さて、後編では、内容についてもう少し詳しく語らせていただきましょう。
なお、ガンガンツッコミを入れたかったので、内容部分については太字、ツッコミ部分については通常文字で表記しています。
もはや完全にBL物にしか思えない『染模様恩愛御書』。
冒頭では、数馬の父親が殺される経緯、父の仇である横山図書(ずしょ)のもう一つの犯罪である妻殺しが描かれます。
図書は典型的な悪人で、名刀ほしさに数馬の父を殺し、不義密通をしたという同僚のウソを真に受けて、妻までも手にかけてしまいました。
目撃者兼共犯者の家来に口止め料として100両を渡し、図書は国を出奔。
そして、10年の月日が流れます。
場所は変わって、江戸は浅草の浅草寺。
父の亡き後、この寺に寺小姓として引き取られていた数馬は、参詣に来た細川越中守の目に留まり、細川家の小姓として仕えていました。
ある日のこと、日課で浅草寺に参詣に訪れた数馬は、自分が連れてきた供が別の者の供と争っているところに出くわします。
仲裁しようとしていたところに現れたのが、一人の立派な侍。
難なく供たちの争いをしずめた侍は、改めて数馬に向き直って供の非礼を詫びました。
慌てて自分も頭を下げる数馬。
そうして顔を上げた二人は、改めてお互いの顔を見て――
恋に落ちます。
って、ちょっと待てい!
その力一杯少女漫画的な発端は、本当に江戸時代に作られたものなのか!?
恥じらって顔を背ける数馬の初々しさと、侍の惚けッぷりなんて、少女マンガそのものじゃん!
ちなみに、言うまでもなく「立派な侍」とは大川友右衛門です。
この友右衛門、別の場面で評されるところによれば、「年の頃なら30ほど、歌舞伎役者に例えるなら市川染五郎似」という設定。
片や数馬くん、15歳。これが数え年だったら、満年齢は13~4歳くらいでしょうか。
……ちょっと犯罪……?
話を続けましょう。
美しい少年に一目で心奪われた友右衛門は、庭に咲いていたあやめをつみ取り、相手に贈ります。
大切そうにそれを抱え、去っていく彼。
その姿を忘れられない友右衛門は、何度も書き直しを重ねた末にようやく一通の艶書(ラブレター)をしたためて再び浅草寺を訪れ、参詣帰りの数馬を呼び止めて、「袖に汚れが」と口実をつけながら袂にそれを入れたのです。
こうして艶書を渡すまでは成功したものの、一刻も早くその返事が聞きたい友右衛門は、その日のうちに主家に暇乞いをし、名も身分も、そしてたった一人の妹であるきくさえも捨て、細川家の足軽として奉公することにしたのでした。
その妹に、「印南図書」を名乗るようになっていた図書が言い寄っていることも知らずに――。
(図書がきくに言い寄っていたのは、自分が手にかけた妻に生き写しだったため。もちろん、きくは図書の妻と二役です)
袖助と名を変え、細川家の下働きからめきめきと頭角を現していた友右衛門は、ついに数馬と再会を果たします。
再び「袖に汚れが」作戦で、数馬に恋歌を渡す友右衛門。
袖助があの日の侍であると知った数馬は、自分の部屋に忍んでくるようにと返事の文を渡します。
ついに互いの想いを確かめ合った二人は、その夜衆道の契りを結びました。
数馬に想いを寄せる腰元・あざみが、嫉妬に燃えていることも知らずに――。
関係をもった友右衛門に、数馬は、父親の仇討ちを手伝ってほしいと頼みます。
もちろん友右衛門が断るはずもなく、二人は互いの腕の血を飲んで、義兄弟の契りを交わしたのでした。
…………ファンサービス、でしょうかね。
別室に入っていったのでシルエットでしたが、かーなーりっきわどかったです。
友右衛門だけが部屋から出てきて帯解き(帯を解かれながらくるくる回る)されるところは、客席大ウケでしたけれども。
