何度見ても、笑いがこぼれる。
猫?の顔が、いじわるじゃない。
指示の言葉だけでなく、ユーモラスなイラストを添えてくれていることに、あたたかさを感じる。
若い職員さんなのだろうか。

「座っといてください」って(笑)

父がお手数をかけています。
お世話になり、感謝しています。
ありがとうございます。

(本文より)

◆問題行動、エスカレート!
◆OH! センシティブ!
◆投薬以外の対処について
◆三つ目の施設
◆「座っといて下さい」


*********


◆問題行動、エスカレート!

思いがけず、空きが出て、延長が重なり、3週間のショート(ロング?)ステイが叶った父。
今後、ショートステイの利用を増やしながら、施設入所も視野に入れて…… などと考えていたら、ショートステイ施設のマネージャー的なかたから、父の【問題行動】(女性の職員に、不適切な発言を繰り返し、怖がらせていること。発言は性的なことに限らず、自分の強さを誇示するような、暴力的な言動もみられること)についての報告があり、恥ずかしいやら情けないやら腹が立つやら。

9月以降の利用については検討中とのことで、利用できるかどうかがわからないまま、3週間ぶりに帰還した父は、私のことは思い出したものの、家のことを忘れてしまい、「わしは帰るから」と言って、中に入ろうとしない。

「ごはんができているよ。ビール(ノンアルコール)があるよ」という誘いに乗って、ようやく中に入った父は、父の部屋の入口に立つや、「わしは寝る」と、いちもくさんにベッドへ。
父のベッド。父の布団。父の枕。横になった父は、すっぽり包み込まれ、それを見たときに、「大丈夫だ」と感じた。
事実、父は家の中のことを思い出し、自分の椅子に座って、ごはんを食べ、トイレに行き、濡れた廊下をタオルで拭き散らかし、タンスを開けて、着替えていた。

家で2日間すごし、3日目の朝(土曜)、ショートステイへ。

問題行動がおさまればいいのにと、祈る思いでいたのに、月曜日の午後に電話が鳴る。
ケアマネージャーのOさんからだ。

父は、昼間は大丈夫だけど、夜間になると、女性職員の手を握ったり、手を引っ張って、ベッドに連れ込もうとするので、施設から、もう一か所、別のショートステイ施設と契約し、利用回数を調整してほしいと言われたとのこと。心当たりの施設があるので、あたってみると言ってくださり、電話終了。

初めて、この問題が起きたとき、「ベッドに連れ込まれたわけじゃないでしょ? って言ってやったのよ」と、頼もしく言ってくれたOさんだったけれど、もはや父の行動はエスカレートし、【連れ込もうとしている】ことがわかり、(なんなんだ、これは)と、複雑な気持ちになる。

(父としての父の人格や、存在、尊厳などは侵されるものではないが、父の行動は、クソ)

特定の女性職員に対して行われているならともかく、女性なら誰でも…… ということになると、どこの施設でも言われることは同じで、長期利用は望めない。
施設に入所することもできない。

 



◆OH! センシティブ!

しばらくして、再び電話が鳴る。

Oさんが見つけてくれた2つ目の施設に経緯を伝えたところ、「そういう問題は、うちもセンシティブで……」と難色を示され、体験入所で様子を見させてほしいと言われたとのこと。

(センシティブ!)

英語で表現して、オブラートに包んでいるのだろうか。
ニュアンスは、高齢者の性的逸脱行為については、施設にとっても(職員にとっても)神経質になっていて、慎重に対応している問題ということだろう。
契約と体験利用の日程が決まったら連絡するとのこと。

「それって、体験して、父の行為が、施設の許容範囲を超えたら、断られるということですか? それだったら、どこの施設もダメなんじゃないですか……」

父の女性職員に対する問題行動がわかったとき、対処法や解決策があるか(よい薬とか)、症状の経過(どのくらいでおさまるかなど)を調べた。

5月下旬から飲み始めた、パーキンソン症状に対して処方された薬の副作用かどうかは、すぐに調べた。代表的な副作用ではないけれど、性的興奮という副作用も、書かれていた。

父が認知症になったばかりの頃(8年ほど前)は、なんとか方法があるのではないか、少しでもよい治療があるのではないかと、受け入れることを含めて、あがいていたので、薬についても、治療についても、介護についても、何冊も本を読んだし、研修にも行った。
でも、鑑別診断をしていただき、診断名が出て、治療方針と介護の環境が決まると、あとは、惰性のような日々が流れていく。
そして、問題行動が起こると、主治医に状況を伝え、それに対処する薬が増える。

今回のことで、あらためて、父が認知症を発症してから服用している薬と、それよりもずっと前から服用している高血圧の薬などの基本情報を調べてみた。

それぞれの薬の薬効と副作用に拮抗するものがあり、

(せっかく飲んでいるのに、打ち消し合ってしまっていたら、なんのために飲んでいるのかわからない)

