ペテロというのは「岩」を意味する、イエスから与えられた名で、元の名はシモンといいました。
つまり、奇しくも、彼が対決する偉大なるシモン、シモン・マグスと同じ名だったわけで、この二人の間にはなにか強い因縁というものを感じます。
今回は、ペテロを「あなた」と読み替えて、シモン・マグスという存在がいかに教団にとって恐ろしい存在であり、彼を抹殺しようと躍起になったかを見ていこうと思います。
あなたが指導する教団では、組織的捏造ということはごく自然に行われていたのではないかと思います。
使徒行伝のつぎのようなエピソードからもそのことが伺えます。
使徒行伝では、あなたのライバルであるシモンが、あなたの魔術の力を金で買おうとした(なんとか不名誉なことを相手に付け加えようとしているのがよく分かります。)とか、あなたとシモンとが魔術競べをして、空を舞い上がるシモンをあなたが祈りによって墜落死させた(強い殺意を感じますね。ほんとうに憎かったのに違いありません。)というようなことが、まことしやかに書かれています。
ところで、あなたとシモンとが、ともに魔術を使い、互いに争うというのは、どうも現実離れしているというか、人間離れしていて、とても奇異に感じられます。
魔術というと、なにか人間の能力を超えた力を持つようなイメージを持ちますが、じっさいは心を変容させる力を、総じてそのように呼んでいたのではなかったか。
マタイによる福音書には、イエスの教えを広めるためにあなたを含めた十二人の弟子に魔術を授けたということが書かれています。
そこのところは、「新しきイエス」で書いているので、あらためてここでは述べません。
師洗礼ヨハネが捕らえられ斬首されたあと、魔術を習得したと伝えられていますが、シモン・マグスが用いたという魔術が意味するところもまた、心に働きかける、心の変容術だったのではないか、とわたしは見ています。
言葉によって相手の心に魔法をかける。「暗示」といっていいものかもしれません。
それが、魔術本来の姿です。
しかし、あなたは、あなたのライバルを是が非でも打ち負かさなければならない必要から、敵であるあなたのライバルに魔術師の力を与える(いわば敵に塩を送る)ことで、自身もまた、それに伍するべく魔術の力をもつようになった、ということなのだと思います。
ただ、これは、妄想の中でのことです。はっきりいって。
魔術競べという虚構を作り上げることで、あなたとあなたの教団は、否が応でもシモン・マグスに対して勝利しなければならなかったのです。
あなたとあなたの指導する教団からつけられた「魔術師シモン」の名は、その後2000年にもわたる憎悪の対象として、あらゆる魔法使い、魔女たちの首領として、キリスト教徒たちの中で記憶されてきたのでした。
2000年にもわたる憎悪とは、まったくぞっとします。