■あらすじ
作家のポールは、愛する妻が4年前に彼のもとを去ってから、書くことができなくなっていた。ある日、魅力的な不動産屋のローラと行きつけのダイナーで待ち合わせをしていた彼は、そこで男と口論になってしまい、ジャックという名の男に助けられる。礼としてポールは寝床のない彼を家に泊めることにした。素性の分からない男との生活が続くなか、状況が一変。ジャックはポールを人質にとり「2人の物語を書け」と脅迫する。ジャックは一体、何者なのか?そして、窮地に立たされたポールの予想だにしない真実が明かされることになるが―。(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*タイプライターに「書けない書けない…/I am stuck.I am stuck…」と延々打ち込む小説家ポール。4年前に妻レネーが去ってから、彼はまともに書けなくなっていた。生活も困窮し、食料品店でもツケばかりだ。代理人マーティは最新作を返送してくると言う。苛立ち、山道でトラックを追い越そうと煽る。
*ポールとブレンツダイナーで待ち合わせをしている不動産業者ローラ。ポールは家を売りたがっているが、買主は未だ見付かっていない。店内では連続殺人の犠牲者についてニュースが流れている。3年で4人目の被害者はナンシー・バロウズ。やがてポールがやって来るが、続いてポールが煽ったトラックの運転手も現れた。一触即発の事態だったが、居合わせた男が助けてくれる。
*男は何も言わずに立ち去るが、ポールが帰途に就くと同じ方向に歩いて行く姿を見付ける。ポールは彼を拾って目的地を聞くが、当てもなく旅をしているらしい。男の名はジャック。道では嵐の後始末をしており片側通行になっている。電気と電話が駄目になり最近漸く電気が復旧したが、未だ電話やネットは使えない。
*結局適当なところで放り出す事も出来ず、ポールはジャックを家に招く。丘にぽつんと建つ一軒家で、傍にはそれなりの大きさの池も作ってある。外の風景は美しいが、家の中は散らかり放題で酷い有様だ。これではとても売れそうにない。しかし、ポールがうたた寝している間にジャックが綺麗に片付ける。彼は料理も上手で、壊れた扉を直すとも言う。家を売って出て行く予定で、金も払えないからと断るが、ジャックは構わず作業をする。
*ジャックはポールの話を聞きたがる。25歳で初めて本を出版、30歳を前にベストセラー。映画化権を売って自分で脚本を書く筈が、別の人間が脚本を書いた。出来上がった映画はタイトルしか元の作品らしさが残っていない状態だった。代理人から返送された最新作のタイトルは『時計の下で』。
*ジャックは幾つも刺青を入れている。背中には黒い蝶、大変珍しいと言う[ブラックバタフライ]。彼はポールに「酒を断てば偉大な作家になれる、良いネタがあればきっと返り咲ける」と言う。そして「俺達の話を書け」と促す。ネットは未だ繋がらないが、PCで原稿を書く分には問題ない。しかし、試しに書いてみたものをジャックは無情にも暖炉に放り込む。もう少し工夫が必要だ。例えばジャックとトラック運転手がグルだったなら?面白くなりそうだとポールも乗り気だ。
*ジャックは深夜に突然、ポールにナイフを突き付ける。声も出ないポール。「作品の中で女に命乞いをさせてただろ?これが本当の反応だ」と言う。常軌を逸していると感じ、ポールはジャックの留守中に荷物を調べる。鞄を探ると、女性の行方不明の記事や血の付いた医療器具がある。日記も気になるが、ジャックが家に戻ったため読む事は出来ない。
*ある時、ポールは女性の悲鳴を聞いたような気がするが、ジャックに尋ねても取り合わない。手にした銃を撃ち「この音か?」と聞く。銃はポールの狩猟用のものだが、最近はジャックが常に持ち歩いている。やがて食料品店から配達人がやって来る。ジャックは「外に出るな」と言い、ポールに銃を向ける。彼を怒鳴りつけてから店員と遣り取りし、その後激昂して外へ出るポール。口論の末殴り合いに発展し「俺に逆らうな」とジャックに首を締め上げられる。家に戻ると「出所したばかりだから来客に神経質になっているんだ」とジャックは言う。「追われているんだな」と聞くとジャックは「刑務所に戻る気はない」と答える。
*夜の雨の中、車に乗り込むポール。ジャックに見咎められて、1人で酒を呑もうとしたと白状する。ジャックはポールに、酒瓶を石垣に投げ付けるよう指示する。一口煽って言われた通りに投げ付ける。「仕事に戻ろう」と言うジャック。
*電話が繋がらず、ローラが直接やって来る。彼女の車で逃げようとするが、ジャックに先廻りされ銃で撃たれて断念。逃げられないように、ジャックはローラの車を池に沈めるよう命令する。怯えるローラの携帯電話に着信がある。ポールの機種が特別繋がり難いのだ。電話の相手はマリオン、ベビーシッターだ。ローラには2歳になる子供が居る。
