私の右手は
すっかり冷えきっていて
ベッドに入ってもじんじんした。

ずっとマウスを操作しているから
常に寒さにさらされて
左手よりうんと冷えるのだ。

これじゃあ眠れない
そう思って
右手を左手で包んだ。

右手に触れた左手が冷たい
氷みたい、そう思った。



ずーっと、ずーっと
左手で右手をあたためていると
そのうち、今度は
右手で左手の
あたたかさを感じるようになった。

おもしろいなぁ。

左手は右手の冷たさを
右手は左手のあたたかさを
同時に感じている。

両極端の感覚が
同時にそこにある。

同時にそれを感じている。

不思議な感覚。

同じ私なのに。



そのうち、右手も左手も
同じくらいのあたたかさになった。

右手の冷たさが左手を冷やして
左手のあたたかさが右手をあたためて
温度が行き交う。



やがて
右手と左手は同じ温度になって
温度差でお互いが
違うものだという感覚が消えた。

温度差がなくなると
右手が冷たいだとか
左手はあったかいだとか
何も考えなくなった。

本当はただ「手」というものが
存在しているだけなのに
その温度が違ったから
その違いでそれぞれが
違うと感じていたけれど

ただ右と左の「手」がそこにある
それだけなんだ。

実は最初から同じなんだ。

冷たい手、あったかい手
くっついて、寄り添って
それぞれの温度を行き交わせて
ただそれだけ
ただそれだけを
ひたすらしていると

お互いに
なったものが行き交い混じり合い
違うものだった右手と左手は
その境がなくなり
ひとつの「同じもの」になった。

ほんわりとしてきた意識の中で
思った。

ああ、私達人間も
こうしてひとつになっていくんだ…



誰かを見て
許せなかったり、受け入れ難かったり
感情が逆撫でされるものに出会うと
嫌悪感や怒りや憎しみを覚える。

否定し、批判し、攻撃し
問題の責任を追及し、裁きを与える。

心の中で裁きを行うこともあるし
実際に、態度や行動で
コントロールを仕掛けることもある。

それはおかしいのだと、
それはなくすべきだと、
それは変えるべきだと。



許せない
許せない
許せない。

あんたはひどい
あんたは悪い
あんたのせい。



小さなことから大きなことまで
日常茶飯事に行われる裁き。

自分と違うものの否定。
それに対する攻撃。



そして、私達が
右手と左手のように

ただ寄り添い
私にはないあなたのもの
あなたにはない私のもの
私からあなたへ
あなたから私へ
行き交わせて

お互いのものがお互いに流れ込み
お互いが同じものを持つようになれば

いや、お互いが同じものを
元々持っていたことを知れば

お互いが同じだと気付き
本当はひとつだと気付き
人はみんなつながるんだ。

私達は、今
その時を迎えようとしてるんだ。

そのために、今まで私達は
自分とは異なる(と感じる)ものを
見続けてきたんだ。

見せられ続けてきたんだ。

両極を見せられ
与えられることにより

そこで体験したこと、感じたこと
そこから生まれる思い
思いから生まれる行動
それらを行き交わせ

それによってつながり

ひとつであることを思い出す
そんな体験をしているんだ。

そう思った。

私は心地よい眠りに落ちていった。



もうすぐ地球の夜が明ける。

おはよう、おはよう、みんな、おはよう。
おはよう、おはよう、私、おはよう。