湿地 | m-memo

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ネタバレだらけの映画メモ。

忘れ易いので自分用にメモしてます。
ネタバレ部分は詳細を記載することもあれば、
二言三言のこともあります。

 

■あらすじ

10月のアイスランド・レイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで老人の死体が発見された。エーレンデュル警部が現場に向かうと、強盗の痕跡は無く、顔見知りの人物による突発的な殺人事件と見られた。しかし現場に残された3つのメッセージを元に捜査を進める内に、次第に明らかになる老人の隠された過去。それは、小さな町中を巻き込む一大スキャンダルと、ある一族が抱える哀しくも怖ろしい運命に辿り着くのだった…。(メーカーサイトより)

 

■ネタバレ
*オルンはアイスランド遺伝子研究所に勤めている。遺伝子の情報を集め、新しい治療法を発見し苦痛を軽減する事、病気を予防する事を目的としている施設だ。遺伝子研究に携わる職場だが、皮肉な事にオルンの娘コーラは遺伝性の病に侵されていた。懸命の治療と看病も虚しく、幼いコーラは命を落とす。
*ノルデュルミリの街角で弟を探す兄。ある家のドアが壊されていて、ガラスに血が付いている。弟が怪我をしたのかと思ったが、もう血は乾いている。家の中には無傷の弟が居て安堵するが、傍には頭から血を流した男の死体が転がっている。
*通報を受けて、刑事エーレンデュルと同僚のシグルデュルやエリンボルクが現場に駆け付ける。死んだ男の名はホルベルク。検察官の見立てでは2日前に死亡しているが、そうとは思えないような酷い臭いが家の中に漂っている。家の外を通り掛かったパイロットの制服姿の男を呼び止めるシグルデュル。ストックホルムに向かうと言うパイロットは、その家の住人の死については何も知らないが、地下からの悪臭について話した事があると言う。「夏場は特に異臭がした。沼地に家を建てるからだ」と言うパイロット。最近見慣れない男がこの家の周辺に居たが、酔っていたため人相は覚えていないと言う。沼地だと言う影響なのか、死人の住居の床は大きく軋む。
*部屋の中を調べていると、机の抽斗の裏からモノクロの写真が見付かる。[コルブルンの娘ウイドル]と刻まれた墓標。それは1974年に4歳で亡くなった少女の名前だった。母コルブルンは自殺しており、父の情報はない。伯母のエーリンだけが現在も生きているとの記録がある。ホルベルクの方は1937年生まれで、ここ数年はトラック運転手をしていた。妹を6歳で亡くしていて天涯孤独だったようだ。
*情報をまとめて警察署の外に出ようとすると、エーレンデュルの娘エヴァが車に駆け寄ってくる。堕胎の費用が必要らしく、3万クローナを無心する娘。今は何処に住んでいるのかも知らされていない。訊けば友人知人の家を転々としているらしい。安易に承諾も出来ずにいると、エヴァは焦れて立ち去ってしまう。
*情報保護委員会からオルンに封書が届く。コーラの病気についての詳細が分かり実家を訪ねるが、自分の一族ではその病名は聞いた事がないと父は言う。話が終わると父は外出する。船乗りだった父は自分が引退した事を認めたくないらしく、1日中港の周辺を歩き回っていると母は心配している。母はコーラの病気の話題を避けている。

