2018. 3. 23 (金) 19 : 00 ~ 福岡シンフォニーホールにて
モーツァルト:「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」 ト長調 K.525
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 K.216
ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 Op.92
(アンコール)
J. シュトラウス II:ワルツ 「南国のばら」 Op.388
ヴァイオリン:フォルクハルト・シュトイデ
トヨタ・マスター・プレイヤーズ, ウィーン
今年もこの季節がやってきた 毎年楽しみにしているトヨタ・マスター・プレイヤーズ, ウィーンの公演。2000年より始まって今回でツアー16回目を迎えるのだそうだ。私は2013年の公演以来毎年聴きに行っていて、今回で6回目。
このトヨタ・マスター・プレイヤーズ, ウィーンはウィーン国立歌劇場、ウィーン・フィルのメンバーを中心にベルリン・フィル、ウィーン響などなどヨーロッパで活躍する演奏家も加わった、この公演のために編成された30名の室内オーケストラで指揮者はたてない。今年も全8公演を各地で行う予定で、福岡はそのツアー初日だった。
昨年からは前任者のペーター・シュミードルさんに代わってフォルクハルト・シュトイデさんがこのオケの芸術監督に就任している。シュトイデさんといえば、1月に広響との公演で福岡で聴いたばかり。またシュトイデさんのお姿を拝見できるとはうれしい限りです
毎回楽団員がステージに登場して最初に立ったまま演奏していた、”トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーンのための前奏曲 「イントラーダ」は昨年からなくなった。
このイントラーダ、短いんだけどその年に演奏する曲目を絶妙にアレンジしていて私は大好きだったんで、今年はもしかして復活しないかな~と思っていたけどやっぱりなかった
最初の曲はモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。
この曲久々に聴いたなぁ。出だしの音から「あぁ、いいなぁ」と思った。心の中にぽっと灯りがともるような弦の明るく優しい音色。今日はシュトイデさん観たさに前の方の席だったのでシュトイデさん自身のヴァイオリンの音もすごく聴こえてきた。アンサンブルもぴたりと合っていてとてもよかった。
次はシュトイデさんソリストで、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番。
そういえばこないだふと気づいたのだけど、シュトイデさんのヴァイオリンは今まで長い間1718年製の”アントニオ・ストラディバリ”(オーストリア国立銀行より貸与)だったが、2016年にライナー・キュッヒルさんの引退に伴い第1コンマスになったライナー・ホーネックさんがキュッヒルさんのストラディバリウス”シャコンヌ”(1725年製、1994年からオーストリア銀行より貸与)を引き継ぎ、第2コンマスになったシュトイデさんはホーネックさんが長年弾いていた1709年製ストラディヴァリウス”ex-Hämmerle”を引き継いでいるそうだ。とすると、アルベナ・ダナイローヴァさんがシュトイデさんのヴァイオリンを今弾いているのかな?つまりウィーン・フィルのコンマスをずっと務めるとこの3つのストラディバリを弾けるということになるんだろうな。
そしてキュッヒルさんが今使用しているヴァイオリンは何なのかな~というと、以前からシャコンヌ以外にフランスのヴィヨーム系のレザレイ、ウィーンのヴァイオリン(日本でのコンサートにも演奏した1857年製のGabriel Lemböckのこと?)ヤマハなどのヴァイオリンを使用していたようなのでそれらを使っているのかな。
これがシュトイデさんが現在弾いている1709年製ストラディヴァリウス”ex-Hämmerle”
(この写真は「宗次ホールのオフィシャルサイト」からお借りしました)
