2019. 5.18 (土) 18 : 30 ~ iichiko総合文化センター・iichikoグランシアタ(大分市)にて
<ベスト・オブ・ベストシリーズ Vol.7 オーケストラ・コンサート>
ドビュッシー:小組曲(管弦楽版)
1. 小舟にて 2. 行列 3. メヌエット 4. バレエ
サン= サーンス:チェロ協奏曲 第1番 イ短調 Op.33
(ソリストアンコール)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007より 前奏曲
ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」(管弦楽版)
1. 眠れる森の美女のパヴァーヌ 2. 親指小僧 3. パゴダの女王レドロネット
4. 美女と野獣の対話 5. 妖精の園
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調 S.124/R.455
(アルゲリッチ&マイスキーによるアンコール)
ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調 Op.3
ショパン;チェロ・ソナタ ト短調 Op.65より 第3楽章 Largo
チェロ:ミッシャ・マイスキー
ピアノ:マルタ・アルゲリッチ
指揮:シャルル・デュトワ
東京音楽大学シンフォニーオーケストラ
先週土曜日のコンサートの感想です。
今年も最も楽しみなアルゲリッチ音楽祭の季節がやってきた
昨年は第20回目の節目として、12月に別府アルゲリッチ音楽祭として初めてローマ公演が行われたようだ。今年は第21回目の新たなスタートとして「悠久の真実~ベートーヴェン」をテーマに6月2日まで開催中である。
この日はオーケストラコンサート。
今年は指揮者がシャルル・デュトワというのも楽しみのひとつだった。デュトワの指揮を見るのは初めて。まさかデュトワの指揮を大分みたいな田舎で拝見できるとは思わなかったな~。
デュトワが振るためか、彼が得意とするドビュッシー、サン=サーンス、ラヴェルとフランスものが続いた。
舞台に登場したデュトワは82歳とは思えないほど背筋がぴんとしていて思ったより長身、ダンディーな感じだった。
1曲目はドビュッシーの小組曲(管弦楽版)。実演は初聴き。この曲は元々ピアノの4手連弾のために書かれたが、のちにフランスの作曲家ビュッセルによって管弦楽版に編曲されたのちに広く聴かれるようになった。4曲のうち一部は聴きなじみがある。
今回のオケは東京音楽大学シンフォニーオーケストラだったが、率直に言ってこの1曲目はいまひとつピリッとしない感じがした。弦の音に厚みや深みが感じられない。ゆっくりな曲だからこそテンポというかリズムが大事だと思うのに、ややバラつきがあり間延びした感じがした。
2曲目はサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番。これも実演を聴くのは初めてだった。
ソリストのミッシャ・マイスキーを聴くのは2度目だが、1度目もこの音楽祭で聴いた。
ステージに登場したマイスキーはいつものように長い白髪をなびかせ、青いダボっとしたトップスを着ていた。
このコンツェルトはとてもとても素晴らしかった
私はマイスキーの音色が大好き。芯が一本真っ直ぐに通ったような力強く野太い音で、視覚的にも相俟ってマイスキーの強い意志のようなものを感じる。マイスキーは自分が弾いていないときも、オケの演奏に合わせて頭や身体を力強く振っていた。
この曲は全体が3つの部分からなる単一楽章で演奏されるが、弦楽の軽い弱奏から始まる第2部が私は一番好き。この弦の弱奏の伴奏で奏でられるチェロの音が何とも言えず温かく、とてもよかった。チェロのカデンツァではウルウルとなってしまった 2度目(主部の再現のとこかな?)の同じ伴奏を今度は管楽器が奏でるとこ、チェロのトレモロが驚くほど細かくて(予習で聴いていたデュ・プレのここのトレモロより細かくて繊細な気がした)うっとりした
この曲はマイスキーの気迫もあってかオケも一生懸命ついていっていたように思えた。
マイスキーのアンコールのバッハがこれまた素晴らしくて、涙が出ました
後半最初はラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」(管弦楽版)。
この曲も元々はピアノ4手連弾の組曲として作曲された(ラヴェルの友人のふたりの子供のために書いたもので、「マザー・グース」を題材にしている)のを、ラヴェル自身がのちに管弦楽用に編曲した。
私が持っているデュトワのCDとは曲順も違うし、前奏曲も演奏されなかったのでなんでかな~と思って帰宅後に調べたら、管弦楽版にはこの日演奏された「組曲版」と「バレエ版」があるらしいのだ
「バレエ版」の方を私はCDで聴いていたのだということが分かった。
ちなみに「バレエ版」の方は、
1.前奏曲 2.第1場 紡車の踊りと情景~「眠れる森の美女」の情景 3. 第2場 眠れる森の美女のパヴァーヌ 4.第3場 美女と野獣の対話 5.第4場 親指小僧(一寸法師) 6.第5場 パゴダの女王レドロネット 7.終曲 妖精の園 となっている。
この演奏はとてもよかった。 前半最初の曲を演奏していた同じオケとは思えないくらい。
こっちに練習時間をより割いたのかな? こなれていて、デュトワの指揮に合わせて場面によって多彩な表情を醸し出していた。
生で聴くのは初めてだったが、この曲いいな~と思った。また聴く機会があればいいな。
そしてトリを飾るのは音楽祭の総監督を務めるマルタ・アルゲリッチ!
