父が亡くなって
つらくなったけれど、

それは、
父がいなくなって
悲しいからではなかった。

全然違う理由で
胸が苦しくなったり、
泣いたり。



父の死を介して
起こった出来事で
色々な感情があぶり出された。

幼い頃
インプットされたであろう
痛々しいセルフイメージが、

ここぞとばかりに
ぶわーっと吹き出した。



お父さんに嫌われている。

お父さんに許してもらっていない。

お父さんに必要とされていない。



父がいなくなることによって、
それまで何かの
引き金がないと
飛び出してこないそうした想いが、

遠慮なくがっつり
出てきたのだった。

遺影までが
自分をにらんでいるような
気がした。



abuは、私や母やアンナが
何もしなくてもいいように、
影となり日向となり、
常に私達を気遣って動いてくれた。

そんな彼を
親戚のみんなも感じたのだ。

しっかりしてるね、
心配りのできる素晴らしい人だね、
たいしたもんだ、
いい男だ、

親戚はみんなabuを絶賛した。



とてもうれしかった。

私もabuには
言葉では言い表せないほど
感謝しているし、

そのabuの素晴らしさを
みんなが感じてくれたのが
本当にうれしい。

普段は見ることのないabuの姿。
こうした時に
人の本質を見るとは
よく言うけれど、

こんな素晴らしい人が
この世にいたんだ、そ
う思ったほどだ。



でも。



逆に私には、
しっかりしなさいよ、
お母さんを守らなくちゃダメよ、
もっと気を使ってあげなくちゃね、そ
んな言葉が飛んできた。

「お前はダメ」

そう言われているような気がして
無性に泣けてきた。

私は私で頑張ってるんだよ、

葬儀の準備や手続きや打ち合わせ、
色々なこともしたんだよ、
私がしゃんとしてなくちゃって思って
頑張ってるんだよ、

心の中でそう言いながら泣いた。

「誰かほめてよー、
 私をほめてよー、
 よくやってるねってほめてよー」

声なき声でそう叫びながら。



そして、
そんな中冷静に思った。

「なんでお父さんが
 いなくなって寂しいんじゃなくて、
 こんな理由で泣いてるんだろ、
 ヘンなの、ヘンなのー。
 あぶり出しみたいに
 こんな気持ちばっかり出てくる」

頭では、
起こった出来事や言われた言葉が、
まんま私が感じた
意味の通りだとは
思っていない。

けれど、
そうした理解とは
別の場所にある心の叫び。

奥の奥の方まで
かき回して
全部集めたものを
ごっそりと感じたような、

そんな数日だった。



ふと…今、
心の大そうじを
しているのかもしれない、
そんな気がした。

私がずっと
持ち続けてきた痛いもの、

それが、
その原因として
存在していた父を亡くすことにより、

別の形になっていくような、
そんな気が。

そして、
心だけじゃなく、
人間関係、環境、
私達を取り巻く
そんなものすべてが
動いているような、
そんな気が。

父の死と、
それを介して
起こった出来事を通して、

私と私の家族は、
自分達が好きで
心地よいものだけを
自分達の世界に
取り入れる選択をする
機会も得た。



大そうじ、と言うか、

うーん、

そう、今まであったものが
みんな昇華していくような…

そう、昇華、
その言葉がぴったりだ。

上手く言えないんだけど、
強くそう感じてる。



人の死は
多くの贈り物を
与えてくれると
聞いたことがある。

今まさに
その言葉の通りだと感じている。

体験の中で
つかんだ尊いものだけを残して、
父はみんな空に
持っていってくれる。

お父さん、
ありがとうね。

ありがとう、
本当にありがとう。



でも、私、う
んと踏ん張ったんだよ。

本当は今もほめてほしい。

お父さん、
恵美はよくできましたか?
誰もほめてくれなかったんだ。

だから、
恵美は自分で自分をほめてるよ。

「よくやったね、偉かったね」

って。

お父さんも
空の上からほめてください。