認知症の父がデイサービスから帰宅後、庭先の石段から転んで、ケガをする事態が起きたため、介護保険の住宅改修費の限度内で、玄関から石段まで、手すりをつけることになった。

その際、急に足腰が弱ってきた父の今後のことを考え、ベッドからの寝起きや、寝室からトイレ、玄関までの導線にも、手すりが必要ということになり、こちらは、レンタルで様子を見ることに。

 

本日、業者より見積書を受領。

本来であれば、何社かに見積依頼をして、比較検討し、価格交渉などをするのかもしれないけれど、よくわからないし、即お願いする。

 

住宅改修に係る給付申請に必要な書類のうち、「住宅改修承諾書」と、代行申請をしていただくための「委任状」を記入して提出した。

市の承認が下りたら、工事着工だ。だいたい、3週間後とのこと。

 

「手すりの工事が終わったら、セメントが乾くまで、3日くらいは触らないようにしてくださいね」と、この間は言われなったことを告げられ、

「え! 無理です!!」(無理無理無理無理―――)

 

いつも座っている、玄関横の椅子の前に、何本も見慣れない支柱が立ち、庭に手すりができていたら、父は絶対さわると思う。

そのことを伝えると、

「まあ、3日といっても、夏場なんで、早く乾くと思うんですよ。1日あれば、大丈夫でしょう」

「…………」

 

午前中に施行してもらったとしても、父は15時30分には帰宅するので、数時間しか経っていない。

 

(大丈夫なのだろうか?)

 

******

 

レンタル手すりは、2種類。ベッドの側面用と、廊下用だ。

廊下用の手すりは、ホテルの部屋などにあるタオル干しか、小さめの布団干しみたいなものに、倒れないよう、錘のタンクをのせている。

ウッディな色調で、タンクカバーも茶色なので、内部の雰囲気に調和しているけれど、父の目には、どう映るだろう。

 

 

廊下に見知らぬ物体が置いてあるのを嫌がったり、うまく使えなかった場合は、返却するということで、業者さんは帰っていった。

 

*****

 

デイサービスから帰宅して、玄関を開けた父の第一声。

 

「なんや、これは」

「おとうさんの手すり♪ こうやって、持って歩いたら、廊下が歩きやすいでしょう?」

(やってみせる)

「…………」(沈黙)

「ほら、おとうさん、持ってみて」(父の手をバーに添える)

「おお、これは、いいな」

「でしょう? 歩きやすいでしょう?」

 

(やった!)

(やった、やった、いい感じ。使えてるやん!)

 

安心して、別室で作業をしていると……

 

「なんや、これは」

 

寝室にいた父が、廊下に出て、手すりを発見したらしい。

(さっきのことは忘れている!)

 

「おとうさーん、これ、手すり! 廊下を歩いてたら、ふらふらするやろ。こうやって、持って歩いたら、危なくないやろ?」

「おお、手すりか」

「そうそう。手すり」

「これは、いいな」

「いいでしょう? 使ってね」

 

そうして、トイレに行った父が、トイレから戻ろうと廊下に出る。

 

「なんや、これは!」

 

(しまったー そうやった、覚えられへんのやった)

 

手すりを見るたびに、「なんや、これは!」と、大声で呼ばれてはかなわないと思い、貼り紙をすることに。

 

 

手すりの目につくところに、ベタベタと「手すり」と書いた紙を貼る。

これで、もう大丈夫だと思っていたら、先ほどまでは、気づいていなかったのか、父は、手を伸ばして、手すりの錘に使っている水のタンクのカバーを外そうとしはじめた。

 

「これは、なんや?」というので、「錘」と答えたけれど、たぶん、なんのことかわかっていないと思う。

「手すりのおもり」という貼り紙を、追加する。

 

ふと見ると、ベッドの寝起き用の手すりは、父の上着がかけられ、

 

(ハンガーになってるやん!!)

 

「おとうさん、これは、手すり。ベッドから起きるときに、こうやって持つのよ。起きやすいでしょう?」

 

と実演。あと、何回か一緒にやらないと、定着しないだろう。

 

さて。

夜になると、「手すり」の貼り紙が見えないかもしれないと思い、壁にも大きく貼り紙をした。

 

「これは、手すり ↓」

 

夜中に、「なんや、これは!」という絶叫が響くかどうかは、追って、報告します。

明日は、2針縫った口のところの抜糸だ。

 

先日、父が、神妙な顔で、鏡を見ながら、傷のあたりをさすっていたので、ヒヤリとした。

あわてて、

 

「おとうさん、ケガして、2針縫ってるから。金曜日に抜歯するから、それまで、さわったらダメ」

 

と言い聞かせたけど、もしかすると、舌に糸の結び目などがふれて、違和感を感じているのかもしれない。

 

(勝手に糸を切っていたら、どうしよう……)

 

先生に抜糸していただくまで、おかしなことになっていませんように。

 

毎日が、ホラー。

 

浜田えみな


玄関~庭~石段に手すりをつけるための打ち合わせの顛末