映画 「ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る」を観る | Wunderbar ! なまいにち

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まだまだひよっこですがクラシック大好きです。知識は浅いがいいたか放題・・・!?



昨年ミューザ川崎でのロイヤル・コンセルトヘボウのコンサートに行った際に会場でこの映画の前売り券を買っていたのがやっと福岡でも封切りになったきらハート
(ただし25日で上映終了となりました。)

ウィーン・フィル、ベルリン・フィルと並んで世界三大オーケストラと称されるオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(以下RCOと略します)。国王からロイヤルの称号を与えられた王室御用達のオケなのですaya

このドキュメンタリー映画は2013年のRCOの創立125周年を記念して行われたワールド・ツアーを基にしている。
この映画の原題はオランダ語で「Om De Wereld In 50 Concerten」、英語では「Around The World In 50 Concerts」。直訳すると「50回のコンサートで世界一周」。このタイトルはあの有名な「八十日間世界一周」(「Around The World In 80 Days」)を意識したものだ。おもしろいな~ほのぼの

この映画ではRCOの団員たちや音楽などだけでなく、RCOが行く先々で出会った一般の人々にも焦点を当てていて、私はこれらの人々のことの方が強く印象に残った。

ここから先はネタバレにもなるので今から観に行こうという方は読まないでくださいね~aya



印象に残ったひとつが、南アフリカのヨハネスブルクのソウェト地区の黒人のふたりの姉妹。ソウェト地区ではレイプや誘拐が日常茶飯事に起こっており、彼女たちも毎日の学校への登下校のたびに「今日も大丈夫。何も起こらない。」と自分に言い聞かせて勇気を持たないと怖くて通えないと言う。
そんな彼女たちも所属しているスチーム・ドラム・バンドで演奏しているときは実に生き生きとしていて本当に楽しそうだった。はじけんばかりの笑顔が本当にまぶしかったキラッ


それからおなじ地区の黒人の音楽教師のミシェル・マソテさん。
彼は貧困の少年時代にたまたま聴いたメニューインのヴァイオリンの演奏に感銘を受け、ロンドンでヴァイオリン教授の学位を取得、アパルトヘイト時代の南アフリカですべて黒人によるソウェト・ユース・オーケストラ(現ソウェト響)結成に尽力、現在も子供たちを教えている。

少年時代はヴァイオリンを習いたいといっても、お金もヴァイオリンもない。父親がやっとどこからか弓だけをもらってきたが、弓に弓毛は張ってなく、棹のみのものだったという。
それでもとても嬉しくてそれを持ってエアー演奏をしていたそうだ。
そしてのちにやっとヴァイオリンを手に入れてレッスンを習おうとしたが、白人の教師にはことごとく断られたそうだ。唯一ユダヤ人の先生だけが受け入れてくれ、「正面玄関から堂々と入っておいで(白人の家には裏口から入らないといけなかった)」と言われて嬉しかったそうだ。
そんな不遇な環境の中でも「どうしてもヴァイオリンを続けたい」という強いを持ち続けたマソテさんは本当にすごい。

RCOはこのワールドツアーで初めて南アフリカで公演を行った。その際に行われた現地の青少年たちのための教育プロジェクトの企画のシーンもあった。
オーケストラの楽器の紹介やプロコフィエフの「ピーターと狼」が演奏されたのだが、それを観ている現地の子供たちのなんて嬉しそうな笑顔!きらきらと輝くまなざし!

世界ではまだまだあちこちでたくさんの問題があるけれど、大人の事情で子供たちのこんなにまっすぐで純粋な笑顔を壊してはいけないと強く思った・・・


それからロシア公演の際に登場するひとりの老人、セルゲイ・ボグダーノさん。
彼の祖母はマーラー指揮のサンクトペテルブルク演奏会を生で聴いたという。
幸せな子供時代から一変、1937年の大粛清で父親が強制連行され、自分と母親はカザフスタンの収容所に送られた。 そのうち第2次世界大戦が始まりナチスの台頭により今度はドイツの強制収容所に送られそこで3年を過ごす。

「その後のお父様の消息については何かわかりましたか?」とインタビュアーが尋ねると、
「帰国後に調べたら1938年1月に処刑されてたよ。もちろん無実の罪だ。」と悲しそうな笑顔を浮かべながら答えていた。
52年連れ添った妻も亡くなり、今はひとりとなった。美しいお母さまや奥さんの写真を見せたあと、
「これが我が人生だ。 自分ひとりだけが残ってしまった。」
「・・・。 つらいよ・・・」
と窓の外を眺めながらうっすらと涙を浮かべぽつりとつぶやくボグダーノさん。

そして2013年11月8日の39年ぶりのRCOのロシア公演の聴衆の中にボグダーノさんの姿があった。
(RCOが39年もロシア公演ができなかったのはコンドラシン亡命事件が原因といわれている。1978年に当時ソ連を代表する指揮者であったキリル・コンドラシンがRCO客演中のアムステルダムで政治亡命を表明した。オランダ政府は彼の亡命を受け入れ、RCOは彼に常任客演指揮者のポストを与えた。)

演奏曲はマーラーの交響曲第2番、「復活」。この演奏シーンが映画のラストを飾る。
感動的な合唱とオケの演奏にじっと聴き入るボグダーノさん(映画のチラシの右上の横顔のご老人がそうです)。演奏が終わり、他の聴衆とともにスタンディングオベーションをしながら流れる涙をぬぐっていた。 その姿を見て私も泣いてしまった。


この映画を見てたくさん考えさせられた。各地で起こるテロや紛争、圧政や迫害・・世界はどこに向かっていっているのだろう。ボグダーノさんが体験したような時代に逆戻りしているのではないだろうか・・


一方で♪*音楽の力♪*ってやっぱり偉大だなあとあらためて思った。

自分も考えてみれば今まで(クラシックに限らず)たくさんの歌や音楽に励まされてきたような気がする。
音楽を演奏したり聴いているときの子供たちの笑顔や真剣なまなざしは何物にも代え難い宝物だと思う。


あともひとつ、オケの楽団員のタフさ!!
映画の中で演奏旅行の裏側の場面も時々あるのですが、飛行機(エコノミーです)やバスなど移動の連続でほんとに疲れそうだし、ホテルからホテルの移動の日々で(一人部屋とは限らないし)どうやって疲れをとっているんでしょう。
「枕が変わると眠れないわ~」なんて人は楽団員にはなれないだろうし、ただ音楽が好きってだけでもなれないだろうな~。とにかく体力ないとやってけないのです!
ホテルの部屋から家族へ電話しているときの団員さんたちはとても幸せそうだったきらきら


映画ではたくさんの音楽が使われていてそちらもとてもおもしろかった。
久々だったけどやっぱ映画っていいなあ~テヘ