川が生きている
その言葉を耳にしたとたん、
石の脈動が
伝わってくるような気がした。
川が生きているから、
石が生きている。
* * *
目次
◆夜行バス
◆東寺と天照
◆ジャパネスク
◆石積み:いつでもどこでも誰とでも、そしていつまでも
◆わがままな二人
◆ごきげんな二人
* * *
◆夜行バス
ある時は天川村、ある時は伊勢神宮、ある時は犬鳴山、ある時は出雲大社で、大きな目と小さな胸が数割増しにふくらむ、キラキラの感動体験更新中の浜田えみな!
10月12日(土)は、抜ける青が広く高く冴えわたる京都・東寺(とうじ)の境内で、日本で最初のロックバランスアーティスト・石花ちとくさん が、世界遺産・東寺から世界に発信する「石花」(ロックバランシング)を創りあげる貴重なシーンに立ちあわせていただいた。
待ちあわせは、JR東寺駅に十時。
お弟子さんだというMさんも東京からおみえになっていた。
「おはようございます。お疲れ様です。初めまして。浜田えみなです」
(どきどき)
「ちとくです。よろしくお願いします」
「今日は夜行バスでおみえになったんですよねーっ。朝早くお着きになったんですよね? だいぶ時間あったんじゃないですか? どこか、まわられてたんですか?」
「大阪まで行っちゃって」
「え?」
「起きれなくて」
「え?」
「誰も起こしてくれないんだもん」
(…………)
「ほんとにですか? アナウンスとか流れてたんじゃないですか……」
「ぜんぜん、気づかなくて、気づいたら大阪!」
(…………)
夜行バスでやってきて、寝過ごして大阪まで行ってしまい、電車で戻ってきたという、日本を代表するロックバランスアーティスト・ちとくさんは、道具が入っていると思われる小型のキャリーバッグをゴロゴロと引いて若干へろへろ。
新幹線でやってきたというMさんは、リュックサック一つでさっそうと立っていた。
(師匠が夜行バスで、弟子が新幹線!?)
◆東寺と天照
ちとくさんとMさんは、10月12日から二日間に渡って開催される、
〈京都市全域を会場にした、同時多発的地域フェスティバル”未来フェスin京都」で「石花会ワークショップ」を行うため〉
に、遠く東京からお見えになっていた。
ちとくさんと私は、SBAシンボリスト・村松恒平先生つながりだ。
後述するが、ちとくさんは小説家でもあり、一方的にちとく作品ファンである浜田は、著書にサインをしていただこうと、ペンと共に『火星パンダちとく文学』をカバンにしのばせていた。画期的な仕掛けがふんだんに施され、一粒で何度でもおいしい掌編集だ。編集は村松先生。
サインは、ランチの後にでもお願いするとして、まずは東寺。
今回、東寺を指定したのは、ちとくさんだったので、寺社仏閣に造詣が深いと思いこんでしまったけれど、それは「とんでもない間違い」だったことがだんだんわかってくる。
「“アズマデラ”だと思ったら、ちがうんだよね」
(アマテラス?)
天照ってなんだろう? 東寺と関係があるのだろうか……? と思いかけた瞬間、
(ああ、東をアズマと読んでいたということか!)
とわかった。
世界遺産である京都の東寺を「アズマデラ」と読む人には初めて出逢ったけれど、地名は難しい。関東では、アズマと読むほうが一般的なのかもしれない。関西に住んでいるからあたりまえのように「トウジ」と理解しているけれど、初めて漢字だけを見れば、ヒガシデラだと思う人もいるかもしれない。
……と、思うことにする。
東寺の南大門が見えてきた。青い空に映える豪壮な桃山形式の門。
ゆがみや狂いもなくはめこまれ、構造を支える組物の美しさや、蟇股の彫り物などは、いくら観ていても飽きない。
が、
ちとくさんはスルー。
(あらら)
◆ジャパネスク
門をくぐると、右方向に五重塔が見え隠れする。
「おおーっ キョウトーーーっ!!! ジャパニーズーーっ!!! あれをバックに石を積みたい!」
とつじょ、テンションがあがって、嬉々とするちとくさん。
「外人にウケるようなビジュアルで写真撮りたい」
「やっぱ、五重塔だね」
(ガイジン?)