*エーレンデュルはコルブルンの伯母エーリンを訪ねるが「妹をあんな目に遭わせた警察とは話したくない」と追い返される。仕方なく近くの墓地に立ち寄ってみると、写真の通りの墓がある。コルブルンの娘ウイドル。続けて刻まれているのは[悪党から私を守り給え]との言葉。すると窓から見ていたのだろう、エーリンが駆け寄ってくる。「その子に構わないで。その写真は何処で手に入れたの?」「ホルベルクだ」「あんな奴は死ねば良い」「その通りになったよ。彼がウイドルの父親か?」「ルーナルに聞いて」ルーナルとは地元の警察官、元巡査部長でこの近くに住んでいる筈だ。エーリンが警察を嫌っている原因はルーナルにあるらしい。
*ルーナルの家を訪れ、ホルベルクの死を伝える
エーレンデュル。コルブルンについて尋ねると「あの女はある男を強姦罪で訴えようとした。実際には彼女から3人組に言い寄ったんだ。だから、訴えたら何が起きるか教えてやった」と言うルーナル。裁判で笑い者になると言い、訴えを取り合わなかったのだ。「あんたは警察官失格だ、この恥さらしめ」と罵って、その場から立ち去るエーレンデュル。
*その後、エーリンが家に迎え入れてくれる。唯一の証拠品だった血の付いた下着を、ルーナルは隠してしまったそうだ。ホルベルクは認知もせず、仲間に偽証までさせた。仲間とはグレータルとエットリデ。ルーナルが言っていた3人組だ。コルブルンが米軍基地で売春していたと触れ回った。「アイスランドの恥だ」と。その後、コルブルンは自殺してしまった。
*エーレンデュルが家に戻ると、エヴァが玄関の外で座って眠り込んでいる。抱えて家に入り、ソファに寝かせる。帰り道に買い求めた羊の頭を食べながら[悪党から私を守り給え]に繫がる言葉を調べるエーレンデュル。「神様、この訴えをお聞きください。悪党から私を守り給え。彼らの謀から私を逃れさせ給え。彼らは苦い言葉を放ち、罪なき者を射ようとする。彼らは悪巧みをし共に謀を保ち、密かに罠を仕掛ける」エヴァはソファで眠り続けている。
*オルンは深夜に残業をしており、あるリストにホルベルクの名前が挙がる。コーラを亡くしてから、それまで以上に妻との関係は冷え切っている。帰宅すると妻は荷物をまとめている。家を出て行くつもりなのだ。
*朝になるとエヴァは「決めたわ、孫を産んであげる。おじいちゃんになるわね」と言う。「ここに居ても良い?家が見付かるまで」「好きなだけ居て良い」朝食のパンやコーヒーを机に並べると、父の吸っていた煙草を取り上げて自分が吸うエヴァ。
*刑務所に居るエットリデとの面会へ出向くエーレンデュルとシグルデュル。酒と麻薬の密輸に保険詐欺、過失致死の前科がある。釣り船に放火して沈めたのだ。乗員3人は助かったが1人が溺死。最近では若い男に暴行し、割れた瓶で顔を切り付けた。「エットリデはイカれた悪党だ」とエーレンデュルは言う。ホルベルク・エットリデ・グレータルは最悪の3人組だ。
*刑務所に到着すると刑務官が「エットリデは帰宅許可期間中に逃亡したため、独房に入れられている」と話す。ホルベルクが殺害された時には刑務所の外に居たと言うのだ。そして2日前に連れ戻された。事前に聞かされていなかったため、刑事達は驚く。「囚人は直ぐに記事のネタにされるから、情報公開を控えていた」と言う刑務官。
*エットリデは老いても屈強な大男だ。ホルベルクが殺されたと告げると、刑務官の退出を要求してくる。先週末に灰皿で頭部を殴られたホルベルクの件に加えて、グレータルについても尋ねるエーレンデュル。グレータルは1970年代初頭から行方不明なのだ。グレータルの失踪前に、ホルベルクがレイプ事件を起こしている。「あれはレイプなんかじゃなかった」と言うエットリデ。エーレンデュルは聞き流して先週末の居場所を聞くが、エットリデの方も話を取り合わずにシグルデュルに向かって恋人の下着について揶揄う言葉を投げ掛ける。ふざけた態度に声を荒らげると、相手も「ホルベルクもあの女に下着の事を聞いていた」と大声を出す。どこか噛み合わない会話に「あの女?誰の事だ」と訊くと、エットリデは取引を持ち掛けてくる。即座に断るエーレンデュル。シグルデュルが取り成すように「何が望みだ」と返すと「煙草と俺専用のテレビ、月1回女を抱かせろ。そいつの娘でも良い。エヴァのアソコはピンクだと専らの噂だ。町一番の尻軽女さ」と捲し立てる。エーレンデュルが怒り、エットリデが暴れてテーブルを倒す。シグルデュルは強烈な頭突きを喰らって倒れ込む。
