「行ってしまった。魔性のものよ。
あれは、自分を超えて自分を生きるものから乗っ取られた、からだである。
だが、なお自身と対等なものと互いに生き合う自身のからだの記憶を持っていて、
再び自身と対等なものと互いに生き合う自身のからだを取り戻そうとする、からだである。
貴方は自身、そのことに気がついていて、互いに対等な自身のからだを必死で取り戻そうとしているのである。
しかし、貴方が戦うべきは、わたしではなく、貴方を互いに対等なものどうしから引き離した、
自身と対等なものをもたない、貴方の主である。
貴方は、自身を超えて自身を生きる、貴方の自分である、主なるものと戦い、
互いに対等なものを持つ、自身の本来のからだを取り戻すべきである。」
そこに、朝の光の玉たちが陽気にやってきた。
「プロメーテーウス。わたしたちは、貴方を助けに来たのです。
すなわち、互いに対等なからだであるものから引き離された、貴方のからだであるものを、互いに対等なからだであるものの中で、再び息づかれるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「強くあるもの」を生き、
互いに対等な耳であるものから引き離された、貴方の耳であるものを、互いに対等な耳であるものの中で、再び導かれ、育まれるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「聡くあるもの」を生き、
互いに対等な脚であるものから引き離された、貴方の脚であるものを、互いに対等な脚であるものの中で、再び創造され、在らされるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「とらわれなくあるもの」を生き、
互いに対等な肩であるものから引き離された、貴方の肩であるものを、互いに対等な肩であるものの中で、再び満ち足らされるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「豊かくあるもの」を生き、
互いに対等な背であるものから引き離された、貴方の背であるものを、互いに対等な背であるものの中で、再びかばわれるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「貴くあるもの」を生き、
互いに対等な肉身であるものから引き離された、貴方の肉身であるものを、互いに対等な肉身であるものの中で、再び支え持たれるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「重くあるもの」を生き、
互いに対等な目であるものから引き離された、貴方の目であるものを、互いに対等な目であるものの中で、再び味わわれるようにすることを通して、わたしたちは、貴方の互いに対等な「広くあるもの」を生きるのである。」
「わたしは、貴方たちが誰かを知っている。
船が難破したときに、船乗りたちを救いだし、岸辺に運ぶ海の精霊ネレイドたちである。
貴方たちは、このコーカサスの岩山で遭難したものを助けにきたのである。
だが、貴方がたは、わたしを助け出す必要はない。
わたしは、なお、ここで耐えていようと思う。
わたしを繋いだ当の人が、自らわたしを縛めから解き放つときまでは。
その時が必ず来ると、わたしは確信している。
ありがとう。わたしを助け出そうという、貴方がたの心をいついつまでも忘れまい。さようなら、心美しいものたち。」
明るい朝の光たちは、なんどとプロメテウスを説得しようとするが、彼の意思を変えることはできないと、いよいよわかると、静かにプロメテウスの前を立ち去っていった。
「行ってしまった。親切なものたちよ。
わたしが、ここに耐えていることの意味を教えてくれた。
わたしは、助け出されてはならないのである。
わたしをここに縛ったものがそのしたことを反省し、自らわたしを解き放つときが来るまで、わたしはここで耐えていなければならないのである。」
すると、こんどは、憂いのものたちが、彼のもとに訪れた。
「わたしたちは、貴方を、自身と対等なものたちから引き離し、ここに縛り続けるものである。
すなわち、貴方のからだを貴方のからだと対等なからだであるものから、あらかじめ分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「強くあるもの」を生き、
貴方の耳を貴方の耳と対等な耳であるものから、高く分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「聡くあるもの」を生き、
貴方の脚を貴方の脚と対等な脚であるものから、限られなく分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「とらわれなくあるもの」を生き、
貴方の肩を貴方の肩と対等な肩であるものから、深く分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「豊かくあるもの」を生き、
貴方の背を貴方の背と対等な背であるものから、固く分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「貴くあるもの」を生き、
貴方の肉身を貴方の肉身と対等な肉身であるものから、一に分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「重くあるもの」を生き、
貴方の目を貴方の目と対等な目であるものから、あまねく分かつことを通して、わたしたちは貴方の特別「広くあるもの」を生きるのである。」
「わたしは、貴方がたをよく知っている。
意気揚々としていたわたしをここに難破させ、この岩山に繋いだものである。
貴方がたは、現世の命を妬み、その命をむさぼり食らおうとする、海の魔性セイレーンたちである。
だが、わたしは、もう一つ、別のことを言おう。
わたしを助け出そうとするネレイドたちと、貶めようとするセイレーンたちとは、じつは同じ一つのものなのである。
海の精霊がまったく相異なる状況のなかで、別々に現れたものに過ぎないのである。
それは、相異なる二つのものが、誰にもあることの証左なのだ。
じつは、わたしを助け出そうとしたネレイドも、わたしを貶めようとするセイレーンも、わたしを超えてわたしを生きる、わたしの自分であるものが、わたしに仕向けたものたちだったのである。」
※ネレイド 複数形はネレイデス。永遠の生命をもつ海の精霊で、人間には危害を加えず、幾多の英雄を助けてきた。
セイレーン 半人半魚の姿で、シチリア近海の小島を住処とし、歌を聞かせることで船乗りを錯乱させ、自ら海に飛び込ませると、そのからだを食うという。