『冥府神アヌビスの産声』
北森鴻、光文社文庫、2008年
「やはり、神の声を聞いてしまったのだな」
脳死問題のリーダー的存在であった医学部教授が刺殺された。
かつて、その教授の研究室にいた医療ライターの相馬は、この事件に興味を持つ製薬会社のプロパー・時尾と名乗る男から接触を受け、この事件に関わることになる。
相馬と同じく研究室を離れた九条は、不思議な能力を持つ少女・トウトと共に新宿のホームレス街にいた。
臓器移植法案で揺れる国会。託された脳波グラフが突きつける脳死の判断基準、つまり死の定義とは。そして、九条が行なったという禁断の実験の意味するものとは。相馬は事件の果てに何を見るのか。
医療ミステリー。
脳死や臓器移植について、生と死の境界を巡り、なかなか倫理的に難しい内容となってますね。臓器移植を待つ患者がいる。でもまだ死に至っていない人から臓器をとることなどできない。国会での法案提出。製薬会社の金の動き。
こういう曖昧な決着は好みではないですが、すべて白黒をハッキリさせられるものでもないかなぁ。