ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。第21回は、岐阜県の山間部で小水力発電を活用した地域づくりをすすめる石徹白(いとしろ)地区の紹介です。
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(石徹白地区のシンボルになっている上掛け式水車。電気は農産物加工場に送られている)
岐阜県郡上市白鳥町にある石徹白(いとしろ)地区は、福井県との県境にある中山間地です。豪雪地帯として知られ、近くにはスキー場もあります。筆者がここを初めて訪れたのは2013年3月末でしたが、まだ雪が1メートル以上積もった状態でした。地区の人口は270人、世帯数100戸で、他の過疎地域と同様に高齢化が進んでいます。近くのスーパーまで車で30分という、利便性という意味では決して良くない地域です。
しかし、ここで取り組まれている小水力発電の取り組みが、いま全国的に注目を集めています。名峰白山の懐にある石徹白地区は、豪雪地帯だけあって水量が豊富です。昭和30年まで、この地域では、小水力発電によって集落の電気がまかなわれていました。近年、地区内を流れる農業用水路を利用して、「NPO法人地域再生機構」と「NPO法人やすらぎの里いとしろ」が事業主体となった小水力発電が設置されています。
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(雪に囲まれた石徹白地区は、水量が豊富)
設置は2008年1月から実験的に導入が進み、2013年末の段階で、2機のらせん形水車と、1機の上掛け水車が稼働中です。現在稼働しているものの規模はマイクロ水力発電機の中でも出力の小さなものですが、マイクロ水力発電の導入が地域活性化の呼び水となっており、今では地域のシンボル的な存在になっています。また、今後は規模の大きな小水力発電機を導入して、地域の電力全体を自給することをめざしています。
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(らせん式水車)
■小水力発電で地域を活性化する
石徹白の取り組みには、ユニークな点が2つあります。ひとつはマイクロ水力発電の導入、管理、運営を、地域住民が担っているという点です。「地域でできることは、地域でやる」という考え方で浸透していて、電気制御回路の製作や土木工事、日常メンテナンスなどを、試行錯誤しながら行っています。自分たちが苦労しながら導入した設備なので、自分たちで修繕することができるのです。さらに、自分たち自身がエネルギーを生み出しているという実感を伴っているという効果もあります。
そしてもうひとつ、こちらの方がより重要なのですが、単に小水力で電力を生み出しているというだけでなく、この動きが地域の活性化につながっているという点です。
小水力発電をきっかけに、休眠していた地域の農産物加工施設が稼働し始めました。そこでは、地域の特産品のとうもろこしを加工して、新たな特産品を生み出そうという試みがはじまっています。また、水車が注目された効果で、人口270人の村に、年間500人以上の見学者が訪れるようになりました。そこで、地元の女性たちが中心になり、地元の食材を使ったカフェを運営するようになりました。
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(名産のとうもろこし栽培。加工されて「つぶもろこし」「こなもろこし」として販売される /提供:平野彰秀)
過疎が進んでいる石徹白地区の重要な課題は、水車の導入よりも、地域をどうしたら存続できるかという点にあります。小水力発電をきっかけに地域の人が主体になったさまざまなプロジェクトが動き始めたことで、地域に少しずつ活気が戻りつつあります。発電プロジェクトを開始してから、子連れの若い居住者も4世帯増えたという効果も出ています。そして今では、小水力発電が地域づくりのシンボルになってきています。
■徐々に大きくなる設備
実験的な設備の導入は2008年1月から開始。実用機の導入としては、2008年11月に200ワットのらせん型水車1号機が設置されました。2009年には、800ワットのらせん型水車2号機を導入。ここで生まれた電力は、地元NPO「やすらぎの里いとしろ」の事務所の照明や外灯などに利用されています。ちなみに、らせん型水車は流れ込む水量が多く、落差が50cm程度の場所に適している水車です。ゴミが詰まりにくいため、メンテナンスに手がかからないというメリットがあります。
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(らせん式水車の電力は、NPOの事務所に送られる)
2010年には、JST(科学技術振興機構)の研究開発プロジェクトにより、出力2.2キロワットの上掛け水車が設置されました。落差3メートルの上掛け水車は地元の農産物加工所のそばに設置され、施設の電気の一部をまかなっています。この加工所は、稼働率が低く休止状態が続いていましたが、小水力発電の導入がきっかけとなり、石徹白名産のとうもろこしを使った加工品づくりがスタートしました。石徹白は豪雪地帯ですが、水車は雪が降っても停止することなく、常に稼働を続けています。
ここで取り組んでいる水力発電はいずれも、水利権の取得が容易な普通河川から取水する農業用水を活用しています。水力発電を実施する際には水利権が課題となるケースが多かったのですが、河川法の改正により、今後、水利権取得が容易になる地点が増えると考えられます。その際には、石徹白地区のような動きが、全国の活動の参考になるのではないかと思います。
(設置設備は2014年2月現在)
■地域の出資で全世帯をまかなう発電所をつくる
2015年度の実現をめざして動いているのは、石徹白の全世帯の電力をまかなえる小水力発電所の事業化です。これも、農業用水路を利用しますが、規模が大きいので、設備投資には億単位の資金が必要となります。自治体などと協力しながら、地域の資金も入れて、地域の人たちが主体になれるようなシステムを作ろうと検討中です。資金返済後は、売電益を地域振興のための事業の原資にする予定です。
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(大規模な小水力発電所の建設予定地)
現在のエネルギーシステムでは、発電した電気をいったん売電して、電力そのものは電力会社から購入しなければいけません。そのためかつてのように地域で発電した電力を地域で消費するというスタイルではありませんが、地域の人たちがお金を出し合い、運営するこの水力発電の取り組みは、地域のポテンシャルを引き出し、自治意識を高めるという意味で重要なものになるはずです。
■キーパーソンからのメッセージ
NPO法人地域再生機構副理事長の平野彰秀さんからはこのようなメッセージをいただきました。
私の出身は岐阜市で、東京でコンサルタントとして働いていました。しかし、これからの時代、希望は都会ではなくこうした地方にあると考え、石徹白に移住することにしました。
ここ石徹白もそうですが、昭和初期までこうした中山間地では、全国で小水力発電が行われていました。その頃は、自分たちの手で暮らしを作り出すことは当たり前だったのです。そう考えると、今は大きなシステムに頼りきってしまっているように感じます。そのことは、エネルギーの話に限りません。地域の人たちは、潜在的に自治の力を持っています。地域の人たちが主体になったこうした活動をお手伝いしながら、実現していきたいと考えています。
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(地域再生機構の平野彰秀さん)
■石徹白地区の活動をさらに知りたい方はこちらの関連リンクへ
法人地域再生機構
NPO法人やすらぎの里いとしろ