知らず知らずのうちに、ゆっくりと死んでいく世界(チェス盤)
其れを知った王は、死んでいく世界と同じくして死んでいく駒である自分に刻まれた記憶―
今まで紡がれてきた全てのゲームの記憶が、
日毎死んでいく世界と並行して、日毎に走馬灯となってゆっくりと意識を埋め尽くしていく、
その痛みに耐えられなくなり、狂い始めていく
狂い堕ちていく王の姿に耐えられなくなったアリステアは、
彼を殺すことで徐々に死へと向かう苦痛を終わらせようとするも、
彼は不死鳥の末裔、刺しても締めても埋めても沈めても切り刻んでも、死ななかった
最終的に彼女が取った手段は、せめて彼を苛む記憶だけでも屠る為に、彼の脳を自ら消化するという術
噛み千切って、噛み切って、噛み砕いて、噛み締めた
彼の、生きた記憶を、噛み殺した
記憶を失った王は、ただの王冠を冠った人形(駒)でしかなくなった
女王に喰された彼の記憶は、不死鳥の片翼となって、彼女の背に形を成した
脳という肉を消化しても、其れが再生されないことを知った女王は、
自ら屠った愛しい亡骸も序でにと、我が身へ取り込む(喰す)
かくして、王の血肉は女王の血肉となり、駒を失った世界はまた一歩、死へと近付いた
彼は背に残された彼の唯一生きた証であるところの小さな片翼で以て、世界の死の痛みを、時折感じ取るようになる
のみならず彼に齎された変化は、降格
不死鳥という人ならざるモノを体内に取り込んだことにより、彼自身の持つ片翼は朽ち、骨身と化し、元来持ち得ていた両性を失う
歪な二種の翼と、名残たる角だけを残されて、彼女(彼)は死に掛けた世界に取り残された
血肉を喰われ骨のみとなった王の亡骸は彼女の手によって灰にされ、森の奥に埋められた
死んでいく世界
民(駒)を喰すことで我が身を保ち、灰から還る筈の王を待ち続ける日々
記憶を屠って尚生還するのかさえ不確かであった
が、それでも彼女は待つしかなかった
盤上から逃げられないことよりも、ただどうせ終わるなら、誰かと共に終焉を迎えたかっただけなのかも知れない
そして彼女は、変わり果てた彼に出会った
片翼を失い、前世の記憶も失い、自国の色たる赤色さえも失って、森を彷徨う一羽の鳥に
「嗚呼、お帰りなさい」
さぁ、共に終焉を迎えようか
