認知症の父がデイサービスから帰宅後、庭先の石段から転んで、ケガをする事態が起きたため、介護保険の住宅改修費の限度内で、玄関から石段まで、手すりをつけることになった。
その際、急に足腰が弱ってきた父の今後のことを考え、ベッドからの寝起きや、寝室からトイレ、玄関までの導線にも、手すりが必要ということになり、こちらは、レンタルで様子を見ることに。
本日、業者より見積書を受領。
本来であれば、何社かに見積依頼をして、比較検討し、価格交渉などをするのかもしれないけれど、よくわからないし、即お願いする。
住宅改修に係る給付申請に必要な書類のうち、「住宅改修承諾書」と、代行申請をしていただくための「委任状」を記入して提出した。
市の承認が下りたら、工事着工だ。だいたい、3週間後とのこと。
「手すりの工事が終わったら、セメントが乾くまで、3日くらいは触らないようにしてくださいね」と、この間は言われなったことを告げられ、
「え! 無理です!!」(無理無理無理無理―――)
いつも座っている、玄関横の椅子の前に、何本も見慣れない支柱が立ち、庭に手すりができていたら、父は絶対さわると思う。
そのことを伝えると、
「まあ、3日といっても、夏場なんで、早く乾くと思うんですよ。1日あれば、大丈夫でしょう」
「…………」
午前中に施行してもらったとしても、父は15時30分には帰宅するので、数時間しか経っていない。
(大丈夫なのだろうか?)
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レンタル手すりは、2種類。ベッドの側面用と、廊下用だ。
廊下用の手すりは、ホテルの部屋などにあるタオル干しか、小さめの布団干しみたいなものに、倒れないよう、錘のタンクをのせている。
ウッディな色調で、タンクカバーも茶色なので、内部の雰囲気に調和しているけれど、父の目には、どう映るだろう。
廊下に見知らぬ物体が置いてあるのを嫌がったり、うまく使えなかった場合は、返却するということで、業者さんは帰っていった。
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デイサービスから帰宅して、玄関を開けた父の第一声。
「なんや、これは」
「おとうさんの手すり♪ こうやって、持って歩いたら、廊下が歩きやすいでしょう?」
(やってみせる)
「…………」(沈黙)
「ほら、おとうさん、持ってみて」(父の手をバーに添える)
「おお、これは、いいな」
「でしょう? 歩きやすいでしょう?」
(やった!)
(やった、やった、いい感じ。使えてるやん!)
安心して、別室で作業をしていると……
「なんや、これは」
寝室にいた父が、廊下に出て、手すりを発見したらしい。
(さっきのことは忘れている!)
「おとうさーん、これ、手すり! 廊下を歩いてたら、ふらふらするやろ。こうやって、持って歩いたら、危なくないやろ?」
「おお、手すりか」
「そうそう。手すり」
「これは、いいな」
「いいでしょう? 使ってね」
そうして、トイレに行った父が、トイレから戻ろうと廊下に出る。
「なんや、これは!」
(しまったー そうやった、覚えられへんのやった)
手すりを見るたびに、「なんや、これは!」と、大声で呼ばれてはかなわないと思い、貼り紙をすることに。
手すりの目につくところに、ベタベタと「手すり」と書いた紙を貼る。
これで、もう大丈夫だと思っていたら、先ほどまでは、気づいていなかったのか、父は、手を伸ばして、手すりの錘に使っている水のタンクのカバーを外そうとしはじめた。
「これは、なんや?」というので、「錘」と答えたけれど、たぶん、なんのことかわかっていないと思う。
「手すりのおもり」という貼り紙を、追加する。
ふと見ると、ベッドの寝起き用の手すりは、父の上着がかけられ、
(ハンガーになってるやん!!)
「おとうさん、これは、手すり。ベッドから起きるときに、こうやって持つのよ。起きやすいでしょう?」
と実演。あと、何回か一緒にやらないと、定着しないだろう。
さて。
夜になると、「手すり」の貼り紙が見えないかもしれないと思い、壁にも大きく貼り紙をした。
「これは、手すり ↓」
夜中に、「なんや、これは!」という絶叫が響くかどうかは、追って、報告します。
明日は、2針縫った口のところの抜糸だ。
先日、父が、神妙な顔で、鏡を見ながら、傷のあたりをさすっていたので、ヒヤリとした。
あわてて、
「おとうさん、ケガして、2針縫ってるから。金曜日に抜歯するから、それまで、さわったらダメ」
と言い聞かせたけど、もしかすると、舌に糸の結び目などがふれて、違和感を感じているのかもしれない。
(勝手に糸を切っていたら、どうしよう……)
先生に抜糸していただくまで、おかしなことになっていませんように。
毎日が、ホラー。
浜田えみな
玄関~庭~石段に手すりをつけるための打ち合わせの顛末



