霊たちが去った後、しばらくして、プロメテウスは、大地が引き裂かれるような、大絶叫を聞いた。
まさに死なんとする際の断末魔の声か、それとも、難産で苦しみ喘ぐ妊婦が思わず発した声なのだろうか。
いつまでも声の主は現れない。ただ、悲痛な悲しみの声だけが、大地にこだましているのである。
「わたしは知っている。
貴方は、いつの世にも、人の死を悼んでいた。
貴方の名は、バンシー。
泣き女として、葬列に混じっていたのは、貴方の分身である。
わたしたちは、貴方とともに悲しみ、涙を流すことで、悲しみの辛さから解き放たれることができたのである。
しかし、わたしたちが憂いに沈み、悲しみ嘆いているとき、貴方は、わたしたちの悲しみを通して、自身であるものを生きるのである。
そうして、ときに、貴方は、悲しみが足りなくなると、わたしたちにさらに悲しみをもたらそうと図ってきたのである。
すなわち、目には目を、歯には歯を、というように、貴方は、わたしたちの心の痛みを利用して、わたしたちに打撃を与えたものたちに対する憎しみを募らさせると、
わたしたちは、わたしたちに悲しみをもたらした相手に対して、
わたしたちが受けたよりもさらに辛い悲しみを、与えずにはおかないのである。
悲しみはさらなる悲しみを生む。
わたしたちの悲しみはそこでとどまらず、わたしたちと対等なものどうしのあいだに広がっていったのである。
しかし、わたしは、そういう貴方から解き放たれなければならない。
悲しみの麗人よ。
貴方は、もとをただせば、わたしたちの中から出てきたのである。
そうして、わたしたちを超えてわたしたちを生きる、わたしたちの自分として、わたしたちを生きてきたのである。
悲しみを糧として、貴方は、わたしたちを超えてわたしたちを生きるものとなったのである。」
※バンシー 若くして亡くなった娘の仮身で、編み込んだ長い髪に蒼白い顔で、目は泣き腫らして真っ赤に充血しており、この世の絶叫を集めたような泣き声を上げるという。