デュトワとともに現れ、デュトワは舞台の端の方に、アルゲリッチはピアノまで来てお辞儀。で、アルゲリッチはデュトワが指揮台まで来るのを待っていたが、デュトワは「もう一度挨拶しなさい」的なジェスチャーをして、アルゲリッチは再度お辞儀。そしてふたりは何か話していたがアルゲリッチは「なんなのよ?」みたいな両手を大きく広げてふんっ!と椅子に座った。そのやりとりが見ていてすごく面白かった
そういえば、アルゲリッチは肩のあたりまで髪を切っていて、可愛かったです。
そうして演奏されたリストのピアノ協奏曲第1番・・・
超素晴らしかった
(マ・メール・ロワとはもちろん曲調も違うものの)デュトワが両手を振り上げた時からデュトワもオケも気合の入り方が違った気がした。
1年ぶりに聴くアルゲリッチのピアノは全く衰えも見せず、相変わらずすんばらしい~
その音色を聴いたとたんに心がとろけてしまうように魅せられてしまう。
アルゲリッチがバン!と弾き始めた途端に、それまであちこちで聞こえていた雑音がぴたーっとなくなって水を打ったようにシーンとなった。一音で会場を黙らせる彼女はさすがだ・・・
そしていつも思うのが、アルゲリッチは何か鍵盤と戯れているかのようにさらっと弾いている・・・んだけど、ここぞというときの強靭な音が強奏するオケにも全然負けてない。
力強さと繊細さ、軽やかさと濃密さ、美しさと泥臭さ、一見相反すると思われそうな色んな表情を持つ彼女のピアノはすごい。
第2楽章ではピアノの長~いトリルの箇所がある。ここのトリルがアルゲリッチは独特でとても面白かった。強弱のメリハリをはっきりとつけたトリルで、時に左手もポーン!と跳ねるように強く弾いていた。 彼女の昔のCDを聴くとこの箇所はこういう弾き方ではないようで興味深かった。
ちなみに第3楽章のトライアングルはステージ上を何度見回してもどこで鳴らしてるのかついぞわからなかった私にはこの楽章のトライアングルの音がやや鳴らしすぎる気がした。第4楽章に出てくるトライアングルの音の強さと全く一緒だった。
今回の公演であらためて思ったのが、トライアングルにしてもシンバル一発、小太鼓一小節にしてもやはりとても重要なのだということ。プロはやっぱりすごいのだなと思った。
アルゲリッチは頻繁に(指揮者ではなくw)オケの方を見ていたが、アルゲリッチの方がある程度オケに合わせていたように思えた。一方デュトワの方はほとんど彼女の方は見ない。もう何度も共演して阿吽の呼吸なんだろうと思う。
ただ最後の一音だけデュトワは振り終わると同時にどうだ!とばかりにアルゲリッチの方を向いて静止した・・・んだけどアルゲリッチの方は終わると同時にガバッと立ち上がってお辞儀(おもろいな~この元夫婦ww)
私は3階席だったのだが、1-2階席はほとんどがスタオベしていた。2階席には即座に横断幕が掲げられた。”Conglatulations on the New Start! ”(今回が第21回で新たなスタートという意味だろう)と書いてあって、アルゲリッチもそれをちらと見て、ありがとう~というように微笑んでいた。
アンコールはマイスキーも登場してふたりで2曲。
最後にデュトワも出てきて3人で挨拶したあと、デュトワがアルゲリッチをピアノの方へ引っ張ってアンコールを促そうとしたが、アルゲリッチは「もう終わるんやけんねっ」とでもいうように、逆にデュトワを舞台袖の方へ引っ張っていった
デュトワはアルゲリッチと共演して何だかとても嬉しそうに見えました。
デュトワ82歳、アルゲリッチ77歳、マイスキー71歳!恐るべきじじばばトリオです
翌日は朝7時から仕事だったので日帰りしましたが、JRソニック号が博多駅についたのは日付が変わった0時すぎでした でもやっぱり聴きに行ってよかったです!