第26回:世界が注目するオーストラリア初の市民風車! タリン・レーンさんインタビュー | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

 今回の「ご当地電力リポート」は海外の取り組みをご紹介します。コミュニティパワー国際会議in福島(1月末~2月)のために来日したオーストラリアのタリン・レーンさんにお話を伺いました。タリンさんは、オーストラリアで初の市民風車をつくった「ヘップバーン・ウィンド」というグループのスタッフです。

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ヘップバーン・ウィンドの風車とタリン・レーンさん(左)(photo:Hepburn Wind)

 ヘップバーン・ウィンドの風車は2基合せて4.1メガワットの出力があり、付近の1800世帯の電力をすべてまかったうえで、余った電気を地域外に売っています。資源大国であるオーストラリアは、国としては自然エネルギーの導入に熱心ではありません。また、ヘップバーンの町が属するビクトリア州は、世界で最も風力発電の規制が厳しいところと言われています。しかし、そんな逆境の中で地域の人々が市民風車をつくり、地域に貢献していることが世界的に評価を受けているのです。(※)20代からこの活動に携わってきたタリンさんに、このプロジェクトについて伺ってきました。2回に分けてお届けします!

※2012年コミュニティパワー世界会議(ドイツ)の大賞をはじめ、数々の賞を受賞している。また、市民風車は国連協同組合年の記念切手のデザインにもなった。

※ヘップバーン・ウィンドのホームページはこちら

◆反対運動から、地域のための風車づくりへ
Q:市民風車はどのようにしてできたのでしょうか?

タリン:私たちの風車は、オーストラリアでコミュニティのために自然エネルギーを利用する、初めての試みとなりました。風車が完成したのは2011年ですが、さまざまな困難があり、プロジェクトが立ち上がってから7年の歳月がかかりました。また、建設したあとも出力調整がスムーズにできなかったため、最初の6ヶ月間は、売り上げがありませんでした。そういった困難を克服することができたのは、目標をともにする大勢のボランティアが参加したからです。私も当初はボランティアの一人として関わりました。


風車お披露目の日の式典の様子(photo:Hepburn Wind)

 風車の収益は地域のために使われていて、今ではコミュニティのシンボルのような存在になっています。このような動きが、オーストラリアの他の地域のモデルになってほしいと考えています。現在、風車には国内外から多くの見学者が訪れていて、2013年の3月には南相馬の子どもたちが環境学習を行う際の受け入れもしています。

 ヘップバーン・ウィンドの活動は、同じ場所に計画されていた大企業による風車の設置に地域の人々が反対運動を起こしたところからはじまりました。公聴会に参加した人の中には、市民風車が広まっているデンマークから移住していた人がいて、単に計画をなくすのではなく、コミュニティが所有するスタイルで、自分たちが主体になって風車をつくろうと呼びかけたのです。

 資金面では、プロジェクトが小さいため、銀行からの融資を受けることができませんでした。そこで最初に集まったメンバーで協同組合を設立しました。組合員は1年目は20人ほどでしたが、その後、地域の人を中心にして現在は2000人にまで増えました。組合員は総額で980万オーストラリアドル(日本円で約9億円)の出資をしています。地域の人が参加しているというのは、この活動の強みになっています。

 ヘップバーン・ウィンドには現在、私を含めて3名の専属スタッフがいて、全員が女性です。エネルギー関係の仕事は世界中どこでも男性が中心になっていますが、活動を広げていくには、やはり多くの女性が関わることが大事ですね。

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地域のシンボルになるよう、ゲイルという女の子のキャラクターが描かれている(photo:Hepburn Wind)

◆収益は自然エネルギーの普及にも
Q:収益は、どのような形で地域に還元されているでしょうか?

タリン:収益は地域にさまざまな形で還元されています。まず、発電所の半径2.5キロ圏内に住む人たちは、割安な電力を購入することができます。また、出資者には配当金が支払われています。出資者のほとんどは地元の人なので、ほとんどの利益を地元に支払っていることになります。

 さらに、この3年間に収益を地域に投資した金額は、72000オーストラリアドル(日本円で約660万円)になります。そこには、消防署や公民館などの公共施設も含まれています。例えば2013年には12のプロジェクトに投資しましたが、そのうち4つが自然エネルギーのプロジェクトでした。こうして、風車で得た収益を、自然エネルギー普及のために役立てられていることを嬉しく思っています。

 こうした活動を通じて、風車を建てることがコミュニティに25年間にわたって利益をもたらすものだと認識されるようになりました。組合員の97%には満足してもらっています。

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(photo:Hepburn Wind)

◆反対する人と市場でディスカッションも
Q:当初、住民間には溝があったそうですが、どのように乗り越えたのでしょうか?

タリン:風車の周辺、半径2.5キロ圏内には65世帯が暮らしています。プロジェクトが立ち上がって、ほとんどの人が応援してくれましたが、一部反対する人たちもいました。また、計画段階では黙っていたけれど、建設がはじまってから懸念の声をあげる人も出てきました。誤った情報に基づいたうわさ話が流れたこともあります。

 私たちは積極的な対話を続けました。うわさ話については、ソーシャルメディアで情報開示をしたり、新聞に広告を出すなど、うわさが間違っていることを示しました。そして、この風車が建つことでコミュニティにとってどのようなメリットがあるかを訴えたのです。

 小さな町だけに、反対している人と生活のいろいろな場面で出会うことになります。近所のスーパーなどで出会ったとき、きちんと説明するようにしました。地元の市場でディスカッションをしたこともあります。話す内容も、一般の事業者であれば技術的な話が多くなるのですが、私たちはコミュニティの人がきちんと理解できることをポイントに説明を行い。反対している人と一緒に、他の地域の風力発電所の見学ツアーを行い、実際の騒音や周辺住民の声を聞いてみたこともあります。コミュニティでそうした対話を続けていくことで、私たちの側も、地域のためにしっかりやらないといけないという責任感を自覚するようになりました。


タリンさんは2013年の「コミュニティパワー国際会議in山口」にも参加した

 また、オーストラリアでは風車を建てる際、たとえ小規模な設備をつくる場合でも、大規模なものと同様の調査が義務づけられています。騒音や健康、地質や野鳥への影響、そして先住民族であるアボリジニの文化遺産が埋められていないかなど、厳密に行われるのです。しかしそのおかげで、さまざまな疑問に対してクリアに説明することができました。最終的には皆さんが理解を示してくれましたが、最も大きな理由は、コミュニティのためのプロジェクトであることを理解してもらえたからだったと思います。

 情報公開は、風車を建てた後もずっと続けています。大事なことは、反対している人たちの声をさえぎるのではなく、常にドアを開けて待っているというメッセージを発し続けることです。また、ともにプロジェクトに関わってみましょうと参加を促すことも重要です。

(後編はこちらをご覧ください)

※ヘップバーン・ウィンドのホームページはこちら