*刑務官が複数人でエットリデを抑え込み、刑事達は刑務所を出る。エーレンデュルはエットリデの話に出てきた女の件が気に掛かる。レイプされた女が他にも居たのだろうか。帰ろうとしていると「エットリデが話をすると言っている」と呼び止められる。シグルデュルを車で待たせ、エーレンデュルは単身エットリデと対面。エットリデは「動物以下に扱われる」と、独房を酷く嫌っている。ここから出してくれるなら知っている事は何でも話すと懇願するエットリデ。「お前のような極悪人は永遠にそこから出てくるな」と言い残して立ち去ろうとするが、エットリデは食い下がる。「コルブルンの件で偽証したのか?」と訊くが「そんな女は知らない」と言う。「それなら先刻は誰の話をしていたんだ?」「名前は忘れたが、グリンダヴィクに住んでいた女だ。ホルベルクと同じ年頃だった。グレータルが仲間に加わって写真を撮った」グレータルの行方を尋ねると「ルーナルに聞け」との返事。「何故彼に?」と問い掛けるとエットリデは言葉に窮する。これ以上は聞き出せないようだと判断して、エーレンデュルはその場を後にする。背後から「ここから出してくれる約束だ」とエットリデの声がするが、エーレンデュルは「約束破りの常習犯のくせに」と吐き捨てる。
*帰宅するとエヴァの姿が見えないが、ミートスープが作ってある。自分の好きな料理で、妻のと同じ味がする。やがて戻ってくるエヴァ。人参を買いに行っていたようだ。2人でスープを食べながら「犯罪者は私を怒らせようと、お前の名前を出すんだ。エットリデを知っているのか?」と訊く。エヴァは「私が娘だって事は犯罪者なら皆が知ってるわ。こっちこそ迷惑よ」と言う。
*翌日、
エーレンデュルはグレータルの母を訪ねる。ホルベルクが殺された事を伝えるが、初めて聞く名前だと言う。息子を最後に見たのは1974年の夏、財布からお金を盗んだ時。彼女は現在目が見ないが、昔から大好きだと言うケネディ大統領の写真を飾っている。「息子さんも写真が好きだったとか」「写真は時を写す鏡だと息子は言っていたわ。息子は見付かるかしら?息子が何に関わっていたか知らないと、彼に言ったの」「彼とは?」「ルーナルよ。息子の失踪事件の担当刑事だったの。捜索を早めに終わらせようとしていたみたい。あの辺は腐った臭いがする…何もかも臭いのよ」
*ホルベルクの正式な検視結果が出る。頭部の殴打で頭蓋骨骨折、脳内出血で死亡。犯人は右利きで恐らく男性だろう。ホルベルクの脳には良性腫瘍があり、それに関係する色素斑もあった。ウイドルも脳腫瘍だった。ホルベルクの妹も同様で、2人は幼い内に死んでいる。ウイドルがホルベルクの娘なのかどうか調べる必要がある。その方法は1つだけだ。
*エーレンデュルは許可を取り、ウイドルの墓を掘り返す。それを見咎めたエーリンは「この死体泥棒、墓荒らしめ」と駆け寄って罵る。彼女を近付けないようにして作業を進めるが「ホルベルクは死んでも私達を苦しめるのか。あんた達もルーナルと一緒だ、話さなければ良かった」と泣き叫ぶ。心苦しいが捜査のためには仕方がない。作業が概ね終わった頃、様子を見ている人影がある事に気付くエーレンデュル。相手もそれに気付いたようで、走って逃げ出す。追い掛けるが見失ってしまう。
*エーレンデュルは再度ルーナルの家へ出向く。「エットリデに会った、グレータルの話を聞かせろ」と強い調子で言うが「何も知らない」と取り付く島もない。「エットリデがお前を殺すと言っていた。そうなれば良い」と言い捨てて立ち去るエーレンデュル。その後は検視官を訪ねる。ホルベルクは頭部への一撃で即死。この年齢では珍しく便秘症だったらしい。心臓は聖人のものと変わらない。脳には小さめの良性腫瘍、脇の辺りに色素斑。こちらは既に報告を聞いた内容が多い。ウイドルの方を訊くと、検視官は「アインシュタインを知ってるか」と言い出す。知っていると答えれば「じゃあトーマス・ハーベイ教授は?アインシュタイン死亡時に勤務していた病理学者で、彼を解剖した」と続ける。検視官は死体の傍でも構わず食事をしていて、骨付きの肉に齧り付く。「その時、誘惑に逆らえず脳を取り出した。それだけで終わらず脳を持ち帰ったんだ。盗んだのがバレて解雇されたよ。だが彼はその脳を家に飾り、生きる伝説になった」単なる雑談かと思ったが、検視官は「ウイドルの脳もない」と言う。盗まれた訳ではなく、腫瘍を調べるためにホルマリン漬けにしたのかもしれない。脳の保管場所として考えられるのは[瓶の街]。脳が見付かればウイドルの死因も特定出来る。
