第17回:ご当地電力を育てる試みーISEPエネルギーアカデミー | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆自然エネルギーを使って、本気で地域を変えたい人たちが集う場

 ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。今回は、ご当地電力を育てる取り組みを紹介します。

 自然エネルギーを地域で活かしたいという声は、昨今ますます高まってきています。しかし、実際に地域で取り組むとなると、なかなか大変なもの。比較的小さな太陽光発電システムなら数人でお金を出して設置できますが。手作りレベルでできることを越えてしまうと、何をしたらいいのか困ってしまう方が多いのも事実です。

 そこで、ISEP(環境エネルギー政策研究所)では「本気で地域を変えたい」「自然エネルギーを通じてコミュニティをつくりたい」と考える人たちを対象に、ISEPエネルギーアカデミーを開講しています。仲間のつくり方、お金の集め方など、地域で事業をすすめる際のノウハウを具体例を挙げてアドバイスしていくという実践的なものになります。


エネルギーアカデミーの受講生たち(1期生)

 エネルギーアカデミーは、2013年5月から8月にわたる第一期、そして10月から12月にわたった第二期と2度のクラスを終えました。第一期の卒業生の中からは、すでに環境省事業などの採択を受けて、実際に地域でのエネルギー事業をスタートしている人たちも出ています。今回は、2013年12月14日に行われた、第二期の卒業発表会の様子をご報告します。

 第二期は事前に人選を絞り込むなどして、第一期より少ない5人の受講生で進められました。授業は東京のISEP事務局で行われましたが、海外を含む遠方の参加者が多かったため、WEBが有効活用されています。この日行われた最終発表会には都合により欠席となった1人を除き、東京で3人、カナダからネットを通じて1人が参加して、各人の実情に合わせたプレゼンを行いました。
 
◆地域のメリットを活かしたチャレンジに

 新潟県大潟村の会社員、角田伸一さんは、風車とメガソーラーを中心にした「コメでん」プロジェクトを構想。市民出資を募り設備を設置し、電気をつくって得た配当を地域名産のおコメで返そうという事業をめざしています。
 
 事業はまだ準備会を立ちあげつつある段階で、野鳥で有名な村に風車を建てることはバードストライクの懸念もあるなど、課題も多いのですが、角田さんは、「同様の問題はどこにでもあるので、そうした地域で風車を建てられるよう、モデルケースになればいい」と話します。


新潟、大潟村の角田さん

 エンジニアの前田仁さんは、2013年10月に転職し、地元の長野県松本市で自然エネルギーの会社を立ちあげたばかりです。前田さんは、「地元にはほとんど産業がなく、過疎化が進んでいます。子どもを育ててゆくのが厳しい環境なので、地域に仕事をつくりたいと思っています」と言います。
 電力は豊富な河川を活かした小水力発電、熱供給としては太陽熱利用と木質バイオマス利用に取り組みたいとのこと。自治体との連携も含めて、こちらも課題は多いのですが、長野県はかつて小水力発電や薪ストーブの利用などを進めてきた経緯があり、ポテンシャルは十分ある地域です。自然エネルギーの政策で先行する飯田市が策定した、地域のためにエネルギーを活かす条例を参考に、松本市にもモデルをつくれたらと構想しています。


長野の前田さん


◆カナダの貧困層とともに歩む

 WEBでの参加となった岡田雄峰さんは、カナダの西海岸、バンクーバーに近いナナイモという町で、小水力発電のコンサルタントをしています。ナナイモが属するブリティッシュコロンビア州では、ダムによる水力発電で多くの電力をまかなっています。
 岡田さんは、「特定の大企業がダムを運営するスタイルが主流な中、どのように地域にメリットのある形で、分散型に転換していけるのかを学びたいと感じ、アカデミーを受講しました」と言います。現在、近郊では出力2000メガワットのダム建設計画も進んでいるとのことですが、地域に利益は還元されません。周辺には、歴史的にも抑圧され、厳しい状況におかれた先住民族をはじめとした貧困層も多く、地域内でお金を生み出す新しい仕組みを模索したいとのことでした。 


中央が小林さん

 東京都江戸川区の会社員、小林良さんは、まだ具体的な事業を考えている訳ではありませんが、都会でこそできる省エネや太陽光設備の導入をすすめる取り組みをしていきたいと考えています。他の地域と違って自然が豊かな訳ではありませんが、都会には人がいます。まずはさまざまなネットワークを築き、知恵を出しあうことから始めたいとのことでした。

◆デメリットをメリットに!自然エネルギー活用法
 
 プレゼンでは、一期生からも熱心な質問が相次ぎ、ともに地域のエネルギー事業を担っていこうとする熱気が感じられました。全4回にわたる講座と発表会を終えた受講生の皆さんは、「すでに現場で頑張っている方々と意見交換したことで価値観が変わった」「地域で事業を進めるということが、こんなに様々な人と関わる必要があるというのは想像できなかった」などといった感想を、口々に語りました。
 最後に指南役を務めたISEPの山下紀明さんが、「今回はすでに地域で実際動かれている方の参加が多かったという特徴がありました。アカデミーはまだはじまって二期目ですが、すでに各地で実践されている方にとっても学ぶことが多かったという意味では、このプログラムをやってよかったと改めて思いました。皆さんの意見を取り入れて、今後はさらに充実したものにしていくつもりです」と総括しました。ISEPでは、卒業した後も受講生たちのサポートを可能な限りしていくとのことです。
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スタッフと受講生 手前右側が山下さん

◆感想として
 
 私の感想としては、プレゼンも質疑もかなり具体的な内容が多く、すぐに現場で役に立ちそうな、実践的なセミナーの場だと感じました。もちろん自然エネルギーの事業の設立には時間がかかり、地域ごとに課題もメリットも異なっているため、こうした学び合いの場に参加したからと行って簡単に実現できるものではありません。しかし、地域の中だけでヒントを得ようとするのではなく、このような場に集った他の参加者の取り組みから刺激を受け、参考になることは多いように思います。

 例えば私が刺激を受けたのは前田さんの話でした。長野の高齢者ばかりの過疎地で、地域で住民参加のエネルギー事業を盛り上げていこうといっても困難なように思えます。しかし前田さんによれば、長野では年配の方はかつて小水力発電を使用していた事を覚えていたり、身近に薪ストーブがあったりすることで、新しい事業にも理解を得やすいというメリットもあるとのことでした。

 このように、不便な土地や、過疎や高齢化といった一般的にデメリットとされている要素であっても、逆にメリットに変えていけるのが、自然エネルギーのひとつの特徴ではないかと思います。すでに第一期生で事業をスタートさせている方もいます。今回は、第一期のメンバーも見学に来ていたため、卒業生たちの交流もはじまりました。この第二期の卒業生からも、今までになかったスタイルの地域事業のモデルが生まれることを期待したいと思います。


コメでんについて熱く語る角田さん