第27回:世界が注目するオーストラリア初の市民風車! タリン・レーンさんインタビュー(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆ご当地エネルギーの市民ファンドが勢ぞろい!

 今回のご当地電力リポートは、前回に引き続きタリン・レーンさんインタビューの後編をお届けします。その前に、間近に迫ったイベントの紹介です。

 いま、全国で市民が出資して自然エネルギーを広げる市民ファンドが盛んになっています。そのファンドを募集中の全国のご当地エネルギーが登場し、取り組みの紹介と、関連する地方の特産品やお酒をみんなで楽しもうというイベントです。ぜひご参加ください。

『日本全国ご当地エネルギー市民ファンド勢ぞろい ~エネルギー、農業、食と酒、人という「地域資本」を活かして~』
日時:4月26日(土)13:00-17:30
場所:日比谷図書文化館大ホール(千代田区日比谷公園1-4)
主催:株式会社自然エネルギー市民ファンド
※ イベントの詳細はこちら

 市民ファンドの意義や広がりについては、金融のプロとして市民ファンドの普及に携わっている千葉商科大学の伊藤宏一先生に話を聞いてきたので、近く詳しくご紹介します。

 それでは、タリンさんのお話をお楽しみください!後編は、政権交代して非常に厳しい状況になっているオーストラリアの自然エネルギーの現状と、その中で何が出来るかといった話をしています。


タリン・レーンさん

タリンさんのインタビュー前編はこちら

◆自然エネルギープロジェクトを、他の地域にも展開
Q:最近では、ヘップバーン以外の地域でも自然エネルギーを広めていると聞きましたが

 2010年からは、他の地域にもこのような形で自然エネルギーを広げたいと考え、エンバークという組織を立ち上げました。この組織は、日本でいえば環境エネルギー政策研究所(ISEP)のようなもので、地域をサポートしながら専門的な視点からアドバイスを行う活動をしています。プロジェクトを始めた年には、70ものコミュニティから自分たちの地域でも自然エネルギーに取り組みたいという連絡がありました。これらのコミュニティとは、インターネットを通じて情報交換を行い、ヘップバーンのモデルを有効活用してもらおうとしています。
 
 すでに決まっているプロジェクトもあります。シドニーのダーリングハーバーという港では、国際展示場の屋根の上に、400キロワットの太陽光発電設備を設置します。オペラハウスもある有名な港なので、注目を集めるはずです。また、首都のキャンベラでも、ソーラーファームを地域のコミュニティと自治体が連携するモデルを予定しています。将来的には、大手の事業者と連携して、地域にメリットが落ちる仕組みをつくろうとしています。


オーストラリア初の市民風車(photo:Hepburn Wind)

◆政権交代により、強まる風車への圧力
Q:現在はどのような課題を抱えているでしょうか?

 オーストラリアでは、2013年9月の選挙で環境政策を重要視しない保守連合が政権を取りました。新政権は、石炭の増産と炭素税の廃止を決めました。これにより、化石燃料の価格に対して風力発電の価格が不利になってしまいました。

 地域の人がヘップバーン・ウィンドに出資してくれた際、ほとんどの国会議員は炭素税に賛成していたので、廃止されることは想定していませんでした。ビジネスの前提が崩れ、財政的に厳しくなるのは明らかです。

 私たちは去年の11月に行われた株主総会で、政策変更の影響により今後2~3年は財政が厳しいことを率直に伝えました。出資者の皆さんはそれをやさしく受け入れてくれました。そして、少しでも状況をよくするために協力するよと言ってくれたのです。コミュニティで行う発電事業は、良いことも悪いこともみんなでシェアしていくという姿勢が大事だと改めて感じました。

 もともと、メルボルンのあるビクトリア州は世界で最も風力発電に厳しい規制を課しているところです。反風力発電ロビー団体も大きな影響力を持っています。新政権の誕生後はさらに規制が強まっているので、予定されていた自然エネルギープロジェクトには、一時凍結になったものもあります。

 この状況を変えるのは、地域での教育や啓発、政策提言などの活動です。私たちは、それを達成するためビクトリア風力連合をつくりました。メンバーには、風力発電所の関係者だけでなく、環境団体や個人など幅広い人たちが加入しています。今はとても厳しい状況ですが、その中でダイナミックな運動をコミュニティから広げていきたいですね。

◆強いストーリーを伝えていく
Q:コミュニティパワーを実現するための必要なのは何でしょうか?


2013年の「コミュニティパワー国際会議in山口」で講演

 私たちはいま、化石燃料からのシフトを迫られています。多くの人に行動を起こしてもらうためには、人々の胸に残る素敵な物語を届けていくことが欠かせません。この風車はただの発電設備ではなく、ストーリーがあるんですよ、ということを伝えていくのです。人々にこのプロジェクトを愛してもらうようになれば、コミュニティで目的を共有することができるはずです。それぞれの地域には、限られた資源しかありませんが、それを活かし、工夫すれば形にすることが可能です。そのためには、地域の人々ともに学び合い、信頼を強くしていくことが何より大事になります。

 プロジェクトが実現するまでには、長い道のりがかかります。必ずしも、はじめの情熱が長続きするとは限りません。そこで、情報公開はもちろんですが、何か進展があればお祝いするようにすることも大切です。それによって人々が自信を持つようになり、そのプロジェクトが自分たちのものだと実感できるようになるのです。私たちも年に30回くらいのイベントを行いました。風車の周辺だけではなく、地域や学校でもさまざまなプロジェクトを行いました。

 また風車には、地元の有名なデザイナーに「ゲイル」という女の子のイラストを描いてもらいました。こうした取り組みも、それまでの風車のイメージを変えるものになるでしょう。


風車には「ゲイル」という女の子のキャラクターが描かれた(photo:Hepburn Wind)

 このようなワクワクするようなイベントは、最初の目的を達成してからも続けていく必要があります。いま構想している企画としては、風車の足元で星空を眺めながらキャンプをしようというものがあります。ここでコミュニティエネルギーの会議をしたり、ライブ会場にしたりしながら、多くの人に稼働していることを見てもらいたいとも考えています。

 オーストラリアではまだ自然エネルギーが普及していません。そしてオーストラリアに限りませんが、風力発電には誤った前提に基づいた、誤解と神話が多すぎるように思います。このような機会を設けて、その誤解を解き、風力発電の本当の力を知ってもらいたいのです。

 昨年3月に、コミュニティパワー会議のために来日しました。今回1年ぶりに日本を訪れて、この1年の間に本当にたくさんのプロジェクトが増えていたことが嬉しい変化です。ISEPや地域の人たち取り組みの成果がよく現れていると思いました。2011年の原発事故から、人々の中に現実を変えるという強い気持ちが芽生えたことがわかります。

 南相馬の中学生たちにも言いましたが、人は困難を体験すると強くなるのです。コミュニティパワーの実現に取り組む人たちも、そこから得られた強さを糧にして行動を続けていってほしいと思います。


オーストラリアを訪れた南相馬の中学生たちと1年ぶりに再会

タリンさんのインタビュー前編はこちら

南相馬でのタリンさんの講演の様子は、こちらの記事でも紹介しています

※ヘップバーン・ウィンドのホームページはこちら