(なんでガイジン?)
会話を進めるうちにわかってきたのだけど、ロックバランシングは海外では、とてもメジャーで評価も高く、アートとして確立しているそうだ。
ちとくさんがフェイスブックに掲載する石花作品は、海外のロックバランスアーティストたちに絶賛されているのだった。
言い換えれば、日本ではまだ、それほどメジャーではない?
というか、ちとくさんしかいない?
すなわち、ちとくさんは、
【日本のロックバランシング界のパイオニア】
なのだ。かっこいい!!
どうやら、東寺を選んだ目的は、
〈せっかく京都まで身銭を切って来たのだから、ここは一発、ジャパネスクな石花アートで「外人に絶賛される」ものを創って発信するため〉
だとわかった。
午後からは、ワークショップの開催があるので、時間にも制限がある。
「東寺に来たのは、それが目的なんですね! 了解です。では、さっそく場所を探して歩きましょう!」
というわけで、三人で境内探訪。
「おおーーーっ あれいいっ あそこで積みてーっ」
と、ちとくさんが叫んだのは、東寺の本坊。
「あの、白いのがいいよね。地面に石積んでも、写真だと色が似てるから、同化して、よくわからないんだ。バックが白だと映えるから、あそこで積みてーーっ」
「大丈夫じゃないですか? はしっこで積ましてもらって写真撮るだけならイケますよ。頼んでみましょうか? ほら、事務所って書いてますよ。ちとくさん、何かチラシか名刺、もってはります?」
枯山水の白石に飛び込むわけじゃなく、通路の部分にそっと積んで写真を撮るだけなら、頼めば許してくれそうな気がする……けれど、あつかましい浜田とちがって、シャイなちとくさんは、「もういい」というので(笑)、別の場所を探して足を進めた。
◆石積み:いつでもどこでも誰とでも、そしていつまでも
「あそこに石が!」
「いい石がある」
(!)
工事中なのかなんなのか、門の前に積まれた石の前で、ちとくさんは石を選び始めた。
(えーーーーーーーーーっ)
Mさんもやり始めた。
(ええーーーーーーーーーっ)
確かに、誰のジャマにもならないし、許可もいらないかもしれないが。
シンケンそのもの。
「できた!」
「すごいーーーーーーーーーーーっ 写真撮っていいですか!!」
と、わたしが、ごそごそとカメラをかまえて、どんなふうに撮ろうかと構図を考えている間に、
「あっ!!!!!!」
本当に、なんの前触れもなく、一瞬にして、あとかたもなく崩れてしまった。
(…………)
それは、なんというか、石が、もう、その形でいることに満足して解き放たれたというか、もしくは、
〈だるまさんがころんだ〉
みたいに、いっせいに散って遊びに行ってしまったような。
「今日は、風が強いから」
「屋外じゃなあ……」
石花アートの弱点は、屋外では強い風などでバランスが崩れてしまい、あっというまに崩れてしまうことだった。唯一無二の一点なんだなあと思った。
(がっくり)
してしまった私は、ことのときは、まだ、ロックバランシングが何なのか、ぜんぜんわかっていなかった。
東寺の境内を歩き、作品を創るちとくさんを観て、ちとくさんと話をして、とても大きなことに気づいた。
そのことを、これから書いていく。
◆わがままな二人
五重塔をバックに入れた石花アートをどこに創るか?
どうやったら、ガイジンが喜ぶジャパネスクなアングルをとらえられるか?
ちとくさんの歓心はその一点のみ。
地面に作品を創ると、アングルが低すぎて、五重塔の全景は入らない。
カメラマンも兼ねるMさんは、寝転がったり斜めになったりして、ベストアングルを探している。
何か台のようなものか、塀か柵のようなものか、ベンチのようなもの……。
(あった!)