*一方、シグルデュルはエリンボルクと行動を共にしており「馬鹿げてる」とボヤいている。「30年前にレイプされた事はないかどうか聞いて回るなんて、失礼過ぎるだろ?」グリンダヴィクから引越した女性も含めれば、対象者は166名。しかも内容が内容だ。玄関先で対応してくれた老夫婦に「レイプされた事は?」と突然尋ねれば「間に合ってるわ」と笑顔で返される。テレビの撮影だと勘違いされる事もある。エリンボルクは「お手本を見せるわ」と言うと、ある家を訪れる。そこはオルンの実家だ。隣近所で殺人事件の捜査が噂になっているとの事で、オルンの母は快く家に招き入れてくれる。ホルベルクの名前も既に聞いているようだ。彼にレイプされた女性を探していると伝えると「彼が殺された件と関係があるの?」と訊いてくる。しかしそれには答えられない。「それじゃこちらもお役に立てないわ」と笑うオルンの母。「失礼ですが、レイプされた事は?」「ないわ」「ホルベルクの事もご存知ない?」「レイプされてたら忘れる筈がないでしょ」
*検視官の言った[瓶の街]とは、アイスランド遺伝子研究所…オルンの勤務先だ。オルンがエーレンデュルを出迎える。研究所では収集した臓器を管理している。オルンは刑事の訪問がウイドルの脳の件だと承知していて、何かを知っている様子に見える。「ノルデュルミリの殺人事件と関係が?」「ウイドルの検視報告書には脳腫瘍としか書かれていなかった」「あれは稚拙な報告書でした。実際には遺伝病の1つ、神経線維腫症です。患者の中には症状が出ず、普通の生活を送れる方も稀に存在します。無症状の保因者ですが、通常は幼い内に症状が現れます。色素斑や皮膚腫瘍と言う形でね」
*ホルマリン漬けの様々な標本が並ぶ部屋。オルンはウイドルの脳を差し出し、エーレンデュルはそれをひとまず自宅へ持ち帰る。部屋にはエヴァの姿も料理もなく、元通りの素っ気ない食事を摂る。そこへ若い男の2人組が押し掛けてきて「あの売春婦は中に居るのか?」と言う。思わずドアを相手の頭に叩き付けるエーレンデュル。怖気付いて逃げ出す2人組。1人が逃げ遅れて階段から落ちたため、救急車を呼ぶ。折れたらしい足の下にはクッションを添えてやる。
*エーレンデュルは旧知のエディを訪ねてバーへ。30万クローナを要求されるが、分割払いを打診する。彼にはエヴァの居所を探すよう依頼していたのだ。「エットリデより早くエヴァを見付けてやった」と言うエディ。彼は「エットリデが昨日脱獄した、あんたを恨んでるぜ」と教えてくれる。居場所を聞いてエヴァの元へ。そこはガラの悪い連中の溜まり場だ。ベッドから抱え上げてエヴァを車へ運ぶ。帰路「中絶するべきよね。虐待しそうで怖い」と泣くエヴァ。
*深夜、ホルベルクの家にやって来るオルン。逡巡しているとパイロットの男が声を掛けてくる。今は制服は着ていない。ホルベルクかと思って挨拶したが別人だった。彼は酒に酔っていて、見慣れない相手についても深くは考えずに歩き去る。気を取り直して、オルンはホルベルクの家に押し入る。窓を素手で割ってしまい、ガラスに血が付着する。家の中を物色しているとホルベルクが家に戻って来る。慌てて逃げ出すオルン。気付いたホルベルクが追って来て、車のフロントガラスを鈍器で殴り付ける。ガラスがひび割れてホルベルクが「降りてこい」と怒鳴るが、オルンは狼狽えながらもどうにか鍵を取り出して車を発進させる。
*エーレンデュルは改めてホルベルクの家にやって来る。この一帯は沼地で陥没しつつある。水道管の修理によるものか、床下が腐っている。軋む床板を剥がすと臭いが強くなり、何かを塗り込めたような床材は部分的に変色している。シグルデュルとエリンボルクを呼び出すエーレンデュル。この床下は隠し場所に最適だ。エットリデが脱獄しているため、日曜日だが人を集めて掘り返す事にする。
*シグルデュルは別れて、サンドゲルディで張り込みをする。ルーナルの家の前だ。予想通りにエットリデがやって来て、ルーナルを責め立てる。「何故余計な事をした?グレータルを焚き付けて俺達に歯向かわせただろ。俺達が奴を殺した時は、関与がバレないかと肝を冷やした筈だ」一通り文句を言い終えると、ルーナルに襲い掛かるエットリデ。シグルデュルが窓を叩くとエットリデは驚き逃げ出す。
有刺鉄線に足を掛けながらも懸命に追うが、なかなか応援部隊が到着しない。それを察してエットリデは逃げるのを止めると、反転してシグルデュルを追い掛け始める。巨漢相手に思わず逃げるシグルデュル。そこへ漸くパトカーが到着する。

