プロメテウス 第5回 愛と憎しみの精霊(ウンディーネ) | 同胞たる、おっとりとした頬を求めて!

同胞たる、おっとりとした頬を求めて!

世界とは、貴方について書かれた書物である。

 朝が完全に明けるに従って、大地の上に白く光っていたモヤのようなものたちは、大地を隈なく照らし出す朝の光と一つになった。


 「魂を持たない、光の天使たちが行ってしまった。


 あの清らかなものたちは、来る日も来る日も、自分をもつことなく、ただ太陽の主人のために、もくもくと身を粉にして働いているのだ。」



 それから間もなく、朝の潤おかな風が朝露をともなって、人類の恩人プロメテウスのからだの上に舞い降りた。


 足を手を腹から胸をそれはなぶると、大地に繋がれた彼の面を両手でかかえるようにして、うら若く美しい少女が彼の面前にあらわれると、彼を深く慈しむやさしく眼差しで見据えたのであった。


 「プロメーテーウス! 愛しい人。

 わたしはどんなに貴方を愛していることでしょう。

 貴方もまた、わたしをどんなにか愛していることでしょう。

 そのことを、愛しい人よ、忘れたのですか。


 貴方はわたしのからだ。

 貴方は、わたしからあらかじめ息づかれることで、貴方のより強くなるものを生きるのです。

 貴方はわたしの血。

 わたしもまた、貴方からあらかじめ息づかれることで、わたしのより強くあるものを生きるのです。


 貴方はわたしの耳。

 貴方は、わたしから高く導かれ、育まれることで、貴方のより聡くなるものを生きるのです。

 貴方はわたしの胸。

 わたしもまた、貴方から高く導かれ、育まれることで、わたしのより聡くあるものを生きるのです。



 貴方はわたしの脚。 

 貴方は、わたしから限られなく創造され、在らされることで、貴方のよりとらわれなくあるものを生きるのです。

 貴方はわたしの腕。

 わたしもまた、貴方から限られなく創造され、在らされることで、わたしのよりとらわれなくあるものを生きるのです。



 貴方はわたしの肩。

 貴方は、わたしから深く満ち足らされることで、貴方のより豊かくあるものを生きるのです。

 貴方はわたしの内腑。

 わたしもまた、貴方から深く満ち足らされることで、わたしのより豊かくあるものを生きるのです。



 貴方はわたしの背。

 貴方は、わたしから固くかばわれることで、貴方のより貴くあるものを生きるのです。

 貴方はわたしの皮膚。

 わたしもまた、貴方から固くかばわれることで、わたしのより貴くあるものを生きるのです。



 貴方はわたしの肉身。

 貴方は、わたしから一に支え持たれることで、貴方のより重くあるものを生きるのです。

 貴方はわたしの骨。

 わたしもまた、貴方から一に支え持たれることで、わたしのより重くあるものを生きるのです。



 貴方はわたしの目。

 貴方は、わたしからあまねく味わわれることで、貴方のより広くあるものを生きるのです。

 貴方はわたしの舌。

 わたしもまた、貴方からあまねく味わわれることで、わたしのより広くあるものを生きるのです。



 わたしは貴方によって生き、貴方はわたしによって生きるさだめなのです。

 それだのに、貴方は、どうしてこのようなところに繋がれているのですか。


 さあ、もう意地など張らずに、貴方が知っている秘密を打ち明け、主なるあの方を救って、わたしたちのもとに帰ってきてください。」


 嘆息して、プロメテウスは答えた。


 「わたしの愛しい妹よ。


 かつてわたしが愛し、今も愛し、未来も愛するものよ。


 わたしは、どうしても譲ることができないことがある。


 それは、誇りだ。


 わたしは、その誇りを、わたしが火を与えた人類のために残したいと思う。


 どのような過酷なことがあっても、けっしてくじけない力。


 それは、誇りである。


 誇りこそ、力だ。


 わたしは、いま、こうして岩山に繋がれているのに耐えることができるのは、誇りがあるからである。


 誇りを持つことができなものこそ、哀れである。


 わたしをこの岩山に繋いだ、あの方こそ、まさにその当事者である。


 主なるあの方が、自身の過ちをきっぱりと認め、人類を愛すようになることこそ、あの方自身が救われることなのである。


 あの方が、自身の誇りを持つまでは、あの方を奈落に突き落とすことになる秘密を明かすことはできないであろう。


 わたしの妹よ、わたしの愛する人よ。


 貴方の名を告げよう。


 貴方は、水の精霊ウンディーネと呼ばれたものである。


 だがそれは貴方の本当の姿を知らないものたちがそう信じ込んでいるのに過ぎない。


 貴方の真の姿は、現世を愛し、現世に自身の生を残しておこうとするものの魂である。


 人を愛するとき、貴方はウンディーネとして現世を愛し、現世に自身の生の証を残そうとするが、やがて現世を憎み、現世の命を滅ぼそうとするレイミアとなる。」


 「プロメーテーウス。プロメーテーウス。


 貴方は、わたしの苦しみの源。


 わたしは、わたしの苦しみの源である、貴方を損なうことを通して、わたしのあるべきものを生きるのである。


 貴方は、わたしからあらかじめ息づかれないために、貴方の弱くあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方の弱くあるものを生きることで、わたしは、貴方に対するあらかじめなる愛を生きることができるのである。


 貴方は、わたしから高く導かれ、育まれないために、貴方のうとくあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方のうとくあるものを生きることで、わたしは、貴方に対する高き愛を生きることができるのである。


 貴方は、わたしから限られなく創造されず、在らされないために、貴方のとらわれてあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方のとらわれてあるものを生きることで、わたしは、貴方に対する限られなき愛を生きることができるのである。


 貴方は、わたしから深く満ち足らされないために、貴方の貧しくあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方の貧しくあるものを生きることで、わたしは、貴方に対する深き愛を生きることができるのである。


 貴方は、わたしから固くかばわれないために、貴方のいやしくあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方のいやしくあるものを生きることで、わたしは、貴方に対する堅固なる愛を生きることができるのである。


 貴方は、わたしから一に支え持たれないために、貴方の軽くあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方の軽くあるものを生きることで、わたしは、貴方に対する一なる愛を生きることができるのである。


 貴方は、わたしからあまねく味わわれないために、貴方の狭くあるものを生きなければならない。

 貴方が貴方の狭くあるものを生きることで、わたしは、貴方に対するあまねき愛を生きることができるのである。」



 「悲しみの麗人よ。


 貴方にそのような行動をとらせる貴方の運命を恨む。


 わたしは、貴方の悲しい運命のためにどんなに損なわれても構わない。


 わたしは、立派に耐えよう。


 それこそが、わたしに対する貴方の愛へのお返しだと信じるからである。」



 そうして、プロメテウスを濡らした精霊は、彼のからだから離れていった。



 「去っていった。


 去っていった。


 かつて愛したもので、今も愛し、未来もまた愛するものよ。


 わたしは信じる。


 貴方の心が再び、わたしのところに戻ってくることを。


 なぜなら、貴方には、憎しみよりも、愛することの方がふさわしいからである。」


 
※ウンディーネは水の精霊。川や草木などさまざまなものに宿り、水を司る女神で、人間の男性と結ばれると魂を得ることができ、また子どもを作ることもできるが、裏切った男性には死の報いがある。

レイミア、またはラミアは、顔、胸、腕は女性で、下半身が蛇の、半人半蛇の怪物。美貌の持ち主だったが、自分の子をすべて殺されてしまうと、子どもたちを食べる怪物に変身してしまった。