初めての海物語 | 縁茶亭茶話

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地味に地道に生活している一般人が綴る、ごくごくありふれた日常

 10年前の9月11日。

 今でも覚えているその日、千葉には台風が来ていました。



 というのに、姉その1からの電話を受けたのは何時頃だったか。



「あ、りん? あんたさ、これからネズミ海(仮称)行かない?」



 ネズミ海――それは、1週間前の9月4日に開演したばかりのテーマパーク。

「東京」という地名を冠していますが、れっきとした千葉県内にあります。

 もちろん当時学生だった私が否などと言うはずもなく、二つ返事でOKしたのですが。



「これから行くって、誰にも言わないでよ?

 お父さんとかお母さんとか、(姉その2の名)にもだよ。

 私も、(旦那や、まだ6歳と4歳の甥兄弟に)言わないで行くからさ」



 誰にも、って。



 私は夏休み中で家にいましたが、その頃はまだ両親は働いていたし、姉その2は独立して一人暮らしをしていたので、その時家には私一人しかいなかったのです。

 書き置き一つ残さず家を出たら、私が誰とどこに行ったのかなど、両親には知る術がありません。



 まさか……いや、まさかとは思うけれど。

 …………私、台風で荒れ狂った東京湾に沈められるんじゃあるまいな…………。



 内心ビクビクしていましたが、とりあえず肉親を信じることにして、私は本当に行き先を告げるメモ一つ残さず家を出て、迎えに来た姉の車に乗りこんだのでした。



 もちろんそれから10年後の世界に存在していることからもおわかりのように、私は海に沈められることなく、夕方からという短い時間ではありましたが、初めての海を楽しんできました。

 台風はもう通過した後だったので、雨に降られることもありませんでした。

 それにも関わらず、開園して1週間しか経っていない海は、そこそこ混んでいたような気がします。

 最初に乗ったのは、確か海底2万マイル(だったっけか)。

 センター・オブ・ジ・アースとか、インディ・ジョーンズも乗ったのかな。

 台風の後だったので夜のショーがなかったのが残念でしたが、その分アトラクションを楽しんできたのでした。



 余談。

 閉園時間までいたためにすっかり遅くなってしまった、帰り道でのことです。

 カーラジオをつけると、「アメリカで飛行機がビルに突っ込む事故が発生」というニュースが流れてきました。

「何をどうやったらそんな事故が起こる!?」と思いつつ、帰ってからテレビをつけるのが何となく怖かった私は、遊び疲れたのも手伝ってそのまま寝てしまったのでした。

「事故」と報じられていたそれが、私の予想をはるかに超えた歴史を変えるほどの大惨事だったことを知ったのは、その翌朝のことでした。




 ちなみに内緒の海行きでしたが、結局数日後にはばれてしまいました。

 海に行ったこと自体は親に話していたのですが、「誰と?」の問いについては、「へへへ~、内緒♪」で誤魔化していたのです。


 が、数日後。


「あんた、この前の海はお姉ちゃんと行ってたんでしょ?」と母。


「えっ、何で!?」

「(姉その2の名)が言ってたよ。自分も誘われてたけど行かなかったって」


 主婦業ほったらかして、遊園地に行きたい。


 姉その1のささやかな願いは叶ったものの、秘密の息抜きはこうして白日の下にさらされてしまったのでした。

 合掌。