ライオンズゲートが閉じるという2022年8月12日は、水瓶座の満月だった。

 

獅子座の父に起こったこと。

私に起こったこと。

行動したこと。選択したこと。受け取ったこと。

 

その記録です。ヤマなしオチなし日記。

おそらく3~4回連載予定。

 

◆発熱外来前夜

◆朝

◆受診

 

****************

 

◆発熱外来前夜

 

8月11日 山の日。

デイサービスから、いつものように帰ってきた父は、庭の植栽を見たり、水やりをしたりしていた。

 

私は、自室でやることがあったので、それに没頭していたら、どうやら、父は、寝ている気配。

 

(ごはんは?)

 

父は認知症なので、行動パターンが一定せず、いったん寝て、起きてから、ごはんを食べることもあるので、すぐに起きるだろうと思い、そのままにしていたが、しばらくすると、セキが聴こえてきた。

 

最初は、気にならない程度だったが、しだいに、回数が増えてきた。

そのうち、放っておけない頻度になっている。

 

(…………)

 

意を決して、マスクをしっかりつけ、非接触型の体温計をにぎりしめて、父の寝室へ。

 

「お父さん、大丈夫? のどが痛いの? お水飲む?」

 

声をかけて、様子を見ると、目に力がない感じ。

 

(これは……)

 

と思いつつ、おでこで検温。

 

(37.8!)

(やばいかも!)

 

慌てて、父の寝室を飛び出し、手指を消毒し、室内に消毒スプレーをまき散らし、買い置きしている空間除菌のポットを、すべて開封して、父の寝室その他に設置。

 

時計を見ると、20:00すぎ。

近隣の発熱外来の受診方法を、ネットで検索する。

 

HPに詳細が書かれていて、それによると、土日祝日もOKで、予約なしに並ぶ方式で、20:00までに入れば、必ずその日中に検査が受けられるとのこと。

手が足りないので電話での問い合わせはせず、直接来院してくださいと書かれていた。

 

もう少し早く気づいていれば間に合ったが、時間が過ぎている。

 

(このまま、朝まで自宅で大丈夫なのか?)

(…………)

 

救急診療に連れていくかどうか迷い、寝ているのに動かすほうが悪化しそうだと判断し、鎮痛解熱剤を飲ませ、翌朝、様子を見て連れていくことにする。

 

数年前から私は、認知症を発症した父と同居し、昼間はデイサービスに頼んで、自宅介護と仕事を両立している。

夫と長女は、2キロほど離れたところに住んでいる。

長男は、4月から社会人になり、広島に赴任している。

 

車の運転ができないので、夫に電話をして、発熱外来に連れていってもらえるか確認する。大丈夫とのことで、とりあえず安心。朝を待つ。

 

◆朝

 

熱を測ると、36度8分になっていた。

セキもそんなに出ていない。

大丈夫かと尋ねると、大丈夫だと答えるが、認知症なので、あまり信ぴょう性はない。

 

ごはんを用意すると、全部食べたので、ほっとする。

 

(大丈夫だろうか?)

 

発熱外来に行くかどうか、一瞬考えるが、陰性だと安心なので、連れていくことにする。

ケアマネージャーのOさんに連絡。

 

というのも、父は、デイサービスと自宅の往復のみで、外出はしていないため、感染するとすれば、施設の可能性が高い。

施設関係者で症状が出ている人などの連絡が入っていないかを確認すると、誰もいないという。

とりあえず、発熱外来を受診することと、結果がわかりしだい伝えることと、陰性であってもデイサービスは休ませる旨を伝える。

 

発熱外来のクリニックに併設されているデイサービスは、父が最初にお世話になったところで、今も、週に一度お世話になっている。

そちらにも、父の状況を伝え、同様の症状が出ている利用者さんがいないかどうかを確認したところ、そういう連絡は入っていないとのことだった。

 