という気持ちになる。
もちろん、副作用は出ていない場合のほうが多いので、様子を見ながら、薬を調整していくのだと思うけれど。

父は、当初、デイサービスのかたも、ケアマネさんも、私も「ピック病(前頭側頭型認知症)」だと思っていたくらい、感情や行動のコントロールが難しく、暴言・暴力の症状が起こると、警察を呼びたいくらいだったので、それを軽減してくれた、主治医の処方には感謝している。

一見、拮抗しあうように思えたり、症状に適応していないと思われても、薬の効き方や、副作用の出方は、ひとりひとり違っているし、臨む効果が得られるばかりではないこともわかる。
列挙された副作用を眺めていると、どの薬も、飲まないほうがいいのではないかと、思うくらいだ。

だけど、いまでも定期的に起こる、別人格が現れたような過激な父は、身の危険を感じるくらい怖い。
立とうとして立てない姿や、足をあげようとして上がらない姿、動こうとして固まっている父を目の当たりにすると、パーキンソン症状の疑いを感じ、進行を止めたいと切望する。
頼みの綱は、薬しかない。

(その結果、副作用があらわれるとしたら、対処法はあるのか?)
(不適切な行為・行動そのものを抑える薬はあるのか?)


次の受診日に、主治医に相談するつもりだ。

 



◆投薬以外の対処について

〈認知症・高齢者・性的逸脱行為〉などのキーワードで検索すると、専門家の学術的な見解から、介護施設などの現場の具体的な対応の例まで、多種多様な症例を読むことができる。

介護者の立場も、配偶者や、お子さん、お嫁さん、施設職員、看護師さんなど、さまざまだ。
こんなことが本当にあるのだろうかとびっくりするようなことや、いくら病気でも対処できないと思えることも。

また、介護者が「配偶者」の場合、被介護者の性的逸脱行為は、かなりなところまで「逃げ場がない」様子も伝わってくる。

父の施設職員に対する「問題行動」は、いったい何に起因するのだろう?

小柄な女性職員に対してということを聞いて、すぐに思い当たるのは、〈母と間違えている?〉ということだ。

すっかり忘れていたけれど、私がとりあえず、実家に泊りに行くようになった最初のきっかけは、このことだった。
「骨髄異形成症候群」という血液の病気で、化学療法中の母に、突然、父が、そのことを強要し始めるようになったというのだ。父は80歳で、母は77歳

そんなことを母から言われても、嫌悪感しかない。
そのようなことを、娘の私に言わないでほしいと思ったけれど、よく聞いてみると、父のしていることは、あまりにも異常だった。そもそも、母が病気だということを忘れている。その上、母が不倫をしているという妄想に取りつかれて、暴言暴力に及んでいるという。でも、半信半疑だった。

ある日、電話に出ると、いきなり、バイオレンスドラマのセリフのような恐ろしい声が聴こえてきた。
テレビがついているのかと思ったのだけど、よくよく聞いてみると、父?
母が、現状を知らせようとして、電話をかけた状態にして、実況中継をしてきたのだ。

現実に起こっていることとは思えず、信じられない思いで、受話器の向こうに耳を傾けていると、聞いたことのないような卑猥な言葉が、ありもしない不倫疑惑や売春疑惑を、ねちねちと並べ立て、母を辱めている。

何かが憑依したとしか思えない声色と内容に驚き、これが、いつ襲ってくるかわからない状況では、母の心身が持たないことが伺えた。

このことから、認知症を疑い、なんとか父をなだめすかして、診断を受けるとともに、地域包括センターに相談に行き、介護認定を受け、母が父と離れて安全に療養できるよう、昼間はデイサービスの手続きをして、夜は抑止力として、私が泊まりに行くようになったのだった。

今、思い返すと、この頃の父は、認知症としての症状(……物忘れをする、頭の中が壊れていく感じ、漠然とした不安、恐怖)などを自覚しはじめていて、その気持ちの行き場がなく、代償として、自分よりも弱い立場の母を支配し、君臨するという欲求が顕れたのではないだろうか。

または、甘えたいとか、守られたいとか、そういう気持ちがあり、拒否されることで、自分が否定され、見捨てられたという感情や、抑えきれない不安が、妄想や暴言・暴力行為に繋がるのだろうか。

父の介護をしていて、感じているのは、とにかく「承認欲求」が強いこと。

(ほめて欲しがる。認めてほしがる)

デイサービスで作った作品を持ち帰るたび、どれだけ自分が上手にできて、どれだけみんながほめてくれたかということを、何度も繰り返し、聞かされる。
うっとうしくてたまらない時もあるけれど、ほめほめにほめまくる。

認知症が進み、身体の自由が利かなくなり、感情の抑制ができなくなって、顕れてくるのが、むきだしの感情だとしたら、父が求めているのは、「自分を見て」であり、「認めてほしい」であり、「かまってちゃん」ではないだろうか。

(誰に、かまってほしいのか?)

