ムスメのせっかくの春休み、
1日くらいはどこかに連れて行ってやりたい、
そう思って、
今日は家族3人で映画に行くことにした。

出かける直前、
私はちょっとしたことで、
ムスメにお小言を言い始めた。
言っているうちに感情が高ぶってくる。
口調もキツくなってくる。

私が怒り出したことで、
家族が重たいイヤな空気に包まれる。
時間が来て、
私達はイヤな空気のまま出発した。

自分が感情的になったことで、
この始末、悲しくて仕方なかった。

それなのに、家族には、
私を許してくれることを、
それを態度で見せてくれることを強く望み、
それに反して澱んだような空気が苦しく、
私はひとり自分の世界に入っていってしまった。



映画館に着いた。
重たい気持ちのままチケットを買った。

ふたりを先に席に向かわせ、
私はポップコーンを買いに、
ひとり重い足取りで売店に向かった。



いつもなら、みんな一緒に買い物もして、
それから入るんだけど、
私は自ら自分は孤独な人間なんだという立場を、
作ろうとしていることに気づいた。

ああ、私、
自分から苦しむことを選んでる、って。

ほら、私はひとりなの、
かわいそうなの、
やっぱり私は
こういうつらい目にあう人間なの、って。

自分が原因を作ったにもかかわらず、
事実をどこかでねじ曲げて被害者になることで、
周りの誰かに自分を幸せにすることを強要し、
周りの誰かが自分が幸せでない原因とみなし、
執拗に責める。

そうだ、そんな図式が成り立っちゃうじゃん、
心の隅の方の冷静な自分が、
自らつらい方へつらい方へと流れようとする、
そんな自分を眺めていた。



ポップコーンをオーダーすると、
売店のおねーさんは、
にっこりと笑い、

「かしこまりました!」

と言った。

その笑顔があまりに美しくて、
目頭熱くなった。

ポップコーンを差し出したおねーさんに、
こう言った。

「素敵な笑顔ですね。
 今日、悲しいことがあったんですけど…
 癒されました。
 少し元気になれました。
 ありがとう」

すると彼女が言った。

「わぁ、そうなんですか?
 ありがとうございます。
 どうぞ、映画でリフレッシュなさってくださいね」

彼女はまたにっこりと笑った。
なんて美しい笑顔。
あったかい言葉。
胸が、きゅう…ん、とした。

人がにっこりと笑うって、
ものすごい力。
笑顔ってこんなにも人の心を救うんだ。

3人並んでいた売店の売り子さん、
なんとなく彼女の列に並んだけれど、
これも偶然じゃなかったんだ。

「ありがとう!
 ご縁に感謝します」

お釣りを受け取りながら彼女にお礼を言った。
彼女はさらに美しい笑顔で
私を見送ってくれた。



席について、上映を待っていると、
心の中に彼女の笑顔と
あたたかい言葉がよみがえり、
胸の辺りの黒い固まりがどんどん溶けていった。

うれしくて、うれしくて、うれしくて、
涙がぽろぽろこぼれた。
薄暗い中で、私は涙をそっとぬぐった。

そして、気づいた。

私は、自分の力で幸せになることを、
いつも放棄してしまう。

みんながこっちを見てくれないなら、
みんなが私にやさしくしてくれないなら、
私絶対に幸せになんかなるもんか、
そう頑に思う自分がいる。

それは、
もうこだわりたくないと思っている、
いわゆるトラウマからの行動。
けれど、もう、本当に卒業しよう、
そう心に決めた。

私は自分の力で幸せになるんだ。
私が幸せになると決めることで、
この世界は変わるんだ、そう思った。

それを決めてしまうと、
かつて愛を受け取れないと感じた体験を、
修復できないと、人は思うのだろう。

だから、繰り返し、繰り返し、
自分が苦しむ体験を再現し、
周りから愛を与えさせようと、
小芝居みたいなことを続けるのだろう。

つらい自分でいることによって、
それを周りにおぎなわせ、
かつて得られなかった
満足を得ようとするのだろう。

人それぞれの傷の形に合わせて、
小芝居を続けようとするのだろう。

けれど、それほど悲しいことはない。
自分が幸せになれる力を持っているのに、
その力を外にゆだねてしまうのだから。

もう繰り返さない、私は強く心に誓った。



そして、ポップコーンをほおばりながら、
abuとアンナに言った。

「今日は出かける前に感情的になって、
 イヤな思いをさせちゃってごめんね」

abuは前を向いたままこう言った。

「ん?
 何かあったっけ?」

アンナは私の肩にことんともたれかかった。

ありがとう、ありがとう、abu、アンナ。
ママは素敵な家族に恵まれて幸せだよ。



売店のおねーさんは、
私にとって天使だった。
あの短い時間の中で、
私にたくさんの贈り物をくれた。

私も笑おう、そう思った。
私の笑顔がきっと誰かを幸せにする。
今日の私がそうだったように。
だから、笑おう。

今日私が救われたように、
誰かが救われるように。

今日私が大切なことに気づいたように、
誰かが大切なことに気づくように。



笑って。
あなたも笑って。
にっこり笑って。

自分はダメなんだ、
自分には価値がない、
自分の居場所がない、
自分は役に立たない、
自分なんて、自分なんて、
そう思っている人も、
笑って。

何をしたらいいかわからない、
どうやって生きていっていいか分からない、
希望も何も感じない、
そんなあなたも笑って。

笑う、たったそれだけのことだけど、
それは、誰かの世界を
ひっくり返すほどの力がある。
ただ笑うだけで。
私達はみんなそんな力を持っている。

その力を発揮する時、
あなたはきっと気づくはず。
今まで見えなかった大切なことに。

そして、
欲しかったものを必ず手に入れるよ。