父が三人の孫のことを書いています。
父の書いた原文にできるだけ忠実に記載しています。
文中にも出てきますが、父は『ひ』と『し』を間違える癖があります。
(息子の私もその影響を受けています)
琴ちゃんとのこと
やっとハイハイすることができるようになった頃
ハイハイしながらそばに来る
じっと顔を見つめている
しばらくすると彼女なりに納得する
そおすると するするよってきて膝にのる
そうなるともう離れない
帰るまでつきっきり
そのうちスヤスヤと腕の中で眠る
孫の可愛さを最初にしった日である
琴ちゃんが年長さんぐらいのとき
たまに電話にでることがある
琴ちゃん元気ときく
元気という
琴ちゃん元気ときく
お風邪しいたの
お鼻がでるという
いってみればたわいのないこれだけのことだが
あの抑揚のあるあくせんとの何ともいえない
心のしびきを覚える
琴ちゃんが学生の頃だったか就職して間もないころだったか
一人で遊びに来たときのこと
三崎方面にドライブに行ったとき
土産店の並び通りを過ぎ、海岸に通じるまでの路は悪くつまずくことしきり
その都度オジイちゃん大丈夫、オジイちゃん危ないよ足許にきおつけてと
ひっきりなしに気をつかってくれた
ふと、その昔のことが目に浮かんだ
琴ちゃんがやっと歩き初めたころ
ころばないか、怪我をしないか、そんなことをたえず
気にしながら危ないよ、大丈夫と声をかけっぱなし
彼女はそんなことはしらん顔、よたよたと歩くことに夢中だった
今その孫にオジイちゃん大丈夫、足許に気をつけてと言われながら歩いているとは
法ちゃんとカルタの早取りをしていたときのこと
いつものように読み手はオジイちゃん
途中で、オジイちゃん法ちゃんが読むと法ちゃんが言った
幼稚園の年中さんの法ちゃんが読めるのかなと思いながらも交代した
すかさず
『あ』ときた
絵札を探しながら続きを待った
法ちゃんその後を読んでと言ったら
『これでいいの』と
頭の字だけの読み手でゲームが進んだ
全くはじめてのことで絵札がとりにくいこと
それでも法ちゃんは満足そうだった
法ちゃんご苦労さん。楽しかったよ
琴ちゃんが小学校に入った間もない夏休み
まだ幼稚園に入ったばかりの弟と小さい妹を連れて遊びにくるという
横浜駅から終着駅までは一直線とはいえ心配しながら待った
時間通りの電車で改札口を出てきた
なんと三人三様のリュックサックを背負い
お姉ちゃんの後ろをしっかりついて歩いて来た
琴ちゃんは私達を見ると
『オバアちゃん』と嬉しそうな笑顔になった
その笑顔は
小さな弟妹を無事つれてきたという安堵と誇りに輝いていた
この子は又ひとつ大きくなった
小学生のとき
校庭で肋木、鉄棒などの器材をつかって遊ぶことが多かった
そんなとき低鉄棒をくぐりそこねて頭の天辺を
いやというほどぶつけ尻持ちをついたことが度々あった
そのせいか鉄棒だけでなく梁のようなものの下を
通るときも自然に頭を下げて通るようになってしまった
琴ちゃんと公園で遊ぶときも、ついそのくせがでる
琴ちゃんはそれを見ていたのか、同じように頭を下げる
そうするんだと思ってのことか
(ほほえましいと言えばほほえましいが、子は親の背中を見て育つとか、もう二十五年前のことである)
まだ琴ちゃんが三つぐらいのとき
トランプを裏返しに置き二枚めくって同じ数字を合わせるゲームをオバアちゃんと三人でしていたときのこと
何か気に入らないことがあったのか突然
『もうオジイちゃんと遊んでやんない』と言った
その言気の強いこと。
あわててなんとかなだめて気嫌をなおしてもらい、ゲームを続けることができた。
なんと
琴ちゃんはオジイちゃんと遊んでやっているんだと
そう思いながらいままでゲームをしていたとは
オバアちゃんと顔を見合わせてしまった。
息子夫婦が遊びにくると
琴ちゃん、オジイちゃんと遊んであげなと言っていたので
きっとそう思い込んでいたのだと思う。
(孫と遊ばせようと気使ってくれる息子の心遣いが嬉しかった)
琴ちゃんはこのゲームが大好きで、遊びに来る度に
よく遊んでくれた。
一くんのお宮参りのときも
琴ちゃんは風邪を引いていたのでオジイちゃんとお留守番ということになった
終日二人でこのゲームをしていたほど大好きだった。
法ちゃんが年長さんのときのこと
ファミコンでゲームをしていたとき
何か虫に刺されたのか腕を無性に掻きだした
あまり強く掻くので
『法ちゃん、あまりきつく掻くと後でシリシリするよ』と言った
すると
『オジイちゃんシリシリじゃなくてヒリヒリでしょ』と言う
