むすこのたくさんのはじめてを、見守ってくれた広島。
(ありがとうーーー)
(さようならーーー)
21日(土)に広島の荷物をトラックの載せ、22日(日)に東京に転居したむすこは、23日(月)に、(たぶん)東京本社に出社し、26日(水)から3週間、高知県で研修なのだという。
(広島 → 東京 → 高知)
広島から東京に転居し、荷物の整理も終わらないうちに、高知県!
(本文より)
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1月21日(土)の午後、千葉に住む妹から、夜10時ごろ、ラインのビデオ通話をしてもよいかとメッセージがあり、
(お正月に、zoomしたばかりなのに、文字でなく、電話でなく、わざわざ、顔を見て、ビデオ通話で話すことって何?)
と、悪い予感しかしなかったけど、気になるのでスタンバイ。
10時になり、10分がすぎ、いつまでたっても始まらないので、
(私から、かけるんだったっけ?)
と思って、メッセージしたら、いきなり着信。
応答したら……
妹の家のリビングで、こたつに入って、もりもり何かを食べている、むすこの横顔が映っているので、びっくり。
(なんでーーー???)
(東京に転勤するとは聞いていたけど、1月26日だったのでは?)
と、混乱している私に、妹は、サプライズが成功して、得意満面。
聴こえるのかどうかわからないけど、画面の向こうの息子に、叫ぶ。
「T、26日まで広島支社って言ってなかった? もう、東京?」
「ライン送った」
「見てない見てない」
家族ラインを確認すると、午後2時58分に、からっぽのリビングの写真と、「広島を出ます」というコメント。
(あら~~~)
採用が決まって、配属先が広島に決まって、会社の指定の不動産屋さんからリストをもらって、オンラインで内覧をして、住む場所を決め、引っ越しをしたのは、2022年3月。
気胸の手術をして、退院後一週間しか経っていなかったので、重い物がまだ持てず、夫が手伝いに行ったのだった。
むすこが決めたマンションは、広島支社まで、平和公園の中を、気持ちよく自転車で突っ切って、通勤できる距離…… のはずが、契約寸前になって、支社が一年前に移転していて、むすこが思っていた場所ではない、ということに気づくという、信じられなさ。
いったい、どんな調べ方をしたら、移転前の住所が出てくるのだと思うけれど、会社からもらった文書を流し読みして、よく確かめもせず、インターネットで適当に検索すると、そんなこともあるのだろうか? (ないない)
正しい支社の所在地は、むすこの決めたマンションからは、広島駅を超えて反対側で、自転車で行ける距離ではなく、かなり通勤が不便になったようだけど、当時、手術前で、体調が悪く、別の物件を探す気力がなかったむすこは、結局、変更せず。
配属されると、支社の人たちは、ほぼ全員が徒歩圏内に住んでいて、バス通勤はむすこだけだったらしく、しかも新入社員は始業までにやることがあり、7時30分くらいに出社しなくてはならないのに、バスの始発が遅く、ギリギリにしか到着できないため、「どうして、そんな遠いところに住んでいるの?」と、みんなに言われたと言っていた。
会社の場所を間違えていたからだと、言ったのかどうかは聞いていない。
でも、いつだったか、帰省したときに、
「会社の近くに住んでいる同期の家に泊めてもらったけど、休みの日に会社が見えるのは、イヤやって思ったから、オレは、遠くてもあそこでよかった」
と言っていた。
たしかに、休日の部屋の窓から、社屋が見えるのは、イヤかも。
広島市は、一度しか訪れたことがないけれど、空が広く明るく、川は美しく、緑が豊かで、再生のエネルギーにあふれていて、とにかく、心地よくて、そんな土地で、むすこは、会社の人にもあたたかく迎えてもらって、海釣りに連れて行ってもらったり、ゴルフを教えてもらったり、同期の友達(といっても、同じ支社には1名しか配属されていないので、中国地方に配属になった他県の同期)と遊びに行ったり、土地のエネルギーに大きく守られて、社会人としてのスタートを切ることができた。
2年で転勤と聞いていたので、3月ごろだと思っていたのに〈まさかの1月〉で、そのことを年末の帰省で、むすこから聞いた私のほうが、ショックを受けた。
しかも、名残を惜しむまもなく、一度しか訪れたことのない部屋を、気づいたときには退去しているという……。
それにしても、なんだか、なんだか、
(もやもやする!)
なぜ、千葉の妹の家に息子がいるのか?
それは、土曜日に荷物を出して、引っ越しを終え、広島から新幹線に乗り、東京まで行くものの、荷物が東京のマンションに到着するのは、翌朝なので、その日は、寝る場所がない。
それで、妹が、Tを誘ったらしいのだけど、
(なんで、夫も私も知らないことを、Hちゃん(妹の名前)とTがやりとりしてるのーーー???)
