力発電所が多数設置されています。
 
 株式会社アルプス発電の元となったのは、故古栃一夫さん。この地域で生まれ育った元県会議員で社長の古栃さんは、子どもの頃からここに水力発電所をつくることを夢見ていました。古栃さんは、地元の土木建設業の技術・ノウハウを活かせる新しい事業として小水力発電事業の実現を志し、10年以上かけて全国各地の発電所を見て回り、地元の水系を調査してきたのです。そうした調査開発のなかで、全国小水力利用推進協議会の事務局長中島大さんや、自然エネルギーの地域事業を応援しているISEP(環境エネルギー政策研究所)所長の飯田哲也さんがアドバイスに入り、本格的に事業を進めることになりました。

 2005年に富山県内の地元経済人からの資本金出資の協力を得て、株式会社アルプス発電を設立。資金調達や技術面の困難を乗り越え、やっと建設が始まった頃、残念なことに古栃さんは亡くなくなられてしまいました。その後、次男である古栃均(現社長)さんが中心となり、創業メンバーがその遺志を継いで小早月発電所を完成させました。

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小早月発電所の発電機

◆小早月小水力発電の仕組み 

 小早月小水力発電は、小早月川の砂防堰堤(えんてい)から取水し、約3キロ下流に位置する発電所へ水を流し、発電した電気はPPS(特定規模電気事業者)に販売しています。 発電に使った水は、放水口から再び川に合流させています。
 水を利用するには、法的な水利権(この場合は滑川市が所有)をクリアする必要があるのと同時に、それまで川の水を使ってきた地域の人たちが持つ慣行水利権にも配慮する必要があります。太陽光や風は、ほとんどケースでは「誰かに取られた」と文句を言う人はいませんが、水は使える水量が目に見えて減るので、これまで使ってきた人たちの了解を取らなければならないのです。
 アルプス発電では、地域の人たち向けに何度も説明会を開き、理解してもらうことができました。もともと先代の社長がこの地域出身だったということも信用を得られた理由となりました。
 工事で最も費用と労力がかかったのは、取水口から発電所まで約3キロにわたって直径約1メートルの導水管を埋める作業でした。小水力発電では、発電量は水量と落差に比例します。ここでは3キロの距離の間で、110メートルの落差が生まれています。
 2012年4月から正式運転をはじめ、9月にはFIT制度(固定価格買取制度)に設備認定されました。

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ゴミを自動で取り除く除塵機

◆苦戦した資金調達

 発電所建設に際してまず苦労したのが、資金調達です。総額の約10.5億円のうち、およそ半分を環境省の補助金でまかなえることになりましたが、残る半分を銀行は融資をしてくれませんでした。理由のひとつには、北陸地域での自然エネルギー事業が少ないことが挙げられます。銀行としては経験がないので、どのように評価すればよいのかわからないのです。また、ある程度の採算が見越せるFIT制度も事業の計画時点では始まっていなかったので、採算が取れるという証明が難しかったということもありました。

 そこで、足りない資金を長野県飯田市の太陽光発電事業で実績のあったおひさまファンドを通じて、市民出資という形で集めることになります。市民出資では、プロジェクトの資金をまかなう5億円分と、工事のつなぎ資金(必要な資金が調達できるまで一時的に借り入れる資金)となる2億円の、合せて7億円を募集しました。市民出資の募集は2010年9月から始まり、つなぎ資金の2億(一口300万円 年7%)は比較的早く集まりました。また、5億円の方は一口50万円で7年で年3%の金利をつけて返済するものでした。こちらは口数が多かったこともあり、募集当初はそれほど伸びませんでしたが、東日本大震災を受けて、自然エネルギーへの関心が高まったことで、結果として1年もかからずに集めきることができました。出資者は全国から合計で530人余りに上りました。2012年の小早月発電所の稼働後は、順調に発電を行い、出資金は予定通り返済されています。