だから『シリシリと言っているでしょ』
そんなやりとりのあった後
そんならオジイちゃんヒリヒリと書いてみな
シリシリと書いた。
書いたとたん紙を持つと
オバアちゃんと言ってとんでいった。
オバアちゃん、オジイちゃんは『ヒリヒリ』を『シリシリ』
と書いているよ。これは違うよね。
これじゃ『ケツケツ』だよね。
その後がきつかった
オバアちゃん、これじゃオジイちゃん幼稚園も受かんないよね。
(小学校の頃から『ひ』と『し』の発音が苦手で振仮名をふるときも『ひ』を『し』と書いてしまう、日頃からなんども注意されていたのに直らずじまい)
ついに孫にガチンとやられてしまった。
『シリシリ』を『ケツケツ』だよねと言ったかと思うとすかさず
これじゃ幼稚園も受かんないよと言う
このしらめきのよさ
この子は東大生になると、そんな気になったのもこの時である
今ではこのやりとりが懐かしい
一君がまだ二歳くらいだったと思う
藤沢にある家の展示場へ行ったときのこと
結構楽しい遊び場もあり、孫も楽しそうに遊んでいた
オジイちゃん写真とってよ
と一君が言った。
撮ろうとしたらフィルムが既に撮り終わっていたのに気がついた
手持ちのフィルムもなかった
(ここで一君、もうフィルムがないよと言えばよかったのに)
撮る真似をすればと思ってそのままシャッターを押した
すると
オジイちゃん、今のは撮っていない
と言って泣きだした。
(どうしてわかったんだろう、これには参った)
幼いからといって軽々しいこと言ったりしてはいけない
目は心の窓とか
このときの一君の目がそれであった
(一君ごめんなさい、そお言いながら今でも何故わかったのかなと不思議に思っている)
一君が年長さんのときのこと
一君を膝に乗せてテレビを見ていたとき
パジャマの膝のあたりに小さな穴があるのを見つけると
穴に指を入れ
オジイちゃんここが破れているよ
オバアちゃんに言って買って貰いなと言った
その翌年のお正月
遊びにきたときのこと
家に入るやいなや
オジイちゃん、はい
と言って、お年玉の袋を差し出した
オジイちゃんはお金を持っていないから
それも自分のお年玉の中からである
幼い心にもこんな優しさがあるのかと胸のつまる思いがした
以前、なにかの拍子にオジイちゃんはお金を持っていないから
買うときはオバアちゃんに買って貰うんだよと言ったことがある
このことを一君は覚えていた。
(幼い子との対話を夢おろそかにしてはならないと一君に教えられた出来事であった)
孫が遊びにくると入浴時に
琴ちゃん誰とお風呂に入るの
と息子が言う。
琴ちゃんも心得たもの
オジイちゃんと
しびきのある声で
仰揚のある返事をする
この時の嬉しさは格別であり楽しい
早速オモチャを持って風呂に入る
この次にはどんなオモチャを用意しようかと
その後も又楽しい
それが、いつのまにか一人が三人となり、ますます賑やかな入浴となり楽しさがますます大きくなった
今日も孫が遊びに来ている
そろそろ琴ちゃんの返事が聞こえるかな
ところが
琴ちゃんが言った
パパ以外の男の人とはお風呂に入らない
えっ と 二人の孫もお姉さんへ右に並へ
楽しみは一瞬にして消えた。
(当時は幼児が危害にあう事故が多発して、新聞紙上を賑わしていた。幼稚園でも先生方が幼児にたえず注意していたと思う、そのことが彼女にそう言わしめたのであろう。とんだところで一番の楽しみがうばわれた。)
お風呂といえば法ちゃんとはこんなことがあった
いつもの様に遊びに来たとき
家に入るとするどい異臭が鼻をついた
なんの臭いかといぶかった。
遊びはじめてしばらくしたとき、何かの拍子の法ちゃんの頭が顔をかすめた
つんとあの異臭が
異臭の元がわかった
聞けば
ニンニクが大好きでよく食べている
お風呂に入っても頭を洗わせない
これが重なって頭の天辺から発散させていたのである
三人の孫とお風呂に入り最後に法ちゃんを洗う番がきた
うまい具合に法ちゃんは湯船の外側から湯船に
浮かんでいるオモチャで遊んでいる最中だった
よくしたもので、そのオモチャは木の枝で幼児が湯洛しているもので
丁度木の枝からお湯がでて頭を洗う仕掛けのものなので、
このときばかりと一緒に遊びながら法ちゃんの頭を洗いだした
最後のお湯を流したときやっと気がついた
頭を洗ったといって大声で泣きだし、風呂場を飛出していった
相当に口惜しかったのでしょう
しばらくはそばへこなかった
そばへきたときはあの異臭は消えていた
法ちゃんの笑顔も戻っていた
(法ちゃんゴメンね。でも気持ちよかったでしょ)