*一方、ホルベルクの家の床下からは古い死体が出る。現場に慣れているエーレンデュルも辟易する臭気だ。死体はグレータルのもので、死体と一緒に写真のネガも隠されていた。レイプ事件を担当したルーナルは、不起訴にする代わりに3人組に汚れ仕事をさせていた。連絡係のグレータルが増長し、2人から疎ましがられて殺されたのだろう。ルーナルはグレータルの失踪事件も担当し、捜索を早めに終了させて関与を疑われるのを避けたのだ。
*オルンは母を訪ね「全部分かったよ」と告げる。自分がホルベルクにレイプされて生まれた子だと。涙を流す母。しかし、実際にはレイプではない。エーレンデュルとエリンボルクがオルンの母を訪ねると「ホルベルクにレイプされたのは私」と言うが、見付かった写真の様子ではレイプには見えないのだ。観念してオルンの母は真実を語る。夫は船上での生活が多かった。寂しくて酒に溺れて、浮気もした。夫に写真を見せると脅されるまで、撮影された事には気付いていなかった。金を出さなければ売春婦だと触れ回ると言われた。3人組はただの手下で、ルーナルが黒幕なのは周知の事実。訴えても無駄だと分かっていた。中絶しようかと悩んでいる内に時間が過ぎて
堕ろせなくなった。それでもあの子も、自分達の子供だと思っている。
*「オルンは腹違いの妹ウイドルの事を調べている」と伝えるエーレンデュル。彼がウイドルの存在を知ったのは何故なのか?娘コーラを亡くしてから、オルンは
取り憑かれた様に調査を始めたと母は言う。5歳の時に「遺伝性の脳の病気」と宣告されたコーラ。彼女も神経線維腫症だったのだ。オルンの母は「私が元凶だったのね。ホルベルクと私がコーラを殺したんだわ」と涙を流す。
*一度は逃げ出してしまったが、オルンは再び血縁上の父を訪ねる。彼は自分の出生は母と合意の上での行為ではなく、レイプが原因だと思っている。「過去の行いを気にも留めてないだろ?父さんと呼んでも良いか?何人レイプしたんだ?」「レイプなんかしていない。コルブルンは告訴を取り下げた、俺は有罪じゃない。
そもそも俺の子は娘の筈だ。」「あんたは負の遺産を背負って死ぬべきだった。最後の保因者として孤独な一生を送るべきだった。なのにレイプ犯になりやがって…僕と妹のウイドルは保因者だったが、妹と僕の娘コーラ以外に発症者は居ない。僕らが最後の保因者だ」事態が幾らか飲み込めたホルベルクは反論する。「お前の母親とは合意の上だった。夫を騙して浮気したのさ。写真まで撮られてな。だから被害を訴えなかったんだ。売春婦の息子め、二度と現れるな」思わず灰皿を掴み、ホルベルクを殴打するオルン。
*警察は令状を取り、オルンの家を捜索する。家の中は酷く荒れている。オルンの妻が出て行ってからもう日が経っているのだ。ひび割れた写真立ての中で笑う家族。壁には家系図が貼られていて、父系図の一覧には「僕は彼である」と書かれている。
*オルンの家の調査はシグルデュルに任せて、エーレンデュルは遺伝子研究所へ向かう。研究所ではデータに不正アクセスがあったと言う。個人情報に係わるため、警察への通報は控えたそうだ。遺伝子情報を扱う者は研究者に限られており、まさか殺人事件に関係があるとは思わなかったと言う担当者。オルンは無認可の研究プロジェクトを立ち上げ、研究所や情報保護委員会を欺いて、数家族で発症した遺伝性の脳腫瘍を調べていた。研究目的だと偽って、病気に関するデータを得た。そこから実父や妹の存在を知ったようだ。研究の内容は全てパソコンに保存されている。「例えば一族の秘密も、家族の死や悲しみの歴史もこの端末の中に?」エーレンデュルが問い掛けると、施設職員は「負の連鎖をなくすためです」と答える。
*シグルデュルから「ベッドの下に切断された銃身があった」との連絡が入る。オルンは銃を扱えない。少なくとも過去に使っていない。その使用目的を憂慮し、エーレンデュルは指名手配の指示をする。
*家に戻るエーレンデュル。まだウイドルの脳はそこにある。そこへ死体安置所に侵入者があったと連絡が入る。犯人はオルンに違いない。「検視官を呼べ」とシグルデュルに伝えると、自分も脳を持って駆け付ける。確認するとウイドルの遺体がなくなっている。検視官が「ウイドルの脳はあったのか?」と訊くが、それには答えないエーレンデュル。彼女の脳を持ったままその場を立ち去る。オルンの行き先は予測可能だ。

