注文した品が目の前に置かれたとき、思わず、声をあげた。

色だけだと思っていたら、とんぼの焼き印が施されていたからだ。

 

(とんぼがいる!)

 

(本文より)

 

******

 

京都御苑の近く、烏丸通から一条通を西に入った、静かで歴史的な町並みの中に、「虎屋菓寮 京都一条店」がある。

寛永5年(1628)より前から、店を構え、御所の御用を勤めてきた場所だという。

 

大きな窓からは、庭が見晴らせ、明るい光がさしこみ、シンプルで品格を感じる空間は、ホテルのロビーラウンジのようだ。

まるでディスプレイのように並ぶ日本文化に関する書籍や、美術書も、自由に手にとり、閲覧できる。

 

茶寮は混んでいることが多いが、ギャラリーが併設されていて、京都や日本文化にちなんだ作品が企画展示されている。

待っている間、そちらを観覧することもできるし、庭に出ることもできる。

庭と一体になったテラス席で、木々や空、風の声を聴きながら茶華をいただくこともできる。

 

メニューを開けると、歳時記に基づいた季節限定の甘味と、いつでもいただける定番の品があり、なかでも、煎茶・抹茶・玉露などとともにいただく「季節の生菓子」は、かたちも色も美しく、菓名に趣がある。

供される期間が短く、次に訪れるときには、もう食べられないと思うので、どれにするか迷いに迷う。

 

この日、私は「夕焼け空」という薯蕷饅頭を選んだ。

シンプルだが、つくね芋の生地を蒸した、上品なしっとり感がたまらない。

職人の魂を映す老舗の粋を味わってみたいと感じ、並べてあるのを遠くから見て、てっぺんに茜色が差してあるのがかわいいと思った。

 

注文した品が目の前に置かれたとき、思わず、声をあげた。

色だけだと思っていたら、とんぼの焼き印が施されていたからだ。

 

(とんぼがいる!)

 

 

夕焼け空に舞う赤とんぼ。

その光景が脳裏に広がる。

 

さらに、黒文字をさしいれると、中から現れたのは、美しい「茜色の餡」

しっとりとやわらかな白い皮の中に広がっている茜空を見た瞬間、頭の中にイメージされている茜空が、胸までおりてきて、いっぱいにひろがり、あふれだし、たちまち夕焼け空の真ん中に立っているような体感に包み込まれる。

 

(その魔法のような感覚)

 

さらに、お膳には、「菓子の名前」と「メッセージ」をしたためた短冊が添えられていて、よく見ると、メッセージのほうは、「手描き」の文字だ。

目を近づけると、インクの濃淡、線のゆらぎ、肉筆ならではの。立体感。

書かれている内容も、ひとりひとり違っていて、空から舞い降りる手紙のようだ。

 

 

煎茶は、お湯と、茶葉を入れた急須と、こぶりの茶碗がセットになっている。

急須の蓋を開けると、若々しく匂い経つような茶葉が、器の中に輝いていて、思わず、指でつまんで、もみほぐし、指にうつった茶の香りをいっぱいに吸い込みたくなる。

自分で煎れるスタイルなので、お湯の量も、むらす時間も、深さも、色も、好みのままだ。

すべてが、おもてなし。

 

 

目も舌も心も、夕焼けの中。

至福の一服。

 

 

浜田えみな

 

画像は、この日、ご一緒した中山真弓さんの撮影です。

 

虎屋茶寮 

 

 

これまでのおもてなし

 

 

3と7のつく日に、おもてなしの心で連載します。