 年間の設備利用率は、太陽光発電はおよそ12%、風力発電は20%、小水力発電ではおよそ60%程度とされています。この小早月発電所では、当初の計画を62.4%と設定して、1年目の2012年はほぼ計画どおりの実績となりました。そして、翌2013年も順調に運転されています。

◆水車を回すのは人間

 この地域は4月まで2メートルの雪が積もる豪雪地帯ということもあり、稼働後のメンテナンスにも苦労が絶えませんでした。小早月発電所では、取水口のゴミ取りなどのメンテナンスを手作業で行っています。
 特に稼働した年の最初の冬は、取水口にゴミがたまり、発電量が落ちるという事態が起きました。そのため、その後はスタッフが確認のため雪の積もる発電所から取水口までの3キロの距離を、カンジキを履いて歩いて登りました。
 現在は専用のブルドーザーを配備、取水口にカメラを設置したため、ゴミがたまっているかどうかは事務所で確認できるようになり、歩いて行くこともなくなっています。取水口から20メートルほど下流にある沈砂池と除塵機では、自動で小さな枝やゴミなどを取り除いていますが、ここでも雪が積もってゴミを排出しなくなったことがあります。しかし、現在は排出部分に屋根をつけたため、雪で滞ることはなくなりました。そうしたコマメな対策により、2年目は出力が上がっています。

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砂子さんが示すのは中に入って点検した導水管。距離は3キロにも及ぶ。

 取材時にお話を伺った株式会社アルプス発電の砂子真輝さんは、発電所の資金調達に始まり、建設からメンテナンスまで担ってきたメンバーの一人です。砂子さんは、地中に埋めた導水管に問題がないかをチェックするため、3キロにわたる真っ暗な直径1mの導水管の中に入り、チェックをした経験もあります。
「発電に関してはまったくの素人でしたが、5年前に先代の社長に呼ばれてはじめました。何から何まで自分でやらなくてはいけないので大変ですが、ようやく事業も軌道に乗ってきました。原発などと違い、最初から最後まで自分たちで面倒を見切れるエネルギーづくりに力を入れて行きたいと思っています」

 水車は、砂子さんのような人がゴミをひとつひとつ手作業で取り除くことで回っています。発電所というと機械が回っているイメージがありますが、実は人の作業と情熱が回しているという要素が大きいのです。
 地域エネルギーの活用には、このような苦労がつきものですが、逆に言うと彼らの奮闘ぶりは、民間企業の数人のスタッフでこれだけの発電事業をすることができることを証明しています。砂子さんの言うように、電力会社に依存しない地域のエネルギー源を手に入れることは重要だと感じました。

 小早月小水力発電の事業に計画段階から関わっているISEP研究員の浦井彰さんは、このように言います。
「この小水力発電のプロジェクトは地元の経済人が主導しているので、地域の人たちが自分たちで発電所をつくるという市民中心の『コミュニティパワー』の事例とは少し異なっています。でも、地元の建設業者が下請けという形ではなく、地域資源をエネルギーにしてお金を稼ぐことは、地域経済を活性化させるだけでなく、事業のノウハウや人材が地域に蓄積されるという大きな意味があるのではないでしょうか。これもまた電力会社のプロジェクトとは異なる、地域密着型のプロジェクトと言えるでしょう」

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発電所外観と当日一緒に視察したメンバー。一番左がISEPの浦井さん。

 最近では、民間主導の小水力発電所のパイオニアとも言えるアルプス発電に、
全国各地から見学に訪れる人がいます。砂子さんは、そんなとき「何かトラブルが起きたとき、設計会社を呼ばなければ何もわからないような設備ではなく、出来るだけ自分たちで対応できるシンプルなものをつくるといい」とアドバイスを送っています。それが、エネルギーの依存状態から抜け出す近道なのかもしれません。
 小水力発電は、調査も含めると長い時間がかかります。アルプス発電も、2つ目の事業がまだ決まっていない状態ですが、継続的に発電所をつくっていくことを検討しています。川という地域に根ざした資源を活かした発電所の行方に、今後も注目していきたいと思います。