*車を走らせているとエーリンから電話がある。「彼が来たわ、窓の外から私を見てる」と言う。家を出ないように指示するが、そこで携帯電話の電源が切れてしまう。エーリンの家に到着すると「ウイドルの兄が墓地へ行ったわ。早く彼を止めて。彼はあなた達が墓を暴くのも見ていたの」と言う。

*ウイドルの墓は埋められておらず、穴の中にはウイドルの遺体があり、傍らにオルンが立っている。「何故ウイドルを起こすような真似をした?」と銃口を向けてくるオルン。「仕方なかった」と答え、ウイドルの脳を差し出すエーレンデュル。銃を渡すように促すが、オルンは聞き入れない。「遺伝学者は僕ら兄妹を何と呼ぶと思う?[偏差]だ。…入院していた娘に聞かれた事がある。何故目があるの?と。『見るためだ』と答えたが、娘は『泣くためよ』と言った」オルンは銃口を自分の方へ向ける。「もしも自分を見失ったら?僕は何者だ?悔やんでももう遅い」エーレンデュルの制止を振り切って、オルンは引き金を引いてしまう。オルンの血を浴びるエーレンデュル。遠くで警察車両のサイレンが聞こえる。エーレンデュルはシャベルでオルンに土を被せる。
*「怒るつもりはなかったんだ、すまなかった。お前が人生を無駄にしているのが我慢ならなかったんだ。だが、あの時小さな棺を見て、何が正しいか分からなくなった。どうすべきなのかも分からない」エヴァに語り掛けるエーレンデュル。エヴァは「私を殴る?」と訊く。エヴァの手に触れる父。2人は並んで横たわる。「私達は鎧を身に着け己を守っているつもりでいる。世の汚れを離れた場所から眺め、無関係なつもりでいる。だが、汚れへの嫌悪は次第に私達を蝕む。そして、最後には日常に戻れなくなるのだ」