っていうか、友右衛門の方が帯解きされちゃうのか……両腕上げて、くるくる回っちゃうのか……まあ、衣裳的な問題なんでしょうけど。(小姓の数馬は袴なので)
それにしても、ラブレターって。(ちなみに、書き損じのラブレターは客席に投げこまれました)
例えるなら、「20代後半のやり手商社マンが男子中学生に一目惚れし、塾の帰りに待ち伏せして、カバンの中にラブレターを忍ばせる。だけど返事が気になってしょうがないから、会社を辞めて、男子中学生が通う中学校の用務員になる」ってところでしょうか。
なんか、ストーカーっぽくてコワイ……。
ここで登場する(実際には浅草寺の場面から登場)あざみちゃん。
恋する相手が男に取られちゃった現場を目撃した彼女は、もうホント気の毒としか言いようがありません……。
なお、彼女は浅草寺で「八百屋お七」(火事で焼け出され、避難した寺の寺小姓に恋した八百屋の娘お七が、火事になれば再び彼に会えると思い、放火してしまったという話。伝説?)の話をするのですが、これが実は後半の伏線となります。
余談。
「互いの血を飲んで義兄弟の契りを交わす」というのは、『三人吉三巴白浪』の序幕「大川端庚申塚の場」にも出てきます。
ここでは、3人の血を小皿に受けて回し飲みし、最後にその皿を割って、「砕けて土となるまでは~三人一座で義を結ぼうか」と誓いました。
人数的な問題もあるかもしれませんが、『染模様~』で二人が互いの腕から直飲みしたのは、やっぱりファンサービスなんでしょうかね。
話を続けます。
翌朝、二人の関係は、あざみの密告によって主君の知るところとなりました。
主君の許しも得ずに契りを結ぶことは、「不義密通」として死罪になります。
しかし友右衛門が、罪はすべて自分にあり、数馬には仇討ちの大望があると必死で訴えたことから、二人は奇跡的に許されました。
さらに、改めて素性を明かした友右衛門は、正式に細川の家臣として召し抱えられることになり、数馬の仇討ちを助けるよう命じられます。
主君の配慮に感じ入った二人は、改めて細川への忠義を誓いました。
ギャグじゃないはずなのに、笑ってしまいましたよ……二人が許された場面。
首筋に刀を突きつけていた細川越中守、いきなり「あっぱれ!」ですもん。
許すのか!? 許しちゃうのか、お殿さま!?
しかし、現実として、ここで許すというのは非常に温情のある行為だったそうで、二人が命がけの忠誠を誓う十分な理由となります。
これも、後半の伏線となるわけです。
ちなみに意外だったのが、どうやら「衆道」は、一般的とまでは言えなかったらしいということ。
もちろん昨日も触れたように、習俗としては存在しているのですが、奥方が「(男女でさえ不義密通とは罪なものなのに、しかもその上)男同士で不義密通とは……」と嘆いているところからすると、やっぱり大っぴらには認められなかったのかもしれませんね。
ふるふると拳を震わせるあざみに後半の波乱を予感させつつ、前半終了。
4年後。
友右衛門の妹きくは、行方不明になった兄の許しを得ないまま、図書の妻となっていました。
しかし、図書の過去を知る元家来がゆすりに来たことでその悪行を知ったため、図書から虐待を受ける日々を送っていたのです。
そんなある日のこと、数馬を連れた友右衛門がやって来ます。
彼の話から、きくの夫こそが数馬の父の仇であることが判明。
図書が細川家に向かったことを知った二人は、すぐさま屋敷へ走りました。
話が盛り上がっているところすみませんが、ツッコミ入れさせてください。
お手々つないで登場するって、いつの時代に誰が考えた演出ですか?
