サマリアのメシア その二 傷ついた母なるもの | 同胞たる、おっとりとした頬を求めて!

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世界とは、貴方について書かれた書物である。

 シモン・マグスが、マグダラのマリアを排除しようとしたペテロの教団に噛み付いたのは、ほかにも理由があります。

 それは、ユダヤの神に対する素朴な疑念です。


 父なる神であるヤーウェは男性神ですが、同時に母なる神、つまり創造神なのです。

 男女具有的な存在だということなのでしょうか。

 同じ神を父と呼んだり、母と呼んだりするのでしょうか。

 これはちょっと考えにくいことです。

 しかし、この考えにくいことを、ユダヤ教はむろんこと、キリスト教さらにはイスラム教でも平気で信じて来ているのです。


 ここからは、シモンと呼ばず、「あなた」と呼びたいと思います。


 グノーシス主義者であるあなたは、これに強い懐疑の念を抱きました。

 これは、本来の神を損なっていることなのではないか。

 グノーシス主義では、創造の神ははっきりと女性の神ということになっていて、父なる神は、その母なる神から「神として」生まれたものだからです。


 あなたは、このことを忠実に現実の世界においても実行しようとしました。

 それは女性に対する礼賛であり、男性は彼女をたたえることで聖なるものとなり、女性は、司祭たる男性によって聖なるものとなる、という互いに補いあう関係です。


 あなたはまた、イエスがマグダラのマリアをそばに置いていたように、ヘレンという聖娼を伴っていました。

 あなたは彼女を「第一思惟」(エンノイア)と呼び、自分がかつて神として顕現したとき、彼女とカを合わせて世界創造を行ったのだということを、あなたの弟子たちの前で言います。


 この言い方が面白い。

 ほんとうに自分をかつて神だったと思って言っているとは、思えないからです。

 うそも方便の類なのではないでしょうか。

 なぜなら、自分がかつて神だったときとかいうことは、まったくどうでもいいことです。

 重要なことは、ヘレンという女性を称揚することなのです。

 マグダラのマリアと同様、彼女もまた、後ろ暗いところを持った女性だったのです。

 しかし、あなたは、彼女を聖なる女性と、みんなの前でたたえることで、彼女をがんじがらめにしている鎖を断ち切ったのです。

 ここがとてもすごいところです。

 あなたがみんなの前でそういわなければ、彼女は罪深い存在のままだったはずです。

 その意味で、あなたはイエスがしたことをしたのです。


 あなたは、自分をイエスの後継者であると言ったとも伝えられています。

 しかし、その言葉の真意とは、イエスがしていたこと、またしようとしたこととは、自分が今まさにしていることだ、という意味なのではなかったでしょうか。

 イエスが行ったように、彼もまた、互いに対等なものどうしをより生き合おうとしたのです。


 あなたがヘレンを通して目指したこと、それは、本来の母なる神の復権です。

 地上の神なるヘレンを通して、父なる神が支配する世界によって傷ついた母なる神を回復させようとする試みなのです。