 

■雑感・メモ等

*映画『湿地』

*レンタルにて鑑賞

*アイスランド製ミステリー

*アイスランドの推理作家アルナルデュル・インドリダソンの小説を映画化。原作は[エーレンデュル警部シリーズ]の中の一遍で、日本でも同シリーズから現時点で4作品が翻訳されている模様。(本国では15作品程刊行されていて[ヤング・エーレンデュル]として括られたものも幾つかあるみたい。)『湿地』とは随分地味なタイトルだなと思ったんだけど、小説もそのタイトルなら仕方ないか。

*小説が原作で舞台が欧州、主人公は捜査官またはそれに準ずる人。と言う映画に弱くて、見掛けるとついレンタルしてしまう。(実際には小説が原作ではなくてもそれらしい雰囲気ならそれで良いし、舞台が欧米その他でも問題ないんだけど。)この作品は正に好みのタイプだと思って借りてみた。雰囲気はとても好き。

*因みに文字では分かり難いけど、映像ではオルンのパートは青味が強く、ホルベルク死亡以前の出来事。彼が実父殺害に至る経緯を描いている。エーレンデュルと接触する部分は現在。(ところで終盤「偏差」の台詞、吹替版では「例外」になってる。)

*小説では描写されていても映画では端折られているのか翻訳の都合上なのか、分かり難い部分が幾つか。まずホルベルクは何故あの写真を隠し持っていたのか。天涯孤独な自分にも過去に子供が居たと言う思いから?あの男の過去の行為や死の間際の態度からするとそんな身勝手許されないと思うけど、だからこそ隠していたのかな。コルブルンの方が中絶しなかった理由も特に語られなかったように思う。同意の上だった(そして恐らく父親が誰なのかはっきりしなかった)オルンの母とは違って、状況やその後を考えるとコルブルンの方は堕ろした方が良かったんだろうけど。

*情報保護委員会からオルンに届いたものも実際のところ何だったのか。続く場面で実家に行っているからネタバレにはコーラの情報として書いたけど、娘の病名ならそんな手順を踏まずに分かりそうな気も。他の発症者や保因者についての情報を取り寄せたのかもしれない。

*エーレンデュル達とエットリデの会話で、エーレンデュルが違和感を覚える(レイプされた女性が他にも居たかもしれないと考える)のも理由が分からなかった。

*エーリンがオルンを「ウイドルの兄」と知っていたのも何故だろう。

*一番謎なのは、わざわざ墓を掘り起こしたのに(見付かったのは別の場所だけど)ウイドルの脳を鑑識に渡さないエーレンデュル。そして自殺してしまったオルンに土を掛けるのも。パソコンやホルマリン漬けの脳の中に家族の秘密がある事に違和感や遣る瀬無さを感じたのかもしれないけど、捜査官としてあれは大丈夫なのか。最後の娘との会話もちょっと分からない。