ストラディは自分になじむまでに時間がかかるらしいから今までずっと弾いていたヴァイオリンから新しいものに変わるとやっぱり大変だろうなと思う。
で、実際の演奏について。
この曲を前回聴いたのはちょうど1年前のアレクサンドラ・スムの演奏だった(下野竜也&読響)。スムの快活な元気あふれる演奏とはまた異なる、しっとりと美音を響かせるシュトイデさんならではの演奏だったと思う。
第1楽章の途中までは若干ぎこちないような、音程もたまにビミョーになるような、なんとなくしっくりこない感じがした。「やっぱりヴァイオリンのせいなのかなぁ??」などと邪推してしまったが、第1楽章のカデンツァからがらっと変わった(気がした)。このカデンツァ(サム・フランコ版)がとてもとても素晴らしかったシュトイデさん特有の美しく高貴な音色がホール中に響いて、残響も心地いい。鳥肌が立った。 この勢いそのままにぐーっとテンポを落とした第2楽章も美音が響き渡り私はうっとり状態 軽快な第3楽章もうしろのオケメンバーと時々目くばせをしながら微笑むなど楽しみながら演奏していたように見えた。
うーん、シュトイデさんのヴァイオリンはやっぱりいいな
後半はベートーヴェンの交響曲第7番。
この曲は私が初めてトヨタ・マスター・プレイヤーズ, ウィーンを聴きに行った2013年にも演奏された。(実はこのときが私が初めてオーケストラを聴きに行った思い出の公演) そのときは何もかもが初体験(アクロスに来たのも初めて)で目新しく、演奏自体がどうだったのかおぼろげにしか記憶がないが感動したのは覚えている。演奏終了後にとなりのおっちゃんが、(もちろん日本語で)「ありがとー!ありがとーな~!」と叫んでいたのも覚えている
この日の演奏も気迫のこもった熱い7番だった。2013年のときよりもアグレッシブさがさらに増しているような気がした。
ヴィオラとチェロは3人、コントラバスはたったふたりなのに低弦がすごく響いてくる。特にコントラバスのおふたり、ニーダーハマー(現ウィーン国立音大教授、アンサンブル・ウィーンのメンバーでもある)さんとブラーデラーさん(ウィーン・フィル)がうますぎ!
とにかくうねるような低弦の響きがすごくよかった。
ハインリヒスさん(チューリヒ歌劇場管のソロ・オーボエ)のオーボエがとても素晴らしかった!
第3楽章からの第4楽章は前回はアタッカで演奏されたが、今回はひと息入れてから最終楽章に入った。第4楽章は第1ヴァイオリンの第1プルトのふたり、シュトイデさんとセテナさん(ウィーン・フィル)が鬼気迫るような弾きっぷりで、それに影響されてかみんなが一心不乱に一体となった演奏でとてもよかった。途中からオケの面々も時々うれしそうに笑みを浮かべながら演奏していた。
シュトイデさんは長年このオケ(メンバーは毎回マイナーチェンジがあるとはいっても)を率いているせいか、あ・うんの呼吸で演奏できるんだろうか、広響での(指揮者なしでの)公演のときより周りにあまり気遣う必要がない分、自分の演奏に没頭できているような気がした。
それからこれは毎年書いているような気がするが、全体の音に厚みがあってとてもたった30人の室内オケとは思えない。大げさかもしれないが、まるでフル・オケを聴いているような気になってしまう。
そして指揮者がいないにもかかわらず(というより指揮者がいないからこそ)、互いの音をとてもよく聴いているので息もぴったり。そして少人数のオケだからこそ各々の楽器のフレーズがとてもよく聴こえてきて、フル・オケで聴くよりも曲の内側が分かっておもしろいことが多い。
そういう意味でも私にとっては毎回発見があってとても面白いのです
アンコールでは毎回おなじみのコントラバスのニーダーハマーさんが日本語で曲名を紹介、そしてこれも毎度おなじみ、「これでおしまいデス。」とおっしゃった
最後はステージ前に全員が一列に並んでばいば~いと手を振って去っていった。
今年の公演が終わったばかりなのにもう来年の公演が楽しみ
昨年はシューベルトの交響曲だったが、今年はまたベートーヴェンだったが来年は何だろう。
できればまたシューベルトをしてほしいな~