あわせて、発熱外来の受付場所や、混雑がどのくらいかなどを確認すると、デイサービスの利用者は、優先的に検査してもらえるというありがたいご配慮で、クリニックではなく、デイサービスの入り口に行けば、連れていってもらえるとのこと。

 

1時間ほど前に行って並ぶつもりだったが、通常の時間でよくなったので、主人に電話したところ、

 

「車のリモコンの電池が切れて、車が動かない! コンビニに電池が売ってなかったら、ホームセンターが開くまで無理」

 

という、信じられない事態。

幸い、コンビニに売っていたので、無事に車は動いた。

なぜ、今、このタイミングで、そんなことが起こるのだろう?

 

主人が来るのを待つあいだに、父の着替えを準備する。

検査等で、どのくらい待つかわからないので、少し迷って、初めて、父に介護用のおむつをはかせることにした。

ずいぶん前に、いざというときのために買ったまま、押し入れの中で眠っていたものだ。

体がしんどいからか、嫌がらずに言われたままに履いてくれたので、ほっとする。

 

◆受診

 

早朝にもかかわらず、クリニックの駐車場は、第5まで満車。

とりあえず、入り口付近で降ろしてもらい、クリニックの隣のデイサービスの施設へ向かう。

発熱外来の受付には、長机が置かれ、受診票を記入する人と、呼ばれるのを待っていると思われる、予想をはるかに上回る人の姿があり、目を疑う。

 

(いったい、何人いるのだろう?)

 

重篤そうなかたはいないが、みなさん、しっかりとマスクをして、受診票を握りしめ、沈鬱なおももちで、パイプ椅子に座っている。

 

この場所にいるだけで感染してしまいそうだ、と思いながら、デイサービスのインターホンを鳴らして、名前を告げると、職員が風のように奥から現れ、父に声をかけ、デイサービスの施設から、連絡通路で、病院側へ誘導してくれた。

私は、迷路のようなバックヤードを、後ろからついていく。

 

待合室に来て、さらにびっくり。

元は、廊下と思われる場所にも、ぎっしりと診療を待つ人が並んでいるのだ。

この人たちが終わらないと、外で待っている人は中に入れないのだとわかり、尋常ではない数に、衝撃を受けた。

 

(いったいどのくらい待てば検査をしてもらえるのだろう?)

(しかも、みな、発熱し、症状があるから来ている人だから、体調が悪いのに、横にもなれず!)  

 

会話が耳に入ってきて、なぜ、こんなに人が多いのかがわかった。

お盆休みで、開いている発熱外来が少ないこと、インターネットで調べて、遠くからやってきたこと、市内で検査を受けたい人が、全員ここに来るのではないかと言う声も。

 

そんな、タイミングの悪い日に来てしまったのだ。

セキこんでいる人もいないし、全員、マスクをしているけれど、父を含め、症状がある人達ばかり。

 

(ここにいるだけで、感染するー―――!)

 

もう逃げだしたいくらいだ。

そんななかで、看護師さんたちは、てきぱきと対応されているし、ちらりとのぞいた診察室で、老齢の先生は、耳の遠い患者さんに大きな声で説明するためか、マスクを下まで下げて、話をされているので、そのことにもびっくり。

 

(先生が、マスクなしで話している!)

(もしかして、室内は、高濃度の感染防止対策がされているのだろうか?)

