2020. 2. 15 (土) 14 : 00 ~ 福岡シンフォニーホールにて
<第20回 名曲午後のオーケストラ>
ベートヴェン:「エグモント」 Op.84 序曲
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
マスネ:タイスの瞑想曲
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン Op.20
(ソリストアンコール)
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータより
パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006より 第3曲 ガヴォット
チャイコフスキー:交響曲 第4番 へ短調 Op.36
(アンコール)
マスカニーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
ヴァイオリン:前橋汀子
指揮:小林研一郎
九州交響楽団
(コンサートマスター:三上亮(客演))
名曲午後のオーケストラシリーズは年4回、毎回土曜日の午後2時から開催される。この日は今シーズン最後の回だった。
そしてコバケンさんが九響に登場するのも久々。恐らく2018年8月の「三大交響曲の夕べ」以来じゃないかな?(違ってたらスミマセン) 私がコバケンさんを聴くのは昨年5月のハンガリー・ブタペスト響以来。
ステージに登場したコバケンさんは、いつも通り背筋がぴんとして指揮台に上がる前に客席とオケに向かってそれぞれ深々とお辞儀をされた
1曲目はベートヴェンの「エグモント」序曲。
すごくよかった 弦は14型でチェロは8挺、コントラバスは7挺といつもと同じだったが、低弦がとても響いてきて曲の魅力をさらに引き出していた。この日はコントラバス首席に大阪フィルのサイモン・ポレジェエフ氏、他PACオケのポール・ウェール氏、ロバート・ウィドロウスキ氏が客演されていたがそういう影響もあったんだろうか、特にコントラバスの響きがすごく心地よく響いてきた。
2曲目以降の前半はソリストの前橋汀子氏を迎えてのヴァイオリンの小品を3曲。
前橋汀子さんを聴くのは初めて。 クラシックを聴き始めるようになる前からそのお名前だけは私でも知ってたくらいだから、相当な大御所なのだろうと思っていた。
この記事を書くにあたって初めて前橋さんのプロフィールをwikipediaで見てみて超驚いた。すんごい経歴! せっかくなので書き留めておきます
前橋汀子 (1943.12.11~)氏は少女時代にヨーゼフ・シゲティとダヴィッド・オイストラフの来日演奏会を聴きヴァイオリニストの道を志す。中学生からロシア語を独学、17歳でレニングラード音楽院に留学、3年後に一時帰国した後、新ウィーン楽派などの音楽への興味からジュリアード音楽院に留学、ドロシー・ディレイ氏に師事。さらにニューヨークから渡欧してスイスのモントルーでヨーゼフ・シゲティやナタン・ミルシテインの薫陶を受けるシゲティの他界後もモントルーに暮らし、最晩年のチャップリンやココシュカとも親交を結んだ。
・・・すんごい経歴ですよね! 前橋さんの人生にそうそうたるお名前が登場するのにも驚いたが、そのアグレッシブさの方に心底感服!!
ナタン・ミルシテイン氏と前橋汀子さん (写真はwebからお借りしました)
ステージに登場した前橋さんは、真紅のボリューミーなドレス! 御髪はまるでマリー・アントワネットのように後ろにまとめて縦巻きロールぽい感じ。
立ち位置まで来ると、ご自分のハンカチをコバケンさんの譜面台の端っこに置いた。指揮者の譜面台をお借りするとはさすが大御所!
サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」、マスネの「タイスの瞑想曲」、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」はいずれも前橋さんの十八番らしい。
4日前に聴いた諏訪内さんの太くて強い音色と比べると、細目な音。でも芯が強く直球で響いてくるのは一緒(使用楽器は1736年製のデル・ジュス・グァルネリウスとのこと)。 女性のご年齢のことを言うのも失礼だが、とても76歳とは思えない指回り!
特に陰のあるような哀愁漂う音色がとてもよかった
ちなみに2曲目の「タイスの瞑想曲」のハープ(客演の篠原英子さん)がめちゃめちゃうまかった!
3曲目のツィゴイネルワイゼンの途中で前橋さんが譜面台に手を伸ばし何やら取っていた・・と思ったら弱音器だった(私が最初指揮者の譜面台に置いたのをハンカチと思っていたのはハンカチの上に置いた弱音器だったみたい)。で、弱音器を使い終わったら、それを棒を振っているコバケンさんへ渡した! 弱音器を受け取ったコバケンさんはそれをスッとご自分のポケットへ。
す、すげー!! 指揮者と弱音器のバトンパスをするとはさすが大御所!