満たされたことがないのだと思う。
父は、9人きょうだいの6番目で3男。母親は、父が9歳ごろに亡くなっている。
母親が亡くなったときに17歳だった長女が、母親がわりに、弟妹を育てたとのことで、父は母親との関係性が薄い。
だから、父の中で、満たされることのない「飢餓状態」があり、それを求める衝動があふれだしたとしても、おかしくないと思う。

父が満たされたいのは、「肉体的」なものではなく、「心理的」なもので、おそらく「子ども」の感情なのだろう。
だけど、今、それを表現すると、身体も大きく、年齢も高く、「大人の男性」の行為行動になり、そのやりかたは許されない。

(心が満たされること)

施設での生活の中で、職員のみなさまから、ささいなことをほめていただけたり、できることをお手伝いさせていただけて、必要だと感じさせていただけたり、そんなことの積み重ねで、父が渇望しているものを、埋めていただけたらと願う。

とりあえず、上記のことを、ケアマネージャーのOさんに伝えて、今、利用している施設にも、これから契約をする施設にも、伝えていただくよう、お願いした。

父の母親……祖母の命日は、7月23日だ。
もうすぐだということに、意味を感じている。
会ったことのないおばあちゃん。かまってちゃんの父の心にハグを。

 



◆三つ目の施設

Oさんから、朝から3度目のコール。

「そういう問題は、うちもセンシティブで……」と難色を示され、体験入所で様子を見させてほしいと言われたと施設の、契約手続きと体験入所の日が決まったのだと思い、電話に出ると、

「別のところが見つかりました! 女性職員に対する行動のことを伝えたら、“利用者さんは、そんな人ばかりだから、職員は、みんな慣れているので、大丈夫。対処します”と言ってくれたから、こちらの施設にしましょう! 頼もしいわ」

とのことで、どこにある、どんな施設かもわからないのに、体験入所をすることに決定。
契約日については、また後日連絡がある。
父が、この3つめの施設に馴染んでくれるかどうかはわからないけれど、今後は、今、お世話になっている1つ目の施設と、これから契約する3つ目の施設でのショートステイと、自宅と、デイサービス。
4つの環境で生活することになる。

父の問題行動は、私や家族に対するサイン(父なりの抵抗)でもあるのだろう、と思う。

問題が起きたから、
(父を思い、父のことを考え、父のことを話し、父のことに関わる)
問題が起きなかったら、1日のうちで、合計しても数分くらいしか、思い出していないかも。

(施設に入所して、問題が起きず、穏やかな日が約束されたら、私は、面会に行くだろうか)

◆「座っといて下さい」

自宅で3日過ごし、ショートステイに送り出したあと、布団を干そうと思い、父の部屋に行くと、4つに折りたたんだ紙片が落ちているのを見つけた。

開いてみると……

 



ユーモラスな猫?が、大きな吹き出しで「座っといて下さい」と、にっこり微笑んでいる。
思わず、苦笑い。

父は、きっと、じっと座っていないといけない場所から、勝手に立ち上がって、動こうとするのだろう。
父は、足元がおぼつかなく、自立歩行は難しくなっていて、転倒の危険があり、歩行時は、だれかがついていなくてはならない。

だけど、職員は、常に複数の利用者さんのお世話をしていて、父のそばにずっといることはできないから、1人で、座っていなければいけないこともあるだろう。

認知症だから、座って待っていてと言われれば、「わかった」と返事はするけれど、すぐに忘れて、立ちあがってしまう。
メモを持っていたら、それを見て、待っていることができる。
動きたくなるたびに、猫の言葉を見て、おとなしく座っている父の姿が浮かぶ。


自宅も、「貼り紙」だらけだ。
必要に応じて、父が目につくところすべてに、何枚も貼る。

「○時に車が迎えに来るので玄関で待ちます」
「今日は日曜日なのでお休みです」
「ふたを開けて、おしっこをします」
「これは、手すりです」


どの機能が損なわれていくかは、ひとりひとり違い、主治医にもわからない。
父は耳が遠いので、字が読めなくなったら、コミュニケーションがとれなくなる。
字が読めることが、本当に救いだ。

何度見ても、笑いがこぼれる。猫?の顔が、いじわるじゃない。
指示の言葉だけでなく、ユーモラスなイラストを添えてくれていることに、あたたかさを感じる。
若い職員さんなのだろうか。

「座っといてください」って(笑)

父がお手数をかけています。
お世話になり、感謝しています。
ありがとうございます。

浜田えみな

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