風がまた強く吹いてきたと、思うと、突然、地響きをし始め、なにか巨大なものが、プロメテウスの方にやってくるのを彼は感じた。
「驕れるものよ。主なるあの方に比べて、小さきものよ。
あの方を不完全なもの呼ばわりする、貴方は、けっして主なるものの罰から解き放たれることはできないであろう。
貴方は永遠に苦しまなければならない。それは、貴方自身が選んだことなのだから。
その苦しみから解放されるには、ただ貴方があの方を苦しめているものをあの方に返すことだけである。」
「異形のものよ。貴方は、主なるものの邪悪さが生み出した怪物である。
理性ではなく、ただ権力だけを拠り所にして、力づくでことを成し遂げようとする。
貴方の名は、ケンタウロス。
力づくで、ことを成し遂げるために、主なるものが、強引に自然の摂理を曲げて作り出したのである。」
「よくわかっているな。人類の絆であるものよ。
理屈など糞くらえだ。
大事なのは、主なるものと自身がどういう関係を結んでいるかだけである。
主なるものに反するものはみな悪であり、主なるものにかなっているものはみな善なのである。
それだけである。
貴方がどんなに理屈をひねくり回そうとしても、そんなのはただの屁理屈である。
さあ、主なるものの前に屈しろ。そして、主なるものを無謀にも陥れている、貴方の企みを放棄しろ。
それが、今貴方が受けている苦しみから解き放たれる唯一の選択である。」
プロメテウス、薄ら笑いを浮かべて、
「なんという頭の悪さであろう。そんなことで、わたしが屈するとでも思っているのであろうか。
そして、わたしが主なるものに屈することなどありえないことが、いぜん、分かっていないことに、呆れてものが言えない。
屈するのは、主なるあの方の方である。
主なるあの方は、わたしに屈することで、救われるのである。
あの方に伝えて欲しい。
わたしは、貴方を苦しめるために、ここでこうして苦しみに耐えているのではない。
貴方を救うために、ここで貴方から受けた罰に耐えているのである、と。」
「貴方は、自分がどんなに愚かなことをしているのかが分かっていない。
だからこそ、ここに繋がれているのである。
おお、そろそろ、貴方のお相手がやってきたぞ。」
ハゲワシが現れる。
「これから、主なるものが、貴方に対して行う処刑が行われるのだ。
貴方は、死の苦しみを受ける。しかし、貴方はそれで死ぬことはできない。
貴方のからだは切り刻まれるが、貴方はなお生きながらえている。
夜がやってきて、貴方のからだは再び、元の状態に戻る。
このことの繰り返しが日々続けられるのである。
さらばだ。」
異形のものはいなくなり、かわって、ハゲワシがプロメテウスの腹の上に乗っかると、主なるものが下した酷い処刑が始まるのであった。
*ケンタウロス 上半身が人間で、下半身が馬。酒を口にするとたちまち酒乱になる健脚で弓にも優れている。