前橋さんの真紅のドレスが大輪の花のようでした
演奏が終わって拍手の中、カーテンコールで登場したおふたり。コバケンさんはマイクを持って登場、『いやぁ、いつまでも瑞々しく若々しい音色を聴かせてくれる前橋さん、その若さの秘訣は何ですか?』と質問、前橋さんは『え~?さて、どうかしら?』とはぐらかしつつ、『若い方が多く一生懸命演奏される九響の皆さんのおかげで今日はとっても弾きやすかったです。ありがとう。』と仰った。
コバケンさん、『前橋さんは僕が駆け出しの頃は怖くてですね~、僕がちょっとでも間違えると厳しく睨まれてね~(笑)』というと、前橋さんはコバケンさんの肩をちょっとぉ~とでもいうように軽く叩いて笑っていた(その時の写真が)。 コバケンさんは『でも、年齢とともに、というか年のせいでもないですけどね!今はとても丸くなられたと思います。 で、アンコールはしてくれるんでしょうね?』と言ってオケの一番後ろの空いた席に座ってアンコールにじっと耳を傾けていた。
今なにしろこの時期でサイン会などは催されないことが多いようだが、前橋さんは終演後にサイン会をやっていた。実はこの日聴くまでは前橋さん自身にさほど関心はなかったのだが、自伝も書いておられるみたいでその本もぜひ読んでみたい。
私のヴァイオリン 前橋汀子回想録
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後半はチャイコフスキーの交響曲第4番。
前にコバケンさんでこの曲を聴いたのは、2016年12月の読響との福岡公演。そしてこの曲自体を聴いたのはちょうど1年前のクルレンツィス&ムジカエテルナ。クルレンツィスも大感激したけど~、今日の演奏も めちゃめちゃよかった
まず金管、特にトランペット🎺の松居さんがやっぱりめちゃめちゃ上手い!松居さんが吹き出すと金管全体がぐっと華やかに締まる気がした。ホルンも最初は若干不安定だったがトランペットやトロンボーンに引き寄せられたか途中からはかなりよくなった。クルレンツィスの4番は金管を割と抑え気味に吹かせていた印象だったが、コバケンさんは金管をめいっぱい鳴らせていたので、私の3階席までもビンビンに響いてきてシビれた~
コバケンさんは聴きなれた曲でもいつも「おっ?」という発見、新たな面を気付かせてくれる。第2楽章で主旋律が鳴る中、伴奏の「タタタタ~」という旋律をヴァイオリン、次にチェロ、そしてフルートソロが順に演奏するところ(1回目)を主旋律と同じくらいの音量で響かせていて、それがとてもよかった(大村さんのそこのフルートがまた絶品だった)。そして同じ主旋律の伴奏(2回目)を今度は木管が「ピロロロ~」と代わる代わる吹くところ、ここも同様だった。クラリネットの客演首席の斎藤雄介氏(神奈川フィル)がすごく上手かった!ファゴットのこれも客演首席の皆神陽太氏(東京シティフィル)が主旋律を吹く箇所を一度わずかに飛び出してたように思えたがご愛敬かw
第3楽章の弦のピチカートはは全体的にすごくゆっくり。個人的にはもちょっと早いテンポがよかったものの、コバケンさんが途中右手をパッと開くと、上手のコントラバスが大きくビンッとはじいて響いてくる。まるでマジックみたい
第3楽章からそのまま入った第4楽章でギアが一段ぐっと上がった
金管はより華やかに咆哮、弦はコバケンさんの気概に応えるようにここぞというときの爆発力がすごかった!全員が前傾姿勢で狂ったように高速で弓を上下している様子は見ているだけでも感動 最後は身震いしてくるほど圧倒された
終わったあと会場はブラボーの嵐だったが、私はしばらく身動きできないほどだった。
第4番の第4楽章演奏中~
コバケンさんは弦の最前列の奏者、コントラバスの首席の方とそれぞれ握手、そしてオケの中まで入っていって木管、金管、打楽器の首席のみならずほぼ全員の方を握手をしていた。
そして、『九響は久しぶりに振らせてもらいましたが、素晴らしい音の渦の中で私がここにいるのは失礼ではないかなと思うくらいでした』と仰ったのだ なんちゅー謙遜具合なんですかっ!
アンコールはいつもの「ダニーボーイ」かなと思っていたら、なんと「カヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲」 恐らくハープの出番をお考えになってのことだと思うが、この曲は一昨年11月のバッティストーニ&九響での「カヴァレリア・ルスティカーナ」(演奏会形式)(記事はコチラ)の圧倒的な名演が今も鮮やかに印象に残っているので、あの時の感動を思い出しながら聴き、また涙した
コバケンさんといえば、昨年大晦日の恒例のベートーヴェンの交響曲全曲を一晩で振るという演奏会の前夜に、突然の鼻出血で大学病院へ搬送、止血に6時間もかかったそうで、本番では舞台袖に医者が待機した上で両方の鼻に詰め物をして振ったらしい。これは演奏会に行かれたブロガー様の記事を拝読して知ったのだが、正直「なんて無茶をされるんだろう・・」と思った。前日は恐らくほとんど寝てないはずだし、両方の鼻に詰め物をしていたら口呼吸しかできず、ただでさえ指揮は重労働なのにさぞかし息苦しかったはず。しかも交響曲全曲だなんていつ倒れてもおかしくない状態だったと思う。
それを知って以来、コバケンさんの体調がずっと気がかりだった。休養しているという話も聞かないし、その後も通常どおりのスケジュールをこなしているんだろうか、悪い病気とかではないよね? と悶々としていた。 自分には何にもできないけれどせめて、と思い太宰府天満宮ので買ったお守り(中に天満宮の梅の実が入った健康長寿のお守り)を持参して九響のスタッフの方に渡してくださるようお願いした。
コバケンさんは4月で80歳になられる
4月には東京でのチャイコフスキー・チクルスなどなど変わらず超ご多忙なスケジュールのようだが、どうかお身体第一で無理せずお過ごしいただきたい。
これからのご活躍とご健康を心からお祈りしています!!
(写真はすべて九響のfacebookよりお借りしました)