白いキャンバス・2 | Proof of...

Proof of...

祈る神を持たない僕は、ただ言葉の力を信じている。全ての言葉に僕の意味を。

そうして春生の世話になることに決めたのが一ヶ月前のことだった。
春生は驚くほど親切に彼の世話をみてくれた。身許が分からないということで面倒であったろう退院の手続きを済ませ、彼の所有するアパートの一室を貸し与えた。それに必要な一通りの生活用品も用意してくれた。これだけのことをしてもらってありがたい。仕事を見つけたらいつか返すと告げると、春生は笑って
「じゃあうちの教室で働かないか」
と言った。
「教室?」
「あぁ、これでも私は画家でね。大して名があるわけでもないが、絵画教室を開いているんだ。君にそこの助手をしてもらおうと思うんだが。」
「絵…」
「大したことは無い。画材の準備やらなんやら、要は雑用だがね。ちょうど人出が足りなかった。」
自分が絵を描けるのかどうかなどもちろんわからなかった。だが不思議と悪い気はしなかった。何かを造り出す作業は好きな気がした。
「えぇ。ではお言葉に甘えて。」「よし。それじゃ…あー…そうだな。いつまでも名前がないんじゃ不便だな。なんかあるか、名前。」
「…シロ」
一郎とか二郎とか、そういう名前は違うと思った。そんな後付けはいまさらいらない。
名前が僕の存在を表わすものなら、僕の名前はそうだと思った
「じゃあシロ、今日から。いいかい?」


林道に差し掛かるころになると、太陽はもう随分高くなっていた。
冷めていた空気を少しずつ暖め、この街に生きるものを育む無償の熱だ。太陽はそれが好きでやっているように思った。
春生は太陽に似てる。
春生の絵にはどれも太陽が描かれていた。力強く、しかしそれはこれ見よがしに照りつけるものではなく、内に確固として燃えるオレンジだった。

この林道には朝の人通りはほとんどない。木々の隙間から零れる光と風が揺らす葉の音が好きだった。
少し向こうのベンチに、誰かがいる。
髪の長い女性が、身を縮めて座っていた。泣いてるのだろうか、時折小刻みに震えている。