岩手富士のご難がおきてまだ舌の根が乾かぬ内に、本物の富士山が襲われる。
 舞台は山梨県・青木ケ原樹海に移る。
  山梨県の長崎知事は7月3日県議会6月定例会で、青木ケ原での自殺抑止策として、ドローン活用を明らかにした。
  山梨県は富士河口湖町、鳴沢村と連携し、警備員2人で日中、365日体制で樹海の入り口付近を見回り、声かけなどを実施してきた。私も一度だけ夕暮れ近く、精進口登山道で独りたたずんでいる若い女性に声掛けし、消防隊に連絡したことがある。しかし夜間の自殺も多いことから、今年度から夜間の対策を導入することを決めたという。
《夜でも赤外線で人を発見できるドローンを活用することにし、今年の夏以降、定期的に1週間単位で夜間パトロールを行う。
 ドローンは3台用意し、樹海近くの国道139号沿いに基地を設置する。ドローン2台で樹海の入り口や中を上空から撮影し、基地で映像を見て不審な人がいないか探す。不審な人を発見したらスピーカーを搭載したもう1台のドローンを飛ばし、自殺を思いとどまるよう呼びかける。呼びかけに応じない場合、警備員を派遣して説得する。》(『読売新聞』2024年7月4日付)
 記事内容は明快で山梨県の対策強化は歓迎されるであろう。
 しかしこの記事に添えられた写真が問題である。

    《青木ケ原樹海(読売ヘリから)》(『読売新聞』前掲)
  この写真は富士山の南側、駿河湾上空から撮影したものである。太陽を背にした順光写真だから、日陰がどこにもない。写真の専門家ならすぐ気づくはずである。
 右の稜線の出っ張りは宝永山である。青木ケ原樹海は左の稜線上にある双子山を左に越えた、そのはるか向こうにある。
  7月7日現在、この写真についての訂正・撤回はされていない。
 静岡県も山梨県も、自殺志願者に具体的な場所を知られたくないという遠謀深慮が働いているのかもしれない。暑さのせいで妙な忖度をしてみる。

 ことの発端は6月初めにさかのぼる。盛岡市内に高級マンション分譲の新聞折り込み広告が7万枚配布されたという。
  
《岩手山と岩木山を取り違えたタカラレーベンのチラシ。役員が盛岡市長に謝罪する事態になった》(『産経新聞』2024年6月25日付)
  この写真では読みにくいが、左下には白抜きの説明文が書かれている。
《中津川△岩手山ビューと圧倒的な開放感を愉しむリバーフロントレジデンス》
 つまり眼下に中津川の清流が流れ、左遠方には残雪輝く岩手山を望むことができるというキャッチフレーズである。
  エエッ!!! 朝夕見慣れている盛岡市民にとってみれば青天の霹靂。
《誤りは一目瞭然で、岩手山を誇りとする盛岡市民と岩手県民の気持ちを逆なでする内容に関係者らが激怒し、盛岡市が同社に抗議する事態に発展していた。
 この日、市役所を訪ねたのはタカラレーベンとチラシを担当した広告代理店の役員合わせて5人。岩手山と岩木山の取り違えで「大変不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません」と深々と頭を下げて謝罪、取り違えた経緯を説明した。》(『産経新聞』前掲)
 たまたまのことと思うがこの直後の6月29日、渡智さんが岩木山に登っている。その折、ウエブニュースでこの事件を知った渡智さんは、途中で撮影した岩手山と岩木山の写真をFacebookで紹介して、問いかけている。
 
《土曜朝盛岡駅で新幹線下車後、バスで岩手山見ながら岩木山へ向かった私。二山の写真をしっかり撮りました。さて左右、どっちがどっちでしょう?!》
  津軽富士・岩木山は富士山型の成層火山で、山頂が2峰見えるのは外輪山であり、青森県の最高峰。

 南部富士・岩手山は西に側火山が連なっていて片流れに見えるので南部片富士とも言われる岩手県の最高峰。

 ふつうは見間違いはしないと思うのだが、くだんの広告写真にはまだほかにも問題があることが判明した。
《同席した広告代理店関係者らは、3月に撮影した岩手山の画像を初夏のイメージに加工する際に誤りがあったと説明した。インターネットで検索した画像を参考にしようとし、ネット上の岩木山の画像を取り違えて使用。……同社は毎日新聞の取材に対し、チラシに載せた岩木山が左右反転した裏焼きだったことも認めている。》(『毎日新聞』2024年6月25日付)
 この説明だけでは具体的な間違い工程がイメージできないのだが……。あるいは、単純な《イワテ》と《イワキ》のネット検索ミスから始まったのかと、想像するのだがどうだろうか。

 それともう一つ、ネット上の写真使用について著作権問題が発生するかもしれないというのは、わたしの老婆心である。

《今日10日(水)は移動性の高気圧に覆われて、ほぼ全国的に晴天が広がっています。……富士山では雪解けが進んでいて、山梨県富士河口湖町からは山肌に「農鳥(のうとり」と呼ばれる雪形が出現しているのが見えました。》(ウェザーニュース 2024年4月10日 08:59 )
 富士河口湖町から4月10日に撮影されたのが次の写真である。

《「農鳥」とは4月後半~5月中旬頃に、富士山の7~8合目あたりに現れる鳥の形をした残雪のことをいいます。昔からこの農鳥が見られる時期を農作業を開始する目安ともされていたようです。今では昔よりも農作業開始のタイミングが早まって、農鳥が出現する頃は田植えが行われるタイミングと重なることが多いと言われています。
 山梨県富士吉田市では毎年「農鳥」の出現を発表していて、昨年の出現確認は5月1日でした。もし、今日発表があれば、4月上旬に農鳥が出現するのは2015年以来9年ぶりのこととなります。》(同前)
 しかし《今日発表があれば》という10日には富士吉田市からの発表はなかったようである。いや、発表はあったけれどマスコミ各社が採りあげなかっただけかもしれない。全マスコミが、富士山北麓でこんな重要な風物詩を無視するということがあるのだろうか。
  ところがそれから2週間、いっせいに報道が始まった。
《富士山に田植えの時期を告げる「農鳥」が25日、現れました。25日朝、富士吉田市の職員が目視で確認しました。》(YBS NEWS 2024年4月25日 11:27)
《富士山に25日、残雪が羽ばたく鳥のように見える「農鳥」が現れた。……富士吉田市によると、4月に入ってから暖かい日が続き、昨年より約1週間早いお目見えとなった。》(産経新聞 2024年4月25日 18:20)
《雪解けが進む富士山の7~8合目で「農鳥」が出現したと、山梨県富士吉田市が25日に発表した。》(朝日新聞デジタル2024年4月26日 10:45)
《富士吉田市が4月25日、富士山の山肌に鳥の模様が現れる「農鳥」が確認されたと発表した。》(富士山経済新聞 2024年4月26日)
  次に示すのは4月25日、富士吉田市から撮影の『産経新聞』の写真である。

 この2週間で窪地の残雪がかなり広範囲に消えていることがお分かりであろう。
 気になるのは、この2週間の差である。富士吉田市からは、富士山は雲に閉ざされて一度も見えなかったのであろうか。雪解けが早かったので富士吉田市富士山課職員は冬眠から目覚めなかったとでもいうのか。
 目くじら立てて咎めるほどのことではないが、この間ちょっと公式記録とは何だろうと、もやもや感じたことは事実である。