二足の草鞋 -51ページ目

孤独な道標 【第十章】~不吉な予感⑧~

【第十章】
≪不吉な予感⑧≫

みるきーは急いで駅まで迎えに来てくれた。
淳介はバイクだったから、電車に乗ることはないだろうけど、もうこれ以上、淳介に怯えた毎日を送りたくはなかった。
みるきーにはこれまで何度も警察に行くように言われていた。でも、私の心のどこかで淳介をまだ救いたかったのかもしれない。なかなか私はみるきーの言葉にうんと返事をしなかったが、今回のことでみるきーには念を押され警察に行く覚悟をした。
以前の恋人を訴えるという行為は私にとってあまりにも胸が痛んだ。でも、これ以上、みるきーにも迷惑をかけたくなかったし、私自身も終わりにしたかった。

「一緒に警察署行こうか?」

「ううん、大丈夫。一人で行ける・・・。相談している会社の人に付き添ってもらうかもしれないから。」

翌週私は、会社の人に連れられ最寄りの警察署に被害届を出しに行った。
そして、すぐに警察により、相場淳介に“警告”という内容証明が出された。
その内容証明は、相手に警告というよりはプレッシャーを与えるものであって、真剣に淳介を追い込むつもりはなかった。
精神的な強制力を期待できると、警察側にメリットを説明されたから私はそれに従った。警察側も、以前の恋人関係でのこういういざこざは、よくあると言っていたし、最近はインターネットやブログでこう言った思いを綴っているだけの人もいて、警察側も被害が出る前に止めたいが、なかなか規制に踏み込めないらしい。
警察側もこの内容証明を見た淳介が、任意で警察に出向き警察側の指導と意思を伝えることができることを願っているようだった。警察側にはここまでしかできない。
警告のあとの“禁止命令”は警察ではなく、公安委員会が施す措置なのだという。
そして、私が何よりも思っていたことは、この“警告”により私の心がもう淳介にはないという事を知ってもらいたかった。
だから、私は警察側に出した被害届の中には、淳介の家で犯された悪夢や、路上での待ち伏せの後の強引なキスなどは被害に加えてはいなかった。
警察側が男性だったのもあるのかもしれない。一緒に付き添ってくれた人も男性だったから、言いだせなかった。
内容証明は速達で書留、配達証明付きで出したので、すぐに届いただろう。
それから暫く何もない日が続いた。
そして、淳介のブログは閉鎖され、新しいブログを始めていた。
“秘密日記”これが、新しい淳介のブログタイトルだった。また、私のブログにペタをつけてきたからすぐにわかった。
最初の頃の内容はおとなしかったが、すぐに下品な内容に変わっていって以前とあまり変わらないブログだった。
それでも、“警告”が効いているのか、待ち伏せをすることは無くなっていたし、幾分か私の心にも平穏が戻っていた。
みるきーとも出逢って半年が経ち、私はみるきーと過ごせるごくごく普通の生活にとても感謝していた。

どこかいろんなところへ行くことや、食べに行くことが楽しいことへ繋がるわけではないという事。みるきーは週末はほとんど家から出ることなくゲームばっかりだった。

でも、そんな横で読書したりのんびりと猫のように、みるきーの横にへばり付いて寄り添っていられることが幸せだった。
みるきーと一緒にいる時は、安心した幸せを感じられることができ、淳介のことは一時でも忘れる事が出来ていた。
桜が満開になる季節、私とみるきーは花見に行った。
ベンチに腰掛け、花見を堪能しながらブログを見てみると、淳介がブログを更新していた。

仕事の都合もあり彼女の近くに4月より住みます
新しい土地で新しいBARを見つけて彼女を連れていくのが夢
その夢の実現の為にいま
彼女を悪から救い出すのが使命
彼女が俺を必要とする限り
俺は彼女の側にいる
彼女を幸せに出来るのは俺だけだ
誰にも渡さない

ああ、淳介は本当の“警告”の意味を知ったんだ。

警察側にはこれ以上の措置が出来ないことを知ったんだ。私が公安委員会に告訴しない限り“禁止命令”が下ることはないと確信したんだと思った。

私は次の日、管轄の警察署を訪れ内容証明を送った後、どうなったのかを聞きに出向いた。

すると、淳介はその内容証明が届いた次の日に警察署を訪れ、任意で事情聴取に来たのだという。そして、自分の身分や現在の状態を偽ることなく全て明かしていったのだという。そう、淳介は自分の母親の看病も含め頑張っていることなども喋っていたそうだ。
そして、警察側は私に対しこう言ったのだ。

「長年こういう職に就いていると、不審者とか、犯罪を犯しそうな人っていうのは、その人の身形や身分なりを見たら、だいたいわかるんですよ。相場さんに限ってはそれは全く感じられなくてね。申し訳ありませんって深々と頭を下げていかれましたよ。なんでも、母親の面倒を一人で見ているそうじゃないですか、その母親も藤井みるくさんを慕っていて頼りにしているそうじゃないですか・・・。いやね、どちらの言い分もわかりますよ。でも、相場さんも故意に藤井みるくさんを追い遣っているんではないということ。まあ、今後はどちらも様子見なんじゃないのかな?」

私は、何も言えなかった。淳介の策略に引っ掛かった気がした。自分の身分を全て明かした上で信じ込ませる・・・なんて計算高く打算的なんだ。ましてや警察までも欺くなんて。
私はなにか決定打になる証拠が欲しかった。警察側もうんと言わざる終えない証拠を突きつけてやりたくなった。
でも、本当は怖かった。これ以上、何も起こりませんように・・・と心の中では叫んでいた。