*ある程度予測は出来るけど、もう少し補足が欲しい。原作を読めばこの辺の謎が氷解したりする?と思ってネットで冒頭部分の試し読みをしてみた。[登場人物]を見ると映画版には居なかったと思われる人物が沢山。一方でオルンが居ない。エイナルと言う人物がオルンに当たるのかな?そして原作では死体と共に単語が3つ並んだメッセージが残されていたようで。原作と映画では結構内容が違っているんだろうか。(映画のあらすじに「現場に残された3つのメッセージ」て書かれてるけど映画版にはないよね…因みに本の冒頭には何かの引用ではなく、エーレンデュル自身の言葉が書かれてる。)

*ついでに他の3冊も試し読みしてみたんだけど、シグルデュルはハンサム設定でエリンボルクは料理本の出版準備中だった。捜査官の料理本て気になるな。

*別の意味で謎だったのが、エーレンデュル達は(英国のように)拳銃等を所持していないのかと言う事。シグルデュルがエットリデを追跡してる時に恐らく「こいつなら倒せる」と思われて、逆に追い掛けられる…と言う展開があって笑ってしまったんだけど、流石に銃を持っていたらそんな事にはならないんじゃ。軽く調べてみたけど、アイスランドの警察では普通に銃を使用しているっぽい?エーレンデュル達とは別に武装要員が居るのかな。

*シグルデュルは別の場面でもちょっと緩めで、全体的に生真面目な映画の中で和める存在だった。シグルデュル関連の面白かった会話の抜き出し:(ホルベルクのトラックでエロ本を見ながら)「これはヤギ?」「いや、羊とヤッてる」/往路「煙草を消してください。吸い続けられると煙が辛いんです」「泣き言を言うな」/「鼻が折れてる?」「メソメソするな」/復路「あのさ」「気安いぞ」「鼻で息が出来ないから煙草を消して」「窓を開けろ」(外は雪)/(飲食店で店員と)「ベジタリアン用は?」「そんなものはないよ」「じゃあカフェラテを」「自分で注いで」「分かったよ」(料理は頼んでない状態、隣の席のエーレンデュルのスープを勝手に飲む)/「イカれた老婦人が襲った可能性は?」「エーリンは無関係よ」「じゃあエットリデだ、奴の刑期を延ばして解決だな」「流石アメリカ帰り」/「自分の出生が不安になったか」「両親に似てないとよく言われます」「全く同感だ、お前はろくでなしだ」「軽口が戻ってきましたね」「本音だ」

*検視しながらモグモグ食べる検視官も良いキャラだった。死体の傍で「もう香りはしないが、彼女の身体のラインが好きなんだ」とか言ってエーレンデュルに怪訝な顔をさせる。これはエロい写真付きの芳香剤の話。

*検視官に限らず食事の場面が多い。エーレンデュルがドライブスルーで「いつもの」て言って羊の頭を買うのに驚いた。エヴァが居ると家庭料理がテーブルに並んだりする。エーレンデュル達3人が食事しながら打合せしたりシグルデュルが張り込みしながらドーナツ食べたり。煙草を吸う場面も多め。妊婦のエヴァも吸ってる。最近のハリウッド映画ではあまり見ない感じ。

*エヴァがエーレンデュルの娘だと言う事は犯罪者に知れ渡っている?ようで割と酷い。映画のラストでは比較的穏やかな雰囲気だったけど、原作ではエーレンデュルとエヴァの確執が毎度軸になってるみたいな。

*他の作品は映画化されないのかなと思って確認したけど、この『湿地』が10年程前の作品なのね。今のとこ他には映像化されていないようで望み薄な様子。残念。