「こんにちは」
街なかで、いきなり女性に声をかけられた。考え事をしながら歩いていたので、びっくりして振り返って、なおびっくり。
そこには、中学校の時の同級生が。しかも、自分がひそかに恋心を抱いていたまさにその人。
卒業してもうン十年。以前一度だけ開かれた同窓会にも来ていなくて、結局卒業後一度も会っていない。でも、ひと目で彼女だとわかった。もちろん、彼女のほうも私の顔を見て確信できたから、声をかけてくれたのだろう。
「全然、変わらないよね。」
「いえいえ、もうすっかりおばさんになっちゃった。」
ほんの数分だけの立ち話だったけど、いろんなことを話してくれた。結婚して、3人の男の子の母親であること。今は地元から少し離れた地域で暮らしていること。今日久しぶりに地元に来たのは、実家の両親のことで用件があったから。
彼女「結婚しているの?」
私「うん」
「よかった・・・」
ん? 「よかった」・・・どういう意味だったんだろう?
でも、聞けなかった。
話を終えて彼女と別れた後、当時の思い出が一気によみがえってきた。彼女と同じクラスになったのは中学校3年生の一年間のみ。それまでは、同じ学年でいながらお互いに全く知らなかった。
出身小学校も部活も違うし、クラスでも接点は少なかったけど、なんとなく集まるゆるーいグループ(男女7・8人)の一員として、僕のほうが次第に彼女に淡い恋心を抱くようになった。
修学旅行のとき、クラスの写真係になった私が、遠くからひそかに撮った(盗撮じゃん!)彼女の写真を切り抜いて、生徒手帳に忍ばせていたっけ。
でも、その想いを彼女に打ち明けることはついに一度もなかった。なぜなら、グループの中にとびきりカッコいい男(バスケ部のキャプテン)がいて、そいつは彼女のことを「将来俺の嫁さんになる」と公言していたし、彼女もそれを否定しなかったから。でも、彼らが付き合っているとか、そういう感じではなかった。
(後篇へつづく)