恰好のポジションに、〈それ〉はあった。
まさに、「ここでやってくれ!」と言わんばかりのロケーション。(それがどこかは、まだナイショ)
さっそく、キャリーバッグを地面に倒し、「石花セット」を取り出しはじめるちとくさん。
石積みは、
〈いつでもどこでも誰とでも、そしていつまでも〉 だ。
タッパーのようなものに、プチプチに包まれた石が入っている。
「わあ……」
大振りの、表情豊かな石たちが、ごろごろ。
「この石いいですね!」
シマシマの地層がそのまま映し出されたきれいな石が、すぐに目に留まった。
「いい石でしょーっ、これは多摩川の石。河岸工事をしていないところのだから、川が生きている」
(川が生きている)
ちとくさんの言葉を耳にしたとたん、川の流れに抱かれて育てられた〈石の鼓動〉が伝わってくるような気がした。
(川が生きているから、石が生きている)
五重塔前の、〈恰好の場所〉で、石を積み始めたちとくさん。
(え、ちょっと待って)
「金堂とか、講堂とか観ないんですか?」
(いやだ、観たい!)
「あ、浜田さん、ぼくらやってますから、観て来てください」
と気を使ってくれるのはMさんだ。
「え、せっかく来たのに観ないんですか? 国宝とかですよ」
ちとくさんは、ここでずっと積んでいたそうだけど……
さあさあ、ちとく・M・浜田の三すくみ!
沈黙を破る浜田。
「Mさん、ちとくさんが積んでいる間に、ぱって観てきましょうよ」
「俺……」
Mさんがリュックを肩にかけ直して、場所を離れかけると
「えーーーーーーっ オレ、一人???」
あわてたちとくさんが、なんとも心もとなそうな顔をするので、噴き出しそうになった。
(え、ひとりやったら、あかんのですか?)
「一人は困る。誰かに何か言われたら、オレ一人でどうしたらいいんだよ」
「何も言われないですよ~。言われても、作品創ってるんですって言えば大丈夫ですよ~」
「いや、無理!」
「あ、俺、残ります」
「えーーーっ、みんなで、パッ!って、先に観て来ましょうよ! それからゆっくり創りましょう。わたしも、ちとくさんが創ってるの観たいです!!」
東京から来たお客様を前に、わがまま放題の浜田えみな。
「ここのほかにも、もっといい場所あるかもしれませんよ~。探しながら行ってみましょうよ!!」
その一声で、ちとくさんの足が動き出した(笑)
* * *
東寺は無料で拝観できるエリアと有料のエリアがある。
薬師三尊が鎮座する国宝の金堂や、国宝・重文尽くしの如来・明王・菩薩二十一体が立体曼荼羅を構成している重要文化財の講堂や、瓢箪池を囲む庭園や、五重塔は有料エリアにある。
「どうしますか?」
まさか、ここまで来て、中に入らないで帰ることがあるのだろうか? と思いつつ、念のために確認を取ってみる。
だって、ちとくさんからは、
〈なんとか無料エリアでジャパネスクショットを撮りたそうな気配〉
が、ダダ漏れ なのだ。まさか、ここまで来て、拝観せずに帰るなんてありえない。
幸い、Mさんが、「入りましょう!」と言ってくれて、ちとくさんも不本意ながら、チケットを手にしてくれた。
(ほっ)
さすが、世界遺産だけのことはあり、受付で手渡してくれたパンフレットが、写真も豪華で資料としても秀逸だった。
そして、わたしの目は、開いたページに掲載される数々の仏像写真の中の、「帝釈天様」にくぎづけ。
「めっちゃ男前!!」
りりしい。
思慮深い。
気高い。
観たい観たい観たい。会いたい会いたい会いたい。近くで観たい。傍に行きたい。早く早く!