しかもご丁寧に、七三(花道上の、舞台から10分の3くらいの位置。歌舞伎では、花道を使う登場または退場の時に、ここで演技をします)のところではっとしたように手を離し、二人そろって恥じらってるし。
いったい何歳ですか、あなたたちは。
初々しいバカップルがいる一方、ほぼそれが原因で不幸な結婚をする羽目になってしまったきくちゃん。
お兄さんを恨まなかったのは天晴れです。
そのきくちゃんは、夫が金を散財するので、自分の着物を質草に金を工面しています。
実は今回、密かに面白かったのが金貸しの場面。
「(これで金を貸してもらえるか、という問いに対して)いえす、うぃーきゃん!」(あえて平仮名表記)とか、「どめすてぃっくばいおれんす(あえて以下略)な旦那様」とか、「悔しい~! 悔しいと言えば浅田真央ちゃん、銀メダル~!」とか、時事ネタ満載でした。
どうでもいいけど、図書の元家来、もっと話を引っかき回してくれるのかと思ったのに……意外と活躍しなかったな……。
図書が数馬の仇であると知った細川越中守は、彼を逃がさぬよう家臣に命じます。
追いつめられたかに見えた図書でしたが、そこに現れたあざみが、数馬の命を助けることを条件に、屋敷に火をかけ、そのどさくさに紛れて図書を逃がすと取引を持ちかけてきました。
しかし、火矢を放ったところに数馬が駆けつけると、図書はその約束を破って数馬に斬りかかります。
窮地に陥った数馬でしたが、そこへ友右衛門が追いつき、ついに二人は細川越中守が見届ける中で本懐を遂げました。
ところが、図書が放った火は、細川の本領を安堵する御朱印を収める宝蔵に燃え移ってしまいます。
責任を感じたあざみは、その場で自害。
細川家存続の危機に、友右衛門は自分が宝蔵に行くことを志願、炎をかいくぐって御朱印まではたどり着きましたが、逃げ道を失い、御朱印を守るために自ら腹を切って果てました。
越中守は細川家を救った友右衛門の功績を称え、数馬に大川姓を継ぐように命じたのでした。
……あざみちゃん……。(涙)
というわけで、恋するあまり放火をしてしまった彼女は、八百屋お七そのものでした。
ちなみにお七は火あぶりになりますが、あざみちゃんは自害。
何とも悲しい結末です。
せめて、数馬をかばって殺される、とかだったら良かったのに……。
でもちょっとだけ良かったね、と思ったのは、数馬が図書の刃からかばってくれたこと。
「憧れのヒーローの背に守られる」というあの瞬間だけは、彼女もヒロインできたことでしょう。
そのすぐ後に、自分も短剣を持って図書に斬りかかっていきましたしね。
惚れた男のために体を張るのは、女冥利に尽きるってものです。
さて、ついにクライマックス、炎上する宝蔵の場面です。
舞台上での本火の使用が禁じられことが、この演目が断絶する一因となったという問題の場面ですが、舞台技術が進歩したことで、その問題がクリアされました。
確かにすごかったですね。
照明は目が痛くなるくらい真っ赤だし、スモークマシーンフル稼働っぽかったし、舞台装置から煙は噴き上がるし、本当に場内煙たかったですもん。
昔は本当に着物に火をつけていたという友右衛門も、あれは電球や発煙装置を仕込んでいたんですかね。
着物の破れ目は赤く光ってるし、煙出してるし、とにかく炎をくぐってきた修羅場ッぷりが表れています。
ただ、この場面に限ったことではないのですが、現代の技術を駆使しすぎていて、いまいち歌舞伎っぽく感じられなかったのも事実。
見得とか立ち回りとか、確かに「歌舞伎」ではあったんですけれども。
火事の場面以外は、もっと照明技術を押さえても良かったんじゃないかなぁ。
少なくとも、見得を切るところでスポットライトを当てるのは、ちょっとちがうと思う。
そして、切腹の場面。
階段の最上段で腹を切ったのですが、そこからごろごろと下まで転がり落ち、進路を塞ぐように倒れていた材木を突き破って舞台前面に出てきたのにはびっくりしました。
……まあ、そこでうっかり「階段落ち!?」と思ってしまったあたり、我ながら空気読めないな、と思ったのですが……。
ラブラブな二人を描く熱い物語は、最後までラブラブ要素満載で幕を下ろします。
主君たちが退場し、一人舞台上に残った数馬のところに、なんと上からアヤメが降りてくるのですよ!
それを大切に抱き締める数馬。
その後ろ、舞台セットの上には、数馬を見守る友右衛門の姿。
死んでも魂は共にある、といったところでしょうか。
ってか、本当にどこまでが江戸時代に作られて、どこからが現代の演出なんだろう……?
長々と語ってしまいましたが、楽しんでいただけたでしょうか。
ちなみに「腐女子におすすめ」的なことを書いてしまいましたが、月曜の真っ昼間の公演は、おば様方で埋め尽くされていました。
……いや、深くは考えまい。
「ひょっとして、私の感性は非常にオバサンくさいのか?」などとは、決して考えまいぞ。