 

父の名前が呼ばれ、看護師さんから問診票をはさんだクリップボードを渡されたので、簡単な項目を記入する。

時計を見ると、9時を過ぎたので、職場に連絡を入れ、休暇を申し出ると、すでに朝から、家族が感染したため、濃厚接触者になった職員が3名。検査結果待ちの職員が1名いるとのこと。

てんてこまいの様子が伝わってくる。

 

ほどなく、父の名前が呼ばれ、一緒に診察室に入る。

 

抗原検査をすると言われ、綿棒みたいなものを父の鼻に入れて抜き、結果がわかるまで外で待つようにと言われる。

外に出ると、さっきまで座っていた場所には、誰かが腰を掛けていて、空いている場所がないので、父を隅に連れていき、待たせる。

 

名前を呼ばれ、再び、診察室に入ると、開口一番、

 

「陽性や」

(がー―――――――ん)

 

父は明日から10日間、自宅待機になること、濃厚接触者なので私も出勤できないこと、職場の引き出しの中の未処理の仕事のこと、人に説明できる状態になっているかということ、父は、いったい、どこで感染したのだろう? というようなことが、一気に衝撃派となって、飛んできた。

 

(熱も下がっているし、ワクチンも4回とも接種しているし、デイサービスで、父以外の感染者はいないのに!)

(なぜ、陽性?)

 

「先生、私は? 私も感染しているのでしょうか?」

「症状は?」

「ありません」

「抗原検査では出ないから、PCR検査をしないと」

「…………」

 

あふれかえっている診察待ちの人々をみまわす。

 

(父は、デイサービス利用者枠で優先的に診てもらえたけど、私は?)

(最後尾から、並びなおし!?)

 

「最初から並びなおすのですか?」

 

と尋ねると、一瞬、沈黙があり、私と父の顔を眺め、

 

「保険証持ってる?」

「はい」

「カルテ作ってやって」

 

先生が、看護師さんに、私のカルテを作るよう指示してくれた。

しかし、

 

「今日やっても、たぶん出ない。2日後くらいが望ましいな」

「そうですよね。今やっても出ないですよね。週明けくらいでしょうか?」

「月曜日は、どえらい人やろなあ。どこもお盆休みで、開いているところがないから」

「利用者の家族は、普通に並ばないといけないんですよね?」

「そうや」

「…………」(ですよねー)

 

反応が出ない検査をしても仕方がないし、症状が出れば、どうせ発熱外来に来ることになる。

これ以上、この場所にいるほうが、感染の危険率が高まると判断し、検査を受けずに、一刻も早く帰ることにした。

 

父は、抗原検査陽性。

爆弾か地雷みたいなものだ。

病院の外で、薬が処方されるのを待つようにと言われ、外に出る。

発熱外来を待つ人たちとは別の場所に、いくつかパイプ椅子が並んでいるエリアがあり、そこで名前を呼ばれるのを待つ。

 

(ケアマネさんに電話しなければ!)
(職場に、父が抗原検査陽性だったことを連絡しなければ!)

(駐車場が空いていないので、付近を周回している夫にラインしなければ!)

 

しばらくして、看護師さんが薬を持ってきてくれる。お金は公費負担なので不要とのこと。

錠剤が4種類、5日分を処方されている。

症状がなくなれば飲まなくてもいいし、再受診もしなくていいとのこと。

 

(余りますように!)

(私に症状が出たら、これを飲めばいいのだ)

 

***

 

帰宅する前に、スーパーに寄り、食料などを買ってきてもらうよう、夫に頼む。

 

車で待ちながら、昨夜から起こったことを反芻しているうちに、のどが気持ち悪いような気がしてくる。

症状はないと感じるものの、これから、抗原検査陽性の父と生活を共にするのが、だんだん不安になる。

 

さらに、症状が出たときのことを想定する。

 

父がいるので、開院の何時間も前に並ぶのは無理。

車も自転車もないので、自力で行くのは無理。

 

無料の検査所や、市販の検査キットを販売している薬局を、ネットで検索したが、アクセスが集中しているとのことで、接続ができない状態。

 

何度かチャレンジをして、近隣の処方箋薬局のチェーン店を見つけ、とりあえず、そこで医療用の検査キットを購入することに。

 

よほど重症にならない限り、発熱外来には行きたくないと思った。

 

(つづく)

 

【水瓶座の満月(2)】

 ◆帰宅

 ◆救急車

 ◆病院着