*そこへ保安官カルカーノがやって来る。銃を突き付けながらポールに対応させるジャック。保安官は郵便局員のミシェル・エマーソンを探していた。LAからの郵便物をポールの家に届ける筈だったが、姿を消したのだ。彼女には会っていないと答え、保安官が帰ろうとするとジャックが飛び出す。そして、保安官を車に押し込んで発砲する。
*妻の希望で窓を塞ぐ事が出来る木製の扉を用意してあったため、急いでそれを各部屋の窓に取り付けてジャックを締め出す。静かになると電車の音が微かに聞こえる。3km先を30分おきに電車が走っているのだ。屋根からは人の気配がする。同時にパトカーに乗り込むような音もする。何をやっているのか見えないが、この隙に逃げるしかない。しかし林の中でローラが足を挫いてしまい、またしてもジャックに先廻りされる。
*家に戻され、隙を突いてローラがジャックを刺そうとしたが失敗。彼女は別室に運ばれ、叫び声が聞こえてくる。床に落ちた彼女の携帯電話を密かにポケットに押し込むポール。2階の部屋でダクトテープで椅子に拘束されるが、ジャックがその場を離れた間に壁に飾ってある額を落とし、ガラスを割ってテープを切る。携帯で助けを呼ぶ事はせずに、静かに階下に下りて銃を取る。
*ジャックと対峙するポール。床にはローラが転がっている。「彼女の死体を隠せば問題ない」とジャックは言う。ポールは構わず自分の話をする。「俺が捕まらないのは、神の合図を見逃さないからだ。お前の事も、この男を拾えと神が言った。刑務所を出て女を殺している男を、俺が止める」と。「殺してない」と言うジャックに「知ってるさ」とポールは答え、被害者から奪った[戦利品]をジャックの鞄に投げ込む。連続殺人犯はポールだった。妻に似た雰囲気の女性を何人も殺してきたのだ。ポールは銃でジャックを撃つが、ジャックは倒れず血も流さない。茫然としていると銃を奪われ、銃床で殴られて意識を失う。
*意識が戻ると、ポールはまた椅子に拘束されている。今度はダクトテープではなく手錠を掛けられて。ジャックは連続殺人犯を追うFBI捜査官だった。ローラも、トラック運転手の男さえも同様だ。ジャックは保安官を車に押し込んで「耳を塞げ」と言い空砲を撃った。ローラも芝居をしていただけだ。彼らは今、ポールの家とその周辺を徹底的に調べている。しかし、ジャックの捜査は常識的ではない。大半は証拠として採用されないだろう。ジャックは妻も殺されていると睨んでいて自供を促すが、ポールはレネー殺害を否定。更に物的証拠はジャックに持ち込まれたものだと主張する。犯罪の告白は録音されていたが、それも物語の中の台詞に過ぎないと。
*不味い状況だと、捜査官達は顔を顰める。ジャックが何か決定的な証拠に繋がるものはないかと探していると、レネーが姿を消す前の最後の写真が目に留まる。彼女の背後には美しい丘が広がっているが、池はない。彼女を殺してから池を作ったのではないかと考え、ポールに「池の下を掘り返す」と伝えるジャック。するとポールは顔色を変え、取引がしたいと言い出す。遺族のためにと詳細を話す事で、刑を軽減したいのだ。「俺が作った物語だ、結末も選ばせてくれ」と乞うポール。しかしジャックは「俺が考えた結末の方が良い」と突っ撥ねる。
*ソファで目覚めるポール。タイプライターには「書けない書けない…」と打ってある。しかし、今見ていた長い夢を作品にすれば面白くなりそうだ。ポールは紙をセットし直して、タイプライターのキーを叩き始める。タイトルは『ブラック・バタフライ』だ。
■雑感・メモ等
*映画『ブラック・バタフライ』
*レンタルにて鑑賞
*お芝居系+完全夢オチサスペンス。主人公が連続殺人犯。かと思えば最後は夢オチ。こんなに見事な本気の夢オチ、意外と少ないかも。普通はもう少し捻ったり凝ったりしない?
*主人公の妻は生きているかもしれないし元々妻なんて居ないかもしれないし、実は彼はまだ夢の中なのかもしれない。殺された女性達が居なかったとすればある意味良い事なんだけど、そうなると眼鏡のFBI捜査官も存在しない訳でそこは許し難い…。(FBI仕様のジョナサン・リス・マイヤーズが可愛かった。)
*現実パートは冒頭とラストの極めて短い時間だけ。現実ではポールがタイプライターを使っていて、夢の中ではパソコンを使っている…と言う仕掛けだと思われる。(うたた寝をするソファの周囲も整頓されている。)タイプライターの事は勿論気付いたけど、パソコンと併用してるんだと思ったよプロットを立てる時にはタイプライターとか言う事なのかなと。眼鏡や服装なんかにも変化が欲しかったな。
*とは言え、お芝居系でお終いだったらそれはそれで不満が残りそう。仮に車に乗せてくれたとしても、客室まで提供してくれるとは都合が良過ぎる。その後の展開も出来過ぎ感が強い。
*登場人物が主に2人なのに「散りばめられた伏線…衝撃のラスト」「あなたは完全に罠にかかる」とかジャケットに書かれたら、もう圧倒的に主人公が怪しいよね。