というわけで、講堂に向かって、すぐにでも駆け出したい浜田。
逸る心を抑え、ちとくさんを伺いつつ、
「Mさん、この人、めっちゃ男前ですよねーーっ」
パンフレットを広げて、帝釈天のバストアップ写真を指差す。
「うんうん。男前! ちとくさん、行きましょうよ」
Mさんがとりなしてくれて、まずは三人で金堂へ(笑)。
◆ごきげんな二人
「うわあ、すごいーーーーーーーっ 金ピカ」
わたしも東寺は初めてだ。
薬師如来、日光菩薩、月光菩薩。
そして、薬師如来の台座の周囲には十二神将が配されている。
光背にも七躯の仏を配した薬師如来。日光菩薩と月光菩薩は、そのおもざしが違う。
小さな十二神将の動きは観ていて飽きない。
が、ちとくさんは、修学旅行の小学生男子より、仏像にも建造物にも関心がない(笑)
と思っていたら……
金堂を出ようとして、端に造りつけられた梯子段に目を留めた。
それは、すすけた急な梯子で、そのまま天井裏へと続いていた。
「おおーーーーーーーーーーっ すげーーーーーーーーーーっ!!!」
「今も、お掃除の時とかは、どなたかが昇るんでしょうね」
「昇ってみてーーーーっ こっちのほうが、ぜったいすごいよな」
(重要文化財の如来様や菩薩様より、梯子???)
そして、梯子段の先が吸い込まれていく金堂の天井奥のぽっかり空いた闇を指さし、満開の笑顔で、あたりに響き渡る大きな声で、
「ぜったい、あそこ、まっくろくろすけ、いっぱいいるよなーーーーーーーーっ!」
(…………)
たしかに。
世界遺産・東寺の、桃山時代の国宝である金堂の天井裏一面に、まるまりあってころがりまわる、まっくろくろすけの姿が、くっきりと浮かんだ……
しかし、続いて入った講堂では、
「オレ、もう飽きた……」
を連発。
密教浄土の立体曼荼羅を構成する仏像たちを観て、またもや、とんでもないことを言いだすちとくさん。
「あーーーっ 近所の寺でも観たことある。これ、ホンモノ? じゃあ、あれはニセモノだったのかー ダマされた」
「えーーーーーーっ ちがいますってーーーーーっ!!! それもホンモノですよーーーーっ!!!」
日本全国に、大日如来は、いったい何体あるのか?
阿弥陀像は何体あるのか?
不動明王は何体あるのか?
仏像におけるニセモノとは何か?
ホンモノとは何か?
ちとくさんの、信じがたい思い違いは、そのままにはしておけるレベルではなかったけれど、そもそも
〈仏像とは何なのか?〉
という〈根源的な概念〉を説明しなければならないので、ちとくさんが飽きてしまうのは見て取れた。
Mさんと浜田は、説明したい気持ちを抑えて、スルー。
というか、フリーズ。
絶句。
ともあれ、浜田は、男前の帝釈天様をかぶりつきで観れて、うっとり。
立体曼荼羅などというゴージャスな「空間」は圧巻としか言いようがない。
世界の東寺はスケールがちがうと思った。
大満足。
さあさあ、これで東寺でやり残しているのは石花だけ! 早く咲かせてーーっ!
(つづく)
というわけで 「石花(ロックバランシング)at東寺」後半に続きます。
ちとくさんの「めっちゃええ言葉」を伝えるつもりで書き始めたのに、あれれ、おかしいな。前半しか読まなかったら、ちとくさんって、小学生男子……?(汗)
いえいえ、ちがいます。
後半に期待してください。泣けますよ。めっちゃいいこと言わはるんです(感涙)
ちとくさんのウェブページ、小説作品の紹介も、後半にまとめて掲載しますので、お楽しみに(^^)
気になる人は、「石花ちとく」 「火星パンダちとく文学」で検索を。
ちなみに、浜田がお客さまのおもてなしも忘れて、心を奪われた帝釈天様は、 〈日本一のイケメン帝釈天〉とか、 〈仏像界一のカリスマ帝釈天〉などと言われているそうです。
「帝釈天 東寺」で画像検索を。
浜田えみな









