僕は字を読むのが遅いので、本を一冊読んでから感想を書こうとすると、最初の方がどうだったか思い出せないことがあるので、少しずつ感想を書いていくようにしているのですが、この本はそれができませんでした。

 

途中で提示されることが、最後まで見てみないと判断できない感じがしたからです。

 

ナチス政権のドイツでユダヤ人が迫害され、最後には強制収容所に送られ、強制労働をさせられたり殺されたりしましたが、そこから生き延びた人もいて、戦後になってそのような生き残りが、党員だった人や党に協力していた人に復讐を始める、という描写が出てきた時に、それをどう受け取ったらいいのか、よくわかりません。

 

多分、作者の方は、迫害した人も迫害された人も、幅広く登場させて、それぞれの内情を少しは語らせる方針で、叙述されているんだと思います。

 

しかし選択肢が限られていて、誰でもその場に置かれたら、そうするしかない、ということも多くて、誰のことも責められないし、誰のこともかばえない、という感じがしてきます。

 

戦後の時点では、レジスタンス運動に関わったドイツ人とか、迫害に耐えて生き残ったユダヤ人などが、加害性を免れ、正義に近い立場だと見えますが、レジスタンス運動では反政府活動の中で仲間や家族を犠牲にしますし、戦中に虐げられた人が戦後に暴力で報復すると、それが絶対に正しいとは言えない感じがしてきますし、かといって報復を許さずに耐え忍ばせるのも気の毒な感じもします。

 

最後まで見た僕の感想は、アウグステが典型的に、ロスト・ジェネレーション(失われた世代)で、他の人も多かれ少なかれそうだ、という感じがしました。

 

戦後まで体は生き延びても、アウグステはもう沢山の過酷な経験を引き受けてしまっていて、平和な時代の17歳ではなくなっています。目の前には、自分の心が望むことを自由にやっていく道が一応は開けていますが、このまま自殺してしまいたいという方向に振れる気持ちもあるし、自暴自棄になって無差別殺人を犯す可能性だってあるかもしれません。

 

 

物語の構成としては、あまりうまくはできていないのかな、というふうに思いました。

 

戦後の時間軸の中で、アウグステの数日間の冒険が語られる部分が中心となっていますが、間に過去の回想が入ってきます。

 

しかし過去の時間軸は一定ではなくて、現在の視点では語れないことが、自由に時間軸を選んで語られています。少しずつ現在に近づいてくるので、時系列になっていて、現在と過去が行き来する感じにはなっていません。

 

でもそれだったら、何年何月何日と入れて、現在と過去を行き来する構成にしても良かったんじゃないかと思いました。

 

なるだけ、アウグステの冒険の数日間で、全てが語れるようにし、漏れた部分だけを、幕間という形で間に入れていく、という構成だと、漏れる部分が多すぎる感じがするし、現在の時間で幅広いことを語ってしまう必要があるために、筋書き自体が無理がある展開になっているような気がしたのです。

 

そして、幅広くいろいろな立場の人が登場してきますが、それは戦後ドイツの状況をたくさんの本を介して知ろうとする人もそんなに多くないと思われるために、一冊で網羅的にいろいろな人の立場を説明した方がいいと判断されたからかなと思いました。

 

でも、多くの人を出そうとして無理している感じになってしまっているように思われました。それには別の要素も影響していて、それは推理小説仕立てではあっても、最終版まで少しも謎の解明が進まず、最後の種明かしで全部が明かされる構成になっていて、途中の描写は、必要だったのかどうかわからず、多くの人を見せたかっただけの、寄り道に思える、ということがあるからです。

 

結果的には、幅広い人たちの事情を見せてもらって良かったと思えるし、アウグステの物語として見たら、全てが有機的につながっていて、これはこうと理解するのではなくて、この話をふと思い出した時に、全体像から教訓が引き出せるような感じがします。

 

 

人や街への被害という点で見れば、災害と戦争で似た部分があるように思いましたが、やはりひどいのは戦争の方で、破壊を行う時の苛烈さは似ていても、執拗さで戦争が上回る感じがしますし、停戦が実現してからも、占領軍が被占領地域の人たちをどう扱うかが定まらなくて、戦争中の憎しみがそのまま出てしまうことも多々ある、ということみたいです。

 

こういう情景を見せられると、普通は、絶対的反戦主義に傾斜すると思うのですが、攻め込まれたら防戦しなければならないという立場を堅持する場合でも、戦争となったら大変なことになるので、できるだけやらないで済ます方がいい、という結論にはなるんじゃないでしょうか。

 

正常な子供時代を送れなかった人は、いくらか病的になっていて、その影響はその子供に及ぶので、戦争の傷が癒えるまでには何世代もかかります。