妹の家には、昨年、結婚して家を出て、近くに住んでいる甥とお嫁さんも来ていて、ごはんのあとは、みんなでまったり、ごろごろ、すごしたらしい。
むすこは、甥が使っていた部屋に、布団を用意してもらい、翌朝も、おいしそうな朝食を用意してもらい(妹から画像が送られてきた!)、最寄りの駅まで車で送ってもらい、いたれりつくせり。
(ありがとうーーー)
むすこからは、東京のマンションの画像が届く。
(なんと、新築!)
どんなふうに決めたのかは、わからない。
研修後、東京都区内にある3つの支社のいずれかに配属されるので、どこになっても通えるエリアで物件を探すのだと話していた。
私からすると、もっと家賃が安いところでもよかったのでは? とか思うし(やんわり、どのくらい自己負担額が増えたのか尋ねた!)、いくつかの駅が利用できる場所のほうがよかったのでは? とか思うし(口コミで調べたら、通勤電車がめちゃ混みと書いてあった!)、ちゃんと、先輩に聞いたのだろうか? とか思うし(人に尋ねず自分で決めたいタイプ)、会社の住所を間違えて物件を決めたという前例もあるので、いろいろつっこみたくなるけれど、むすこは、とっくに親離れしている。
ひとり暮らしも、初めての土地に住むことも、ぜんぜんイヤじゃないみたいで、ホームシックのかけらもなく、広島にいるときも、休みには、出雲とか山口とか尾道とか、中国地方から足を伸ばせるところに旅行していて、
(こんな子やったんや)
と、夫とびっくり。
そういえば、3歳のときに、勝手に家から出て行って、歩いてすぐのJRの駅まで行って、電車に乗らずにロータリーにいたバスに乗り、到着した私鉄の駅から特急に乗って、終点の駅構内でうろうろしているところを、駅の人に保護されるまで、ニコニコして冒険を楽しんでいた。
一緒に暮らしていると、つい、過干渉になるけれど、ほんとうは、いつだって、誰も入れない世界を生きている。
親の目がまったく届かない場所は、冒険の毎日。
むすこのたくさんのはじめてを、見守ってくれた広島。
(ありがとうーーー)
(さようならーーー)
そして、東京。
むすこから、東京のマンションの住所と、最寄り駅を教えてもらう。
(なんと、西武新宿線!)
(なんと、下落合!)
「西部新宿線」というのは、私が中学2年生の時から大好きな浜田省吾さんとの出逢いの5thアルバム『君が人生の時・・・』に、「恋の西武新宿線」という歌が収録されているので、
(省吾さんが歌にした線!)
と記憶に焼き付いている、特別な路線。
どこをどう走って、どこまで行くのかも知らないけれど、むすこの最寄り駅が、その路線だなんて!
そして、「下落合」
この地名も、私にとって、特別なものだ。
(金山平三さんという、心惹かれる画家がアトリエを構え、スケッチ旅行の拠点となった場所)
下落合は、画家のかたがたくさんアトリエを構えていて、芸術村だったとのことで、金山平三さんのアトリエは、取り壊されて残っていないのだけど、佐伯祐三さんほか、いくつかのアトリエの建物は残っていて、記念館もあり、いつか訪れて、その界隈を歩いてみたいと思っていた、まさに、その場所!
調べてみると、金山平三さんのアトリエのあった場所は、むすこのマンションから徒歩圏内。
佐伯祐三さんのアトリエ記念館も、徒歩圏内。
(なんというご縁!)
というわけで、恋の西武新宿線に乗って、下落合の芸術村の名残を散策する日を夢見ている。
21日(土)に広島の荷物をトラックの載せ、22日(日)に東京に転居したむすこは、23日(月)に、(たぶん)東京本社に出社し、26日(水)から3週間、高知県で研修なのだという。
(広島 → 東京 → 高知)
広島から東京に転居し、荷物の整理も終わらないうちに、高知県!
研修は、東京で行われると思っていた。
高知県なら、広島からのほうが近い。3週間も不在なんて、家賃がもったいない。
東京のマンションは、広島のマンションより狭くて収納も少ないのに、家賃が2倍!
わけがわからん、と思うけれど、「高知」というワードに、湧き立つものがある。
高知の自然にふれ、食べ物を食べ、土地の人々が話す言葉を聴き…… そういう経験ができること。
大阪から出たことがない私にとって、「高知」という地名は、雄大で、力強く、浄く澄んだ、あかるいイメージが広がる。
東京という、人口密度の高い都会で、少なくとも2年間の暮らしが始まる前に、高知の海、山、川、空のエネルギーをチャージできるのは、むすこにとって、すごくよいことだと感じる。
3週間の研修だなんて、いったいどんなことをするのか想像もつかないし、休みの日に遊びに行く余裕もなく、課題に追われるのかもしれないけれど、それでもきっと。
若いって、佳き!
浜田えみな
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