彼女 死 生 僕 | Proof of...

Proof of...

祈る神を持たない僕は、ただ言葉の力を信じている。全ての言葉に僕の意味を。

僕は(死というものを理解してから)初めて家族を亡くすことになる。


曾祖母が危篤だと連絡が入った。

もう長いこと寝たきりで、会話はおろか反応さえも返せない状態だった。このまま逝かせてあげることにしたそうだ。
いつどうなるか分からないと言われていたけど、もっとずっと先の話だと思っていた。


幸いにも僕は、両方の祖父母も、叔父叔母も、皆健在だ。だから、肉親が亡くなる気持ちを理解できないでいた。
二十二年生きてきて、人の死に触れたことが無いわけではないけど、友達が死んだ時も、幼なじみのおじいちゃんが亡くなった時も、友達の親が亡くなった時も、僕は泣けなかった。僕は本当の意味での死を理解していなかったから。だからほとぼりが冷めるまでその人から逃げた。何を言っていいか分からなかったから。何を言っても嘘にしかならなかったから。悲しみに暮れる友人に「悪いけど僕には分からないんだ」などと言えるほど僕は冷めた人間じゃない。



でも初めて、本当に初めて、僕は死を理解する。




胸が痛くて、涙を堪えながらバイトを終えた。
でもそれは死に対する涙ではないのだと思う。
曾祖母が死ぬこと自体には、正直安堵があった。これ以上苦しい思いをしなくて済むのだから。

僕の胸が痛い理由は




後悔。





実家に帰り、祖父母の家に行っても、僕は曾祖母のいる部屋に寄り付かなかった。
恐かったのだ。情けないけど、理由も無く恐かった。
父が話かけるのを廊下から覗き見ていた。曾祖母に反応は無い。



あの耳は聞こえるのだろうか、父の声を。

あの目は見えているのだろうか、覗く僕を。

細く小さくやつれ、骨と皮しか無くなった彼女は、老いと死を僕に見せつけていた。
そして僕は恐くて部屋を離れた。

僕は昔、老人を恐がるところがあった。そのためか、あまり彼女との記憶を覚えていない。
けれど、今になって、思い出す。多くはないけれど。僕に笑いかける彼女。









後悔。








もう少し早く思い出せていたら

例え聞こえない耳でも
その思い出を語って聞かせて


例え見えない目でも
今度は僕が笑いかけて


例え感じない皮膚でも
僕の手で撫でてやって


そしたら彼女は、幸せに思ってくれたはずなのだ。


今ならこんなにも思えるのに!



情けない


情けない


情けない


後悔


後悔


後悔



たったそれだけの恩返しが、僕の命に対する恩返しができなかった




そんな駄目な僕に、彼女は最後に死を教えてくれるのだ。あぁ。やはり情けない。これだけのことをしてくれたのに、僕は何もしてあげられなかった。




ありがとう


ありがとう


ありがとう



僕はあなたのおかげで生きていて、あなたのおかげで死を知ります。生と死を両方与えてくれた。こんなに有難いことは無い。嬉しいことは無い。






想うだけで思いは伝わるだろうか

僕のこの後悔と感謝が伝わるだろうか


できれば、僕が帰るまで生きていて。もう少しだけ、ごめん、辛いのを我慢して。お礼が言いたい。貴女の熱に触れたい。










丁度お盆だ。曾祖父のお迎えで、迷わず逝けるだろう。
どうか、苦しみの無い、幸福な死を。









ありがとう、ひいばあちゃん
あなたとしたかくれんぼ、僕は忘れません
あなたが庭に水をやる姿も、僕は忘れません
あなたに貰ったこの生